ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ザ・ケルン・コンサート (The Koln Concert)

2006年04月22日 | 名盤


  ジャズ・ピアノが好きです。
 とくにピアノ・トリオが好きです。
 でも、同じジャズ・ピアノでも、ソロ・ピアノは好きではありませんでした。
 なぜでしょうか。
 ベース、ドラムスのリズム隊がいないので弱々しいような気がしていた。(というより、やはり、ベースもドラムスも聴きたい)
 ピアノだけだと単調なので、飽きるのではないか、と思っていた。
 ソロだとピアニストの独りよがりになるのではないだろうか、または、ただの音の垂れ流しに終わるのではないだろうか、と思っていた。
 へんにクラシック寄りの演奏になるのではないだろうか、と思っていた。


 今では、これらの理由は食わず嫌い(聴かず嫌い、かな)からきていたものだ、と言えます。
 その「食わず嫌い」が治ったのは、キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』を聴いたからです。『ザ・ケルン・コンサート』が、「ジャズのソロ・ピアノはつまらない」という思い込みを打ち破ってくれたのです。


     
 
 
 ベースやドラムスがいなくても、全然弱々しくなんかありません。キースのピアノは、波のように押し寄せる強力なグルーヴ感に満ちています。時にはハードに、時にはリリカルに。
 感情表現が豊かなので、聴いているぼくの感覚も刺激されっぱなしです。
 またキースの奏でるメロディーの素晴らしいこと。クラシックのようにも、ゴスペルのようにも聴こえるそのメロディーは、荘厳だけれども親しみやすい。
 そしてキースから紡ぎ出される音楽の1曲1曲の中では、物語が語られているようです。それが2部(4曲)にわたって続くさまは、まるで絵巻物を見ているかのよう。いや、絵巻物が描かれている様子を見ているよう、と言ったほうがいいのかも。

 
 これがなんと、完全なインプロヴィゼイション(即興)というんですから、驚くばかりです。
 これをジャズと呼ぶかどうかは異論のあるところでしょうが、この演奏が即興で行われたことは確かです。キースは即興でこの感動的な音楽を生んだのですね。
 まるで静かに瞑想しているかのような演奏です。しかし反面、静かに、しかし激しく炎が燃え盛っているかのような演奏でもあります。
 こういう演奏だから、ピアノ1台のみの演奏なのにもかかわらず、寂しくもないし、飽きないんですね。


     
 
 
 この日のキースは、前夜から一睡もしていなかったそうです。そればかりか、早朝からの長時間にわたる移動で、疲労困憊していたということです。
 しかも、ピアノの調子、音色とも決して良いとはいえない状態だったんですね。
 しかし、とてもそんなことを感じさせない演奏ぶりです。


 このアルバムのプロデューサーであるマンフレート・アイヒャー氏はこう言っています。
 「今回のツアーでも、演奏地が変わるたびに、キースがその土地で何を感じ、何を考え、それがどのような音楽となって現れてくるかを楽しめた」
 つまり、キースは、音楽のことだけを考えてピアノに向かっているのではなくて、キース自身の感性のアンテナに反応するさまざまなことをも音楽に反映させようとしているのですね。



◆ザ・ケルン・コンサート/The Köln Concert
  ■演奏
    キース・ジャレット/Keith Jarrett (piano)
  ■録音
    1975年1月24日 西ドイツ ケルン市、オペラ劇場
  ■リリース
    1975年11月30日
  ■プロデュース
    マンフレート・アイヒャー/Manfred Eicher
  ■収録曲 (All Composed by Keith Jarrett)
   ① ケルン、1975年1月24日 パートⅠ/Köln, January 24, 1975 PartⅠ
   ② ケルン、1975年1月24日 パートⅡa/Köln, January 24, 1975 PartⅡa
   ③ ケルン、1975年1月24日 パートⅡb/Köln, January 24, 1975 PartⅡb
   ④ ケルン、1975年1月24日 パートⅡc/Köln, January 24, 1975 PartⅡc



コメント (4)
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