ジャズには夜が似合います。だから、ジャズを語るのも本当は夜のほうが良いかもしれません。
唐突ですが、「良い演奏」ってどういうものでしょう。いろんな答えが出てくるでしょうが、ぼくの考える条件は、大雑把に括って「そこに感動があるかどうか」です。
素晴らしいテクニックがあっても、ハートが伴っていなければ感動は生まれないでしょうし、ハートだけが突出していても、それを聴衆に伝えるテクニックがなければ演奏者の思いは伝わりにくいでしょう。
良い演奏は聴衆を感動に導きます。感動した聴衆は熱い反応で演奏者に応えます。すると演奏者はさらにボルテージの上がった演奏を繰り広げることがしばしばあります。聴衆が演奏者を育て、燃え立たせているのですね。
マイルス・デイヴィス・クィンテットのライヴ・アルバム「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の中に収められている「星影のステラ」には、感極まったある聴衆のダイレクトな反応が記録されています。緊迫感にあふれた見事な演奏ですからね、ムリもありません。(だからライヴ・アルバムはやめられないんです~)
さて、キース・ジャレットに「スタンダーズ・ケルン・コンサート/オール・オブ・ユー(Keith Jarrett Trio/Tribute)」という、これもライヴ・アルバムがあります。
ぼくはこのアルバムDisc2の5曲目に収められている「オール・ザ・シングス・ユー・アー(All The Things You Are)」が大好きです。もっと詳しく言うと、「演奏と、曲の途中で沸き起こる大喝采」がとても好きなんです。
■キース・ジャレット・トリオ 「オール・オブ・ユー」
(Keith Jarrett Trio/Tribute)
■録音
1989年10月15日 西ドイツ、ケルン・フィルハーモニー
■録音メンバー
キース・ジャレット/Keith Jarrett (piano)
ゲイリー・ピーコック/Gary Peacock (bass)
ジャック・ディジョネット/Jack DeJohnette (drums)
◆オール・ザ・シングス・ユー・アー/All The Things You Are
◆発表…1939年
◆作詞…ジェローム・カーン/Jerome Kern
◆作曲…オスカー・ハマースタイン2世/Oscar Hammerstein Ⅱ
曲はキースのイン・テンポでのソロ・ピアノで始まります。音が目に見えるかのような鮮やかさで迫ってきます。ぼくはただ圧倒されるばかり。
美しい。
情熱的で、優美で、神々しささえ感じられるソロです。聴衆は、おそらく息を呑んでひたすら聴き入っているのでしょう。
そしてゲイリー・ピーコック(Bass)と、ジャック・ディジョネット(Drums)が合流すると、まるで魔法が解けたかのような熱狂的な拍手と悲鳴が、洪水のようにスピーカーからあふれ出てきます。
感動的でさえあるこの拍手の洪水で、ぼくの興奮もさらに増してゆきます。
この曲(演奏)からは、「演奏者と聴衆は二人三脚」である、ということを教わりました。
なお、この「オール・ザ・シングス・ユー・アー」は、ジェローム・カーン(作詞)とオスカー・ハマースタイン2世(作曲)のゴールデン・コンビによって1939年に作られた、永遠に残るであろうスタンダード・ナンバーです。
もともとはミュージカル「ヴェリー・ウォーム・フォー・メイ」のために書かれましたが、アドリブをするための曲かと思わせられるほどの音楽的面白さに満ちているところから、今ではインストゥルメンタル奏者からも絶大な人気を集めている、名曲中の名曲です。
キース・ジャレット・トリオ「オール・ザ・シングス・ユー・アー」