ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

音楽をやっていて感動したこと

2009年04月16日 | 価値観
 
 高校で本格的に音楽をやり始めて、※十年。最初はドラムス志望だったけれど、縁あってベースに転向しました。
 ドラムって見た目が派手でしょう? 吹奏楽部のデモンストレーション演奏を見て、「これはモテる!」(こんなんばっかし・・・汗)と踏んで入部したわけですが、一年間は地味~な基礎練習ばっかりでした。そうこうするうちに地元のビッグ・バンドに誘われたのが契機となってベースを弾きはじめたわけなんですが、その頃の僕は背伸びして一生懸命オトナの仲間入りをしていた、ということと、とにかくモテようとしていたことばかりで、動機としてはかなーり不純なものだったんですね~


 だからベースもジャック・ブルースやティム・ボガートらの影響を受けてやたら早弾きしようとしていたし、フロントよりも目立とうと、虎視眈々とそのチャンスを狙っていたんですね。つまり、自分がうまけりゃ良かったわけです。


 ある晩、先輩に誘われて、「Four Us」というグループの演奏を聴きに行きました。メンバーは4人とも日本在住のアフリカ系米国人。経歴を聞くと、ホィットニー・ヒューストンのバックを務めていた、とか、ビリー・プレストンのバンドにいた、とか、相当なキャリアを持った錚々たるメンバーばかりだったんですね。
 彼らの演奏は4人ともがそれぞれ見せ場を作り、汗をダラダラ流しながら全力を出し尽くす、実にホットなものだったんです。月並みですが、もう、とっても楽しかったです。
 それを見てぼくは、「今までの自分は間違っていた」「まず楽しい演奏をしなきゃだめなんだ」「そのためには100%以上の力を出さねば」「そしてお客を何が何でも楽しませて帰さなきゃ」・・・。
 他人の生演奏を聴いて感動したのは、厳密に言えばこの時が始めてだったかもしれません。それまでのぼくは自分が弾いて目立つことだけで満足でしたから。


 それから何週間後だったでしょうか。「M」と言う店で大阪から来たシンガーのバックを務めることになったんですが、とにかくその時に心がけたのは「全力を尽くそう」ということでした。それはベースを弾きまくることではなくて、全力で「音楽全体に取り組んでみよう」ということだったんです。
 それをテーマに2セット2時間あまりのステージが終わりました。するとある一人の男性がツカツカと近づいてきて、いきなりぼほくの手を握るなり、「良かったよ、良かったよ」と満面の笑みで言ってくれたのです。この時に、全力を出そうとする自分の姿勢がお客に伝わったこと、音楽にはそういう人を動かすエネルギーがあるんだ、ということを改めて知ったんです。


 音楽の持つエネルギーのスゴさを思い知った2回目は、それから何年かのちのことですが、「A」というお店にぼくがリーダーのピアノ・トリオで出させて頂いた時のことです。たしか連休の初日だったと思うんですが、観光地にあるその「A」は早い時間から満席でした。MCもぼくが取っていたのですが、つれづれに聞いてみると、東京を始め関東、甲信越、東北、九州と、いろんなところから集まってくださってたんですね。
 貴重な休みを使ってわざわざ聴きに来て下さったのに燃えないわけがありません。いつも以上にシャツが汗だくになるまで弾き倒しましたよ~(もちろん自分だけが目立つ、というものでなく、トータルなサウンドを意識しつつ)。MCもなぜか絶好調でした。勝手に言葉が口から出てくる感じで、客席も沸きっぱなしの笑いっぱなしです。こんなにMCで受けたことも珍しい。


 そして全セットが終わってからのこと。満席だったお客が一斉にレジへ向かうんですが、全組のお客が「楽しかった(^^)」「縁があったらまた来たい」「今日ここへ来てよかった」といって、握手を求めて来て下さったのです。これには感動しました。全力を出し切ったプレイ・音楽にはこんなに人の表情をも変えることのできる凄いエネルギーがあるんだなあ、と。ウケたのが嬉しくないわけじゃありません。ウケたのももちろん嬉しかったですが、それ以上に「遠方から休みにわざわざここへやって来たお客になんとか喜んで頂こう」という思いが通じたこと、そういうエネルギーが音楽から出ていたことに感動したんです。
 亡くなったぼくのボスは「聴いてくれる人に感動を与えるのがわれわれの役目や!」と常々言ってましたが、その実、聴いてくれる人から感動を頂いてもいたんですね。


 そういう演奏をするには、これはぼく自身の経験から述べることですが、謙虚であること、反面開き直って101%の自分を出すこと、感謝の気持ちを持つこと(出させてくれた店に、来てくれたお客さんに、一緒に演奏してくれるメンバーに、ベースを弾ける今の境遇に・・・いろんなものに感謝です)
 逆にいいコにばかりなっても物足りなかったりするんです。ぼくのボスは「ステージではキレろ!」とよく言ってたし、「良い子ちゃんでは人を驚かすような演奏はできへんで」なんてこともよく言ってましたね。
 つまり、ステージではつねに101%の力を発揮しつつ、かつヤンチャでありつつ、そしてステージから降りたら人間性で勝負、といったところではないでしょうか。


 ともかく、音楽をやっていてこういう感動を得られたのは、ぼくにとっても大きな宝物になっていると思います。大事にしておきたい思い出です。



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コメント (8)
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