ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

1964年2月12日のマイルス・デイヴィス・クィンテット

2009年04月15日 | 名盤

  
 1964年2月12日、マイルス・デイヴィス・クィンテットは、ニューヨークのリンカーン・センター内にあるフィルハーモニック・オーディトリアムでライヴを行いました。この時の演奏を収めたものが、『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』と、『フォア&モア』であることはよく知られていますね。『マイ・ファニー~』には比較的スロー、あるいはミディアム・テンポの曲が多く、『フォア&モア』はアップ・テンポのハードな曲を主体としています。


     
     「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」


 ぼくは、この「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」というライヴ・アルバムの持つ張り詰めた空気がとても好きなんです。
 時には訥々と、時にはロマンティックに、時には雄弁に語っているマイルスのトランペットの素晴らしさは言うまでもありません。
 
 
 研ぎ澄まされた音はいやがうえにも緊張感を高めています。
 バックの面々のスケールの大きな演奏は驚異的だし、非常に自由で美しい。
 とくにこのアルバムで聴くことのできるハービー・ハンコックの叙情的で創造的なピアノ、何度聴いてもほれぼれします。


 たとえば雨の降っている夜中だとか、しんみりと孤独を感じている夜などにこのアルバムを聴くと、体の芯までジャズが染み渡っていくような気がします。
 3曲目の「星影のステラ」のトランペット・ソロの最中で、感極まった聴衆が叫び声をあげているのが聴こえますが、この声すら感動的だなぁ、と思ってしまうんです。
 
 
         
 
 
 さて、『フォア&モア』です。
 1曲目の最初からとてつもないハイ・テンションでスタートするこのアルバム、息をもつかせぬ緊張感が最後まで続きます。この緊張感を支えているのが、トニー・ウィリアムスの豪快で知的なドラミングだと思います。トニーの叩き出すリズムの切れ味って、なんて鋭いんでしょう。何も考えずに、そのリズムに体を委ねたくなります。


     
     「フォア&モア」


 マイルスとジョージ・コールマンのホットなブロウは魅力たっぷり。ハービー・ハンコックのピアノは、バッキングではモーダルな動きを見せつつ、ソロになると実に饒舌でメロディック。ロン・カーターの力強いベースはドラムとともに強力なグルーヴを生み出しています。


 気持ちの中にじんわりと染み通ってゆくジャズもいいけれど、体の芯から揺り動かされるようなハードなジャズを聴くのもまた楽しいですね。
 
 
 マイルスの作品を聴いていると、つくづく「メンバーの人選も音楽性のうち」だと思います。それぞれが奔放にプレイしているにもかかわらず、それがマイルスの音楽を具現しているのですから。
 マイルスの期待に応えるメンバーの実力も素晴らしいですが、彼らの音楽性を見抜くマイルスの確かな眼力にはさらに感服させられます。バンマスたるもの、こうでなくっちゃね。


 凄まじい気合の感じられるこのアルバム、理屈抜きでぼくをコーフンさせてくれるんです。


     
     上段  左=マイルス・デイヴィス  右=ジョージ・コールマン
     下段  左=トニー・ウィリアムス  中=ハービー・ハンコック  右=ロン・カーター
     
 
 いわゆる「マイルス黄金クィンテット」はこの時期より少しあとになりますが、バックにハービー、ロン、トニーが揃ったこの頃からの演奏も素晴らしく、迫力と情緒に満ちていて大好きなんです。
 マイルス・デイヴィスのアルバムは、どの時期のものを聴いても、ジャズの楽しさ、カッコよさ、素晴らしさを感じさせてくれる何かがあるような気がします。



1964年2月12日のマイルス・デイヴィス・クインテット

  ■録音場所
    リンカーン・センター、フィルハーモニック・ホール (ニューヨーク)
  ■録音メンバー
    マイルス・デイヴィス/Miles Davis (trumpet)
    ジョージ・コールマン/George Coleman (tenor-sax)
    ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (piano)
    ロン・カーター/Ron Carter (bass)
    トニー・ウィリアムス/Tony Williams (drums)
  ■プロデュース
    テオ・マセロ/Teo Macero

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◆マイ・ファニー・ヴァレンタイン/My Funny Valentine
  ■リリース
    1965年2月23日
  ■レーベル
    コロンビア/Columbia
  ■収録曲
   [side-A]
    ① マイ・ファニー・ヴァレンタイン/My Funny Valentine (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
    ② オール・オブ・ユー/All of You (Cole Porter)
   [side-B]
    ③ ステラ・バイ・スターライト/Stella by Starlight (Ned Washington, Victor Young)
    ④ オール・ブルース/All Blues (Miles Davis)
    ⑤ アイ・ソート・アバウト・ユー/I Thought About You (Johnny Mercer, Jimmy Van Heusen)
  ■チャート
    1965年週間アルバムチャート最高位  アメリカ(ビルボード)138位

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◆フォア・アンド・モア/"Four" & More 
  ■リリース     
    1966年1月17日   
  ■レーベル     
    コロンビア/Columbia   
  ■収録曲    
   [side-A]     
    ① ソー・ホワット/So What (Miles Davis)     
    ② ウォーキン/Walkin' (Richard Henry Carpenter)
    ③ ジョシュア~ゴー・ゴー/Joshua/Go-Go [Theme and Announcement] (Victor Feldman)    
   [side-B]     
    ④ フォア/Four (Miles Davis)     
    ⑤ セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン/Seven Steps to Heaven (Victor Feldman, Miles Davis)     
    ⑥ ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラヴ~ゴー・ゴー/There Is No Greater Love/Go-Go [Theme and Announcement] (Marty Symes, Isham Jones)  



コメント (8)
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