日本語ぽこりぽこり | |
アーサー・ビナード | |
小学館 |
世の中には、日本のネイティブじゃないのに、日本人より正しい日本を綺麗に使い、し
かも伝統文化にも詳しい外人(もはや外とはいえないほど内を知っている!)がいます。
パックンマックンのパックンとか、デーブ・スペクターとか。でもこの『日本語ぽこり
ぽこり』のビナードさん、最高!言葉に対する特殊な感覚を持っているのでしょうか。
イタリア語やタミル語まで、ごく短時間で会得したようですから。
この題名の"ぽこりぽこり"は夏目漱石の句「吹井戸やぽこりぽこりと真桑瓜」から来てい
ます。こんな句全く知らなかった。というより平均的な日本人で、漱石が面白い俳句をた
くさん作っているのを知っている人がどれほどいるでしょうか。その「ぽこりぽこり」で
すが別の版では「ぼこりぼこり」となっているそうです。濁音と半濁音とでは、受け取る
感じが全く違う。ビナードさんはその違いを感じ取って、元々漱石が一体どちらを書いた
のか知りたがっていますが、自筆稿が残っていないので真相は闇の中のようです。こうい
うオノマトペ(擬音語・擬態語)は日本語には豊富だそうで、それだけいっそう外から見た
人の方が興味を引かれるのかもしれませんが。日本語というか言葉の面白さを再認識さ
せてくれる一文でした。
この立石寺、通称山寺で読まれた芭蕉の名句「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」について
も面白い一文がありました。池袋駅に山寺の写真が張ってあって、そこに芭蕉の句の英
訳が印刷されていたそうです。how silent! the cicada's voice soaks into the rocks.
このsilentがどうも変。無声とか沈黙とか言う意味合いで、蝉がウヮーンと鳴いているの
にこの語は使えない。「人間の喧騒から離れた」静寂という意味の言葉でないと。むし
ろcalmかstillかpeacefulか。学校で勉強した外国語でそういう語感を分かろうとするの
は難しいですね。それだけに、おとなになってから日本語を習得したという、このビナ
ードさんの凄さが分かるし、言葉をそれと同じイメージを持った他の国の言葉に翻訳す
るのは何と難しいことだろうと思います。私など日本語自体の解釈の段階でつまづき
ます。一体ここで使わている「閑か」は「静か」と違うのでしょうか?漢字も難しい!