キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

サマセット・モームを読まないのはもったいない

2012-02-23 14:37:00 | 
サミング・アップ (岩波文庫)
W.Somerset Maugham,行方 昭夫
岩波書店


         高校の頃、英語のリーダーの副読本で、英米の作家や随筆家の短い

         文章をたくさん読まされました。これで英語を読む力がとてもつきま

         した。ジェローム・K・ジェロームやプリーストリーや、中でもモ-ム

         の『サミング・アップ』(その当時出ていた訳書では『要約すると』と

         いうタイトルだった)からの抜粋が多かったような気がします。しかも

         とても楽しんで読んだような。それ以降、モームはかなりたくさん読

         みました。

         
アシェンデン―英国情報部員のファイル (岩波文庫)
W.Somerset Maugham,中島 賢二,岡田 久雄
岩波書店


         特にこの『アシェンデン』はとても軽い短編集で、ユーモアと皮肉が効

         いていて、どんな時でも楽しめます。一次大戦時英国のスパイとして活

         動した作家(モームの実際の体験)の目を通した、様々な国籍の人々の

         様々なエピソードです。「面白すぎるのが欠点」というほどの面白さで

         すが、文章はしっかりしているし、深い文化と歴史的素養に裏打ちされ

         ているので、安っぽくなく、エンターテインメント性と同時に深い人生

         観も感じられる希有な読み物かもしれません。そんなモームなのに、

         割り合と読まれないのはどうしたわけでしょう?ファッションと同じで

         文学にも流行りすたりがあって、また昔に戻ることもあり、そのうちま

         た案外人気が出てくるかもしれませんが。

昔も今も (ちくま文庫)
天野 隆司
筑摩書房


          たいてい読んでいるモームのうちで、この『昔も今もThen and Now』だ

          けはどう言う訳か、読まずにやり過ごしていたのですが、今回初めて

          読んでみると、やはり感心するほど面白い。先入観で現代物かと思っ

          ていたら、りっぱな歴史小説でした。主人公はマキアヴェリ、相手役

          はチェーザレ・ボルジア、面白くないわけがありません。錯綜した政

          治状況の中で対峙する二人の大人物の丁々発止のやりとり。それに

          からまる一癖も二癖もある人々や美女。他の作家では残忍冷酷な、し

          かしヒロイックで格好よいチェーザレや権謀術策の冷徹な人物として

          描かれるマキアヴェリがなんとも人間臭く多少皮肉っぽく描かれてい

          る所が、やはりモームのモームたる所以、モームを読む醍醐味でしょう。
コメント
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