Viola tricolor | |
Theodor Storm | |
Husum Druck |
いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか
火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢に
その夜習つたエリーザベトの物語を織つた
立原道造『はじめてのものに』より
この美しい詩に出てくるエリーザベトと言うのは、ドイツの作家テオド
ア・シュトルムの美しくも悲しい小説『みずうみ』のヒロインです。
そのシュトルムに『三色すみれviola tricolor』という短編があります。
子どものいる年の離れた男性の後妻となった若い女性の苦しみと、
その後の幸せが静かな文章で綴られた美しいお話です。それが何故
『三色すみれ』と言う題名かというと、ドイツ語で三色すみれのことを
Stiefmuetterchen(小さな継母ちゃん)と言うからなんです。英語で
言えばlittle stepmotherでしょうか。何故この花をそう呼ぶのか、ド
イツ人にも分からないようです。継母って、グリム童話なんかでは
継子いじめをする意地悪なものと相場が決まっていますが、この小
さな継母ちゃんは、なついてくれない継子に小さな胸を痛めます。
このお話を読んでから三色すみれを眺めると、以前より一層可憐に
見えます。
もう一つ、ドイツ語で変わった名前がついているのが桜草です。日本で
は、桜に似ているので桜草、英語やゲルマン系の言語以外のヨーロッパ
の言葉では、プリムローズとかプリムラとか、春一番に咲く花という
意味の名前ですが、ドイツ語では『鍵の花』(Schluesselblume)と言
います。アルプスの少女ハイジの中でHimmelschluesselbluemchen
(天国の小さな鍵の花)なんていう呼び方もされているようです。これ
も昔話が元になった名前です。
ある女の子が病気のお母さんに桜草を見せてあげようとしました。でも
摘むと花がかわいそうなので、根元から掘りおこそうとしたとき、妖精
が現れて「あなた、お城の鍵を見つけたわ、その桜草をお城の鍵穴にさ
してごらんなさい」と言いました。女の子が桜草を鍵穴に差し込むと、お
城の扉が開き、中のお宝を家へ持って帰りました。そうして薬や十分な
食べ物を買うことができたので、お母さんはたちまち元気になりました。
こんな話を知って眺めると、桜草もまたとてもいとおしく見えます。
Every child has a beautiful name.
Every Flower has a beautiful name,too.
ですね。