ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

愛媛の先生の授業を参観してきました!!その3(中学校 美術科②2016,11,21)

2017-02-19 09:34:55 | 対話型鑑賞
愛媛県で取り組んでいる事業に、みるみるの会も協力しています。
愛媛の先生方の授業を参観したレポート(その3)をお届けします!



平成28年度地域の核となる美術館・博物館支援事業
児童・生徒の「思考力」を育むファシリテーター育成事業

「庶民の絵画~浮世絵を味わおう~(神奈川沖浪裏 葛飾北斎)」
1年1組 三好研太教諭 美術科(鑑賞)レポート
2016年11月21日(月)14:55~15:45 宇和島市立吉田中学校 美術室

島根県出雲市立浜山中学校 教頭 春日美由紀
(愛媛県美術館・博物館・小中学校共働による人材育成事業②参与観察調査者)


 高原が広がり、放牧も行っている山間部の西予市から午後は一転、海辺の学校へ。私が生まれ育った瀬戸内海とは違い、見渡せども長い砂浜を目にすることはなく、海に落ち込むような断崖が続くリアス式海岸の内海は穏やかで湖のようでした。またその断崖に段々状に開墾されたミカン畑にはオレンジ色のミカンがたわわに実っていました。
 山の子には山の子の「感じ方」が海の子には海の子の「感じ方」があるのだろうなと思いながらそしてその違いにも期待しつつ吉田中学校の門をくぐりました。事実、野村中学校では高原で牧畜を営む家庭の生徒が「牛」を発見し、「どこからそう思ったのか?」と問われて「角があるし、耳の形から牛だと思った。」という生活体験に基づいた発言をしていたからです。

 5時間目の授業の最中に吉田中学校の玄関を入った私の目にまず飛び込んできたのが優勝旗やトロフィーの数の多さです。賞状もたくさん掲げられています。どうやら文武両道の学校のようです。校舎は歴史を感じさせる建物(ちょっと古い?)ですが、掃除が行き届き廊下はツルツルでした。図書室でしばし待機し、授業のある美術室に向かいました。入り口側にスクリーンが準備されプロジェクターで画像が投影できるようになっていました。5校時の終了のチャイムが鳴ってからしばらくすると三々五々生徒たちがやって来ました。1年生なのでちょっとにぎやかで元気です。私たちが教室の後ろにいてもあまり気にすることなくワイワイガヤガヤ楽しそうにしていました。
 
 さて、始業のチャイムが鳴りました。号令がかかるまでに少し時間がかかりましたが、三好先生は温和な方なのでしょう声を荒げることもなく、生徒の行動を見守っていました。そうして代表生徒の声に合わせてあいさつをして授業が始まりました。三好先生が、今日は鑑賞の授業をすることを伝え、作品をスクリーンに映しました。作品は葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》。この絵に関することで知っていることがあれば、と問いかけ、「浮世絵」「江戸時代にかかれた」「昔の日本人がかいた」など、生徒が知っている作品に関する情報を共有しました。この活動については賛否両論あるのかなと思いますが、今回は効果的だったと思います。しかし、その後、ワークシートが配布され「この作品をみて、みてわかることをプリントの1に書いてください。」という指示が出されたのには疑問を抱きました。ここで書かせる必要があったのか?「みる・考える・話す・聴く」の活動を主体としているので、「みた」ことを「話す」に単純に移せばよいのではないかと思うのです。書く時間が惜しいと感じます。実際、生徒たちは「話す」場面になると挙手してちゃんと「話す」ことができていたからです。作品は葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」です。今や日本人なら知らない人はいないのではないかというくらいにメジャーな作品です。でも、どんなに目にしたことがある作品だとしても、仲間と「話す」ことをとおして「みる」ことは初めての体験なのでどんな意見が出てくるのか楽しみでした。「波が立っている」「船が浮いている」「船の中の人が倒れている」などの意見が次々に出されました。ここで、残念だったのが「どこからそう思う?」の問いかけがなかったことです。ここで「どこから?」と問い、生徒が「どこからだろう?」と考えることで作品をもっとよくみることができていたならこの後の展開は少し違ったのではないかと思うからです。「船の中の人が倒れている」という発言の後、その部分を拡大して投影し、「どうして人は倒れているようにみえるのだろうか?何をしているのかな?自分で想像して2のところに書いてください。」と指示が出て、また書かせる時間に・・・。せっかく調子よく話し始めていたのに何で書かせるのかなあ?と残念な思いがよぎります。しかも、このことについて考えさせる意図が汲めません。「どうして?」と訊くのも、実際、人は疑問を感じた時に「どうして?」と尋ねるのが常と思いますが、ここでは「みる・考える・話す・聴く」活動をとおしてAL(アクティブラーニング)につながる「学び」を促進させることに狙いがあるのですから「どこから?」と問わねばなりません。しかも、「どこから」の方が、作品の中に根拠を求めるので、作品をよりよく「みる」ことにつながり、場所を示すので理解を得られやすいという利点があります。また、「どこ」と限定することで客観性も得られます。この「どこから」をどれだけ大切にして対話を積み上げていくかが肝要です。そこがスタートの時から弱かったので、この後の授業の展開をみていても作品を鑑賞している生徒たちをどこに連れて行こうとしているのかがみえにくかったように思います。
 
 「みる・考える・話す・聴く」ことを繰り返しながら作品をみていくのに、正しいゴールはありません。どんな解釈も保証されます。しかし、必然的にたどり着くところはあるように思います。三好先生はこの作品を生徒に鑑賞させることで、生徒に何を感じ、考えてほしいと思っているのかが理解できたのは授業後の研究協議の時でした。「この作品を鑑賞しようと思ったのはなぜですか?」と問うと三好先生は「今、デザインの勉強をしているので、この作品の構図の大胆さや写実性よりデザイン性を感じ取ってほしいと思って選びました。」と答えられました。それならば、それらが感じ取れるような「言葉かけ」を教師はナビとして行わなければならないのではないでしょうか。「波が立っている。」と話した時に「どこをみてそう思ったのか?」「その立っている様から何を思うか?」と「どこからそう思う?」と「そこからどう思う?」をつなげれば「波を表す白い線が垂直に描かれているので立っているようにみえる。」というこたえが返ってきたかもしれません。また、そこから「勢いを感じる。襲いかかっているみたいだ。」という解釈がうまれたかもしれません。波をよく「みる」ことを促せば、波頭の形状はどの波もよく似ていることに気づくでしょう。そこから「波頭」の形状は「類似している」つまり写実的というよりは「記号化」されたような「様式(デザイン性)」があることにも気づけたと思います。また、中盤に「波の奥にあるものは何か?」という問いかけを先生がされ、「波」「富士山」などと生徒はこたえました。この時に作品中にある文字情報に着目するように働きかけられましたが、ここではあまり時間を取らず「そうです。富士山です。」「ここに“富岳三十六景”と書かれていますね。富岳というのは富士山のことで、これは、葛飾北斎が富士山を題材に36枚の絵を描いたうちの1枚です。」と情報を提供したほうがあっさりします。そしてそこで「この富士山の大きさと、周囲の波をみて、何か考えられることはありませんか?」と促せば先生の狙いとするものに近づいていくことができたのではないかと思うのです。それは決して誘導ではありません。視点を焦点化(フォーカシング)してみることで作品のよさや価値に気づいていかせていくことは教育の現場で行われていることなので大切にしたいところです。でも、それはよく「みる」ことを繰り返し、発言をつなげていけば自ずと導かれていくことなのだということを信じて実践することだと思います。是澤先生の振り返りでも出ていましたが、生徒は信じてやれば「話す」存在です。そして教師も驚くような発言をします。だから、教師は生徒の力を信じてこの鑑賞を勇気をもって行ってほしいと思います。

 三好先生の振り返りの中で「生徒のよく見知った作品だったので難しかった」という話がありましたが、前述したように「みた」ことはあっても、みんなで「話し」て「みた」ことはないと思うので、気にせずやればよいと思います。今回の作品の場合は表現(デザイン)の学習にもつなげる意図があるわけですからよいと思います。また、1年生なので2年生になった時に受け取る教科書(日文)に原寸大のこの作品の複製が綴じ込まれていることも、後になって生徒に感動を与えることができるでしょう。また、ワークシートに書かせたことについては「評価につなげることができる」と話されました。「評価」を行うための資料を残すことは大切です。しかし、「いつ」「どんな場面で」「どんなふうに」行うかを考えることが大切ではないでしょうか。この鑑賞は「話す」ことを主体にしているのですから「話せる」場を設定しなければならないし、50分の限られた授業時間の中でどれだけ「対話」できるかが重要です。「話し合う」時間の確保に力点を置いてほしいと思います。書いている時間がもったいないです。私見ですが「書いたこと」を「話す(発表する)」のは生徒が自信をもって話せる効果はありますが、友だちの話した内容について「考える」ことより自分の書いたことを「発表する」ことが重視される危険性をはらみます。そうすると「聴く」ことがおろそかになり「対話」につながりません。それでは「みる・考える・話す・聴く」活動でALをねらうことにはならないので、繰り返すようですが、生徒の潜在能力を信じて「話す」ことをさせてほしいと思います。


 最後になりましたが、授業の終りに振り返りを書く生徒の姿に今日の授業が充実したものであり、書くことがたくさんある授業だったということを見取ることができました。最後に女子生徒が一名感想を発表しましたが、その姿にも、語ろうとする姿勢がみられたので、三好先生は、勇気をもって生徒の力を信じて「みる・考える・話す・聴く」活動を推進してほしいと思います。そして愛媛の中学校美術の中核として活躍してほしいと思います。

 是澤、三好両先生は、意図した訳ではないと思いますが、山の子には山の生活が感じられる、海の子には海の様子が感じられる作品を選んで鑑賞させておられたところに、ご本人たちの気づかないところで生徒に愛情深く接しておられることが汲み取れるようでうれしく思いました。そんな満ち足りた気分で愛媛県初の南予地域を後にすることができました。ありがとうございました。




 みるみるメンバーとともに「みる・考える・話す・聴く」活動をしてみませんか?
島根県立石見美術館でのイベント「みるみると見てみる?」も、次回2月26日(日)が最終回となります。
益田市のグラントワでみなさまのご来場をお待ちしております。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みるみると見てみる?レポー... | トップ | 愛媛県美術館での教員対象ナ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

対話型鑑賞」カテゴリの最新記事