愛媛県美術館・博物館・小中学校協働による人材育成事業②
教員対象ナビゲーター・トレーニング(第5回)レポート
Art Communication in Shimane みるみるの会 房野伸枝
日時:2017.1.29
場所:愛媛県美術館
みるみる代表の春日さんが指導・助言者として、会員の金谷さんが実践発表者として関わってこられたこの事業に、私、房野は初めて参加することができました。ずっと気になっていたこのプロジェクト…京都造形芸術大学でVTSJに一緒に参加した愛媛県美術館の鈴木さんが立ち上げたこともあり、同志が頑張っておられるのを応援したい気持ちも相まって、期待いっぱいで瀬戸内海を渡ったのでした。
レクチャー「対話型鑑賞の実践を みる・考える・話す・聴く」
午前中は、京都造形芸術大学・教授 福のり子先生の講演でした。プロジェクターに映し出された演題には「生き延びるために」とあり、この対話型鑑賞の教育手段が、まさに私たちの「生きる力」に直結するものだという気概を感じました。最近話題になった例を紹介しながら、なぜ、「対話力」が生きのびるためのキーワードなのか、をお話しされました。(以下、太ゴシック体は福先生の講演より抜粋・要約です。)
〇「東ロボくん(AI=人工頭脳)は東大に合格できるか?」というプロジェクトについて
これはAIが難関大学に合格できるほどの能力を発揮できるか、という国立情報学研究所教授・新井紀子氏の研究です。結論として東ロボくんは「私立大学には合格できるが、東大には合格できない」のだそうです。なぜならAIは多くの情報を検索したり、決まった答えを導き出したりすることが得意で、それらに関しては人よりも遥かに優れているものの、「意味を考える問題」は苦手だから。また、問題文の中に、人ならすぐに理解できるような「曖昧だけれど、その意味を想像し、即座に理解しなければならない言葉」に、AIはお手上げ。素早く計算し、情報を検索できても、想像力を必要とする問題はクリアできないそうです。
また、福先生曰く、
・AIはおもしろい答えはできない。「おもしろさ」の基準は人それぞれだから。
「雪が解けたら、なんになる?」当然、「水になる」が科学的には正解ですが、「春になる」と答えたら、それはそれで素敵じゃないですか!
・モネの「睡蓮」の絵を見て、「カエルがいっぱい!人が近づいて、カエルが一斉に池に飛び込んだ波紋がいっぱいある!」と答えた子供の想像力の豊かなこと。どうやら、私たちがAIを凌ぐポイントは「意味を考えつつ、想像力を働かせる」ことのようです。
〇「動物園で飼われている象と、野生の象の平均寿命は?」
このクイズを会場に問われ、様々な年齢とその理由が答えられました。野生の象は生きのびるのに大変そうだから、当然、動物園の象が長生きかと思いきや、動物園の象は17年、野生の象は56年なんだそうです!その理由として
・動物園の象…安全だが、ストレスフル。自分で考えて生きる必要がない。
・野生の象 …混沌として大変な環境でも、自分でフルに考えて努力している。
長生きの秘訣は、自分で考え、工夫して生きることだということなのでしょう。
〇「会話」「対話」「ディベート」…どれも言葉のやり取りですが、「会話」はできても「対話」ができないと、新しいものは生まれない。「対話」とは「異なる意見や価値観を持った人たちと出会うことで、その場でしか生まれない新たな価値を作る協働作業」なのだそうです。
なるほど、なるほど!!「対話」の定義を聞いて、「対話型鑑賞」の意味も、その教育的な効果も同じだということが納得できました。対話型鑑賞では、同じ作品でも違うメンバーと鑑賞すると違う展開があり、新しい発見があるので、何度でも楽しむことができ、自分の価値観を広げることができます。それは会話でもなく、ディベートでもなく「対話」だからこその醍醐味なのですね。
〇作品を鑑賞することでどんな力がつくのか?
① 正解のない問いに取り組む力=考える力
② 知的探求心が刺激される
③ 目的意識を持った観察力
④ 創造的解釈➡奥深い意味を読み解く
⑤ 体系的に論理的にみる
⑥ 言語能力
⑦ コミュニケーションの基礎となる
作品の不可解な箇所は自分と異なる他者の感情や価値観が描きこまれている。それを知ろうとするとき、そこには他者を理解したい気持ちの芽生えがあり、これこそが
コミュニケーションである。
以上のことは、文科省の言う「思考力・判断力・表現力」に合致するものであり、私たち教員が子どもたちにつけたい力です。それを鑑賞で育むことができるのなら、実践しない手はないでしょう!
福先生の講演は、何度聞いても目からウロコが何枚も落ちてワクワクさせられます。アート(Art)の語源はアルス(Ars)で、それは「生きる術」を意味するとか。福先生のお話は「この先の見えない混沌とした時代を、力強く生き抜いていく子どもを育てていってほしい」と、教育現場で対話型鑑賞に取り組む私たちの背中を押してくれるように感じました。次の学習指導要領ではアクティブ・ラーニングがキーワードになっていますが、これに「対話力」は欠かせないスキルです。「主体的・対話的な深い学び」を教育現場に展開していくことで、「生きぬく力」を育みたい、そう思いました。
ワークショップ「評価」について考えよう
午後からの<鑑賞の評価>については、小学校、中学校、美術館・博物館に分かれ、私は中学校の協議に参加しました。メンバーの皆さんの鑑賞の評価に対しての基準や、具体的に、何によってどのように評価するのかが多様であるがゆえに、まずはその情報の共有をするということから始めました。その中から、“B”評価をどのようにするか、に焦点を当てていきました。「鑑賞の評価は難しい」という声をよく聴きますが、各自が考えるB評価の基準を付箋に書いて模造紙に貼ってみると、「自分なりに考えたことを、発表したり、書いたりしている」という共通項がはっきり見えてきました。午前中の講演でも取り上げられていた「自分で考えて」という基準はどの先生も外せないキーワードだととらえています。時間が限られていたので、全てを協議することはかないませんでしたが、まずはここから。こうして、多くのメンバーで「対話」することで、より新たな価値を見出す一歩となっていると感じました。
愛媛県の小中学校の先生方の実践発表
(実践の内容についてはみるみる代表の春日さんのレポートに詳しいので、ぜひそちらをご覧ください!)
愛媛県で対話を取り入れた授業実践を次々に展開されていることがわかりました。中学校では美術の鑑賞で、小学校では図工美術以外にも社会科での実践報告があり、大変興味深く聞かせていただきました。図工・美術という教科を超えたこれからの授業展開の可能性を感じました。
各自が手探り状態で模索しつつ、仲間との対話で、大事なものを見出し、積み上げ、広げていく。私たちみるみるのメンバーが島根県で6年前から現在までずっと続けていることでもあります。「対話」はもちろん一人ではできません。この研修そのものが、仲間と対話を通して切磋琢磨する場となっています。愛媛県でも愛媛県美術館を起点として対話型鑑賞の教育実践の輪が広がっていくのを感じます。志を同じくする者としてエールを送りながら、私たちも共に学ぼう!そう決意を強くすることができた研修でした。この出会いに感謝しています。皆さま、本当にありがとうございました。
教員対象ナビゲーター・トレーニング(第5回)レポート
Art Communication in Shimane みるみるの会 房野伸枝
日時:2017.1.29
場所:愛媛県美術館
みるみる代表の春日さんが指導・助言者として、会員の金谷さんが実践発表者として関わってこられたこの事業に、私、房野は初めて参加することができました。ずっと気になっていたこのプロジェクト…京都造形芸術大学でVTSJに一緒に参加した愛媛県美術館の鈴木さんが立ち上げたこともあり、同志が頑張っておられるのを応援したい気持ちも相まって、期待いっぱいで瀬戸内海を渡ったのでした。
レクチャー「対話型鑑賞の実践を みる・考える・話す・聴く」
午前中は、京都造形芸術大学・教授 福のり子先生の講演でした。プロジェクターに映し出された演題には「生き延びるために」とあり、この対話型鑑賞の教育手段が、まさに私たちの「生きる力」に直結するものだという気概を感じました。最近話題になった例を紹介しながら、なぜ、「対話力」が生きのびるためのキーワードなのか、をお話しされました。(以下、太ゴシック体は福先生の講演より抜粋・要約です。)
〇「東ロボくん(AI=人工頭脳)は東大に合格できるか?」というプロジェクトについて
これはAIが難関大学に合格できるほどの能力を発揮できるか、という国立情報学研究所教授・新井紀子氏の研究です。結論として東ロボくんは「私立大学には合格できるが、東大には合格できない」のだそうです。なぜならAIは多くの情報を検索したり、決まった答えを導き出したりすることが得意で、それらに関しては人よりも遥かに優れているものの、「意味を考える問題」は苦手だから。また、問題文の中に、人ならすぐに理解できるような「曖昧だけれど、その意味を想像し、即座に理解しなければならない言葉」に、AIはお手上げ。素早く計算し、情報を検索できても、想像力を必要とする問題はクリアできないそうです。
また、福先生曰く、
・AIはおもしろい答えはできない。「おもしろさ」の基準は人それぞれだから。
「雪が解けたら、なんになる?」当然、「水になる」が科学的には正解ですが、「春になる」と答えたら、それはそれで素敵じゃないですか!
・モネの「睡蓮」の絵を見て、「カエルがいっぱい!人が近づいて、カエルが一斉に池に飛び込んだ波紋がいっぱいある!」と答えた子供の想像力の豊かなこと。どうやら、私たちがAIを凌ぐポイントは「意味を考えつつ、想像力を働かせる」ことのようです。
〇「動物園で飼われている象と、野生の象の平均寿命は?」
このクイズを会場に問われ、様々な年齢とその理由が答えられました。野生の象は生きのびるのに大変そうだから、当然、動物園の象が長生きかと思いきや、動物園の象は17年、野生の象は56年なんだそうです!その理由として
・動物園の象…安全だが、ストレスフル。自分で考えて生きる必要がない。
・野生の象 …混沌として大変な環境でも、自分でフルに考えて努力している。
長生きの秘訣は、自分で考え、工夫して生きることだということなのでしょう。
〇「会話」「対話」「ディベート」…どれも言葉のやり取りですが、「会話」はできても「対話」ができないと、新しいものは生まれない。「対話」とは「異なる意見や価値観を持った人たちと出会うことで、その場でしか生まれない新たな価値を作る協働作業」なのだそうです。
なるほど、なるほど!!「対話」の定義を聞いて、「対話型鑑賞」の意味も、その教育的な効果も同じだということが納得できました。対話型鑑賞では、同じ作品でも違うメンバーと鑑賞すると違う展開があり、新しい発見があるので、何度でも楽しむことができ、自分の価値観を広げることができます。それは会話でもなく、ディベートでもなく「対話」だからこその醍醐味なのですね。
〇作品を鑑賞することでどんな力がつくのか?
① 正解のない問いに取り組む力=考える力
② 知的探求心が刺激される
③ 目的意識を持った観察力
④ 創造的解釈➡奥深い意味を読み解く
⑤ 体系的に論理的にみる
⑥ 言語能力
⑦ コミュニケーションの基礎となる
作品の不可解な箇所は自分と異なる他者の感情や価値観が描きこまれている。それを知ろうとするとき、そこには他者を理解したい気持ちの芽生えがあり、これこそが
コミュニケーションである。
以上のことは、文科省の言う「思考力・判断力・表現力」に合致するものであり、私たち教員が子どもたちにつけたい力です。それを鑑賞で育むことができるのなら、実践しない手はないでしょう!
福先生の講演は、何度聞いても目からウロコが何枚も落ちてワクワクさせられます。アート(Art)の語源はアルス(Ars)で、それは「生きる術」を意味するとか。福先生のお話は「この先の見えない混沌とした時代を、力強く生き抜いていく子どもを育てていってほしい」と、教育現場で対話型鑑賞に取り組む私たちの背中を押してくれるように感じました。次の学習指導要領ではアクティブ・ラーニングがキーワードになっていますが、これに「対話力」は欠かせないスキルです。「主体的・対話的な深い学び」を教育現場に展開していくことで、「生きぬく力」を育みたい、そう思いました。
ワークショップ「評価」について考えよう
午後からの<鑑賞の評価>については、小学校、中学校、美術館・博物館に分かれ、私は中学校の協議に参加しました。メンバーの皆さんの鑑賞の評価に対しての基準や、具体的に、何によってどのように評価するのかが多様であるがゆえに、まずはその情報の共有をするということから始めました。その中から、“B”評価をどのようにするか、に焦点を当てていきました。「鑑賞の評価は難しい」という声をよく聴きますが、各自が考えるB評価の基準を付箋に書いて模造紙に貼ってみると、「自分なりに考えたことを、発表したり、書いたりしている」という共通項がはっきり見えてきました。午前中の講演でも取り上げられていた「自分で考えて」という基準はどの先生も外せないキーワードだととらえています。時間が限られていたので、全てを協議することはかないませんでしたが、まずはここから。こうして、多くのメンバーで「対話」することで、より新たな価値を見出す一歩となっていると感じました。
愛媛県の小中学校の先生方の実践発表
(実践の内容についてはみるみる代表の春日さんのレポートに詳しいので、ぜひそちらをご覧ください!)
愛媛県で対話を取り入れた授業実践を次々に展開されていることがわかりました。中学校では美術の鑑賞で、小学校では図工美術以外にも社会科での実践報告があり、大変興味深く聞かせていただきました。図工・美術という教科を超えたこれからの授業展開の可能性を感じました。
各自が手探り状態で模索しつつ、仲間との対話で、大事なものを見出し、積み上げ、広げていく。私たちみるみるのメンバーが島根県で6年前から現在までずっと続けていることでもあります。「対話」はもちろん一人ではできません。この研修そのものが、仲間と対話を通して切磋琢磨する場となっています。愛媛県でも愛媛県美術館を起点として対話型鑑賞の教育実践の輪が広がっていくのを感じます。志を同じくする者としてエールを送りながら、私たちも共に学ぼう!そう決意を強くすることができた研修でした。この出会いに感謝しています。皆さま、本当にありがとうございました。
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