ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

みるみると見てみる?レポート第5弾です!(2017,1,29開催)

2017-02-12 09:55:15 | 対話型鑑賞

1月29日の「みるみると見てみる?」のレポートをお届けします!
ファッションに関する作品を多く収蔵されている石見美術館ならではの出会いがあったようです。


「みるみるとじっくり見てみる?」鑑賞会レポート 
2017.1.29 参加者10名 
ナビゲーター 澄川由紀

 この企画展でナビゲーターを務めることは、私にとってはハードルが高い。普段の定例会と異なり、そこには、展示室の構成、作品選定など学芸員の意図が存在するからである。展示室の空間、作品の数、隣に在る作品、そう考えれば全てに意味が有る。

■鑑賞作品
 ラウル・デュフィ ビアンキーニ・フェリエ社のためのテキスタイルデザイン
 ~「真珠とロゼット」「モザイク・デザイン」「花とアラベスク模様」「きんれんか」       

■はじめに
 「可愛いいね」「お花がいっぱいだね」と、美術館に訪れた園児が、デュフィの作品を指差して語る姿が目に止まった。色彩がはっきりとしているからか、描かれているモチーフが単純でわかりやすいからか・・・。園児同様、私もこれらの作品に見入ってしまう。これが私と今回の作品の出会いだった。 
 今回はラウル・デュフィの4作品を鑑賞作品とした。展示室壁面の一角に6枚のテキスタイル・デザインが行儀よく並んでいる。そのうちの4つがデュフィの作品だ。この4点は絹織物会社ビアンキーニ・フェリエ社がディフィに依頼したデザインで、題名からもわかるように真珠の粒や花などのモチーフで構成されている。「一定の装飾のまとまり」を布に繰り返しプリントすることでプリント生地が生まれ、装飾的な模様を織り出して行くことでジャガードなどの織り地となり、それをくりかえしていけば生地織物となり、その後別の手を経てドレスにも変わっていくのであろう。また、生地にしていくために、モチーフとモチーフの重なりや版を重ねることでモチーフや色がどのように重なってゆくかを考え、装飾のまとまりをどう組み合わせればよいのか計算されている感じを受けた。
 1点1点丁寧に詳細に見ていくのではなく、今回は作品を「まとまり」で鑑賞することでデザインの面白さや版表現の奥深さなどを、対話を通して見つめていきたいと考えた。また、前述したように、展示室の空間や配列の意図なども鑑賞する中で意味生成できればという思いもあった。 

■ナビーゲーションをとおして
 普段であれば「何が見えるか」「そこからどう思うか」と1点1点について対話を通して紐解いていくのだが、今回は「4つの作品のうち、どれが好き?」という投げかけからスタートした。漠然と好き。なんとなく好き。色が、模様が・・・そこには「好き」の根拠が様々だった。後に鑑賞者からは、「自分が好きな意味を言うことで、自己確認でき、よく見ることにつながったように思う。また、他の3つは他人の意見を鑑賞の視点とすることができた。」と意見をいただいた。「好きなものを教えてください」は心理的なハードルが下がったのではとの意見もあった。
 4つをまとめて見ることで共通のものを見つけて欲しいという意図がナビーゲーション側にはあったのだが、果たして深く見ることになったのだろうか。私自身はその「共通性」がモチーフの「くりかえし」だった。確かに鑑賞時にそのキーワードは出たが、そこまで話題に上ったかというとそうではない。色の重なりに関することは発言としてあったので、その点を膨らませてパラフレイズすることで鑑賞者全体の意識が「くりかえし」に焦点化されたはずである。また、生地となることを強調しても良かったのかもしれない。1点1点じっくり見せたり、対で見せたりなど「見せ方」を工夫することでより作品の詳細に迫れたのではないか。また、ナビーゲーションで、共通点や相違点などが整理しきれていなかったのは否めない。鑑賞者の思考を丁寧に拾っていくことは、次々に意見が出される中だからこそ大切なことだった。
 私は、なぜ4点をまとめて見せたかったのだろうか。事前に鑑賞し感じたことは「くりかされる」ことの意味やモチーフの形や色の組み合わせの面白さである。自分が「くりかえし」に固執しすぎ、鑑賞者の発言を十分に受け止めないままに「くりかえし」を考えさせようと誘導しようとしたことで、より深く見詰めるという本来の自由に見る鑑賞の楽しさが欠落していたのだ。

■おわりに
 終了後、本企画の学芸員の方から次のようなコメントをいただくことができた。「対話を用いる作品鑑賞は作品に描かれた“登場人物同士の関係を想像し、ドラマを想像して意味を連想する”ことを得意とするけれど、作品鑑賞とはそれだけではない。本企画には、色や形のおもしろさ、見えているものを素直に語りたいという意図もあった。だから幾何学的な形の繰り返されている作品を沢山展示した。美術作品の良さや面白さ、見方や考え方は多様で、戸惑ったりもやもやしたりする時間になっても良いと思う。」「“4作品を塊で見て欲しい”というのは嬉しかった。4作品一緒に見ると、遠いけどつながっている、にているけど違う、細かいことの発見があるはずだと思う。」本企画には学芸員の仕掛けがあった。美術館で対話を用いて鑑賞を行う意味はここにもある。




 コレクション展「あなたはどう見る?-よく見て話そう美術について-」の関連イベント「みるみると見てみる?」も、今年度は次回2月26日(日)が最終回となります。
ぜひ、みるみるメンバーとともに、美術館で対話を用いて鑑賞をしてみませんか?



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