日時:2024年1月13日(土)14:00~14:30(ターン①)
作品:熊に団子を与える金太郎 勝川春朗(葛飾北斎)作 (島根県立美術館所蔵)
ファシリテーター:津室和彦
参加者:一般参加者6名 みるみる会員4名
図版は島根県立美術館のHPより引用した
みるみるとみてみるを5年ぶりに行うことになりました。若い北斎の作品展で,新春にふさわしいと思う本作を選びました。本レポートでは,まず,発言を図式化したものを示したいと思います。外側がそれぞれのモチーフや部分についての発言,ベン図式に重なった部分は,二つの要素が結びついて出てきた発言やファシリがつないだ部分です。
モチーフは,大きく,人物・動物・周りの小物の3つに類別できそうなので,それぞれについてまとまりをもって対話ができるのではないかと考えていました。予想通り,初めに手を挙げた3名の鑑賞者から,それぞれに触れる発言が得られました。
ファシリテーターとしては,まずはそれぞれの発言を認めたりパラフレーズしたりしながら,適宜問い返しをし,どこからそう考えたのかが全員で共有できるように努めました。
次に,以下の例のように,それぞれの発言をつなぐことを意識しました。
〇男の子→大柄→団子や達磨が小さく見える→相撲が強い←軍配←願掛け達磨
〇団子→動物→手なずける→手下・家来
〇しめ縄→神事←相撲
〇宝物→縁起がいいもの←鶴が飛ぶ着物の柄 →初夢の夢見がよくなる絵札
3つのまとまりについて,発言が積み重なったところで,「体格のいい男の子が,熊らしき動物に団子を食べさせていて,まわりには縁起の良さそうな宝物としめ縄もあることから,相撲など何らかの神事とも関係がありそうだということを,みなさんでお話してきましたね。」と小まとめをし,「それを踏まえて,いったいどういうものに見えていますか。」と問うと,「相撲が好きで熊が出てくるとなると,金太郎ですよね。」という発言があり,多くの人がうなずいていました。そこで,人物は金太郎であることと,題名を明かし,「そのうえで,金太郎をかくことの意味は何でしょうか。」と問うと,「わが子が,金太郎のように強く大きくなり,出世して宝物を手にいれられるようになってほしいという気持ち」「健やかに,金太郎のようにたくましく育ってほしい」という願いを表しているとか,「お年玉を入れる袋に使ったのではないか」というような興味深い発言が出されました。
最後に,「怖い熊ですらも子熊に見えるような英雄の姿を,縁起物として誇張して描いているのかもしれませんね。今日は細かくみて話すことで,昔ばなしの金太郎のヒーロー像のようなものを皆さんと発見することができました。」とまとめました。楽しく,充実した鑑賞会となり,貴重な場を設定してくださった石見美術館と参加してくださった鑑賞者の方々に感謝したいと思います。
振り返りでは,メンバーから,着物の緑色や金太郎の肌の赤さなど色に絞って考えるフェーズがあると,さらに深まったかもしれないとのアドバイスをもらいました。着物の緑は,松葉の常緑と考えるとこれも縁起物,そして,肌の赤味も疱瘡除けのまじないという意味があり,達磨の意味ともつながるというような情報も用いて,より鑑賞が深まる可能性もあったかもしれないというものです。鮮やかな色も錦絵の魅力のひとつなので,またの機会にはそうしてみたいと思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます