みるみるの会 3月例会(オンライン開催) レポート 正田 裕子
1.日時:令和3年3月14日(日)
13:30~Zoom接続・打ち合わせ(進行F・ナビ正田)
14:10~14:40 実践
2.作品:二世 五姓田芳柳(にせい ごせだほうりゅう)「上杉景勝一笑図」(1890)
所蔵:笠間日動美術館 茨城県笠間市
ナビゲーター:正田・進行・ホスト:Fさん
参加者8名(Kさん紹介1名・Tさん紹介1名・ナビ紹介1名・会員5名)
3.発言の流れ
・作品の真ん中に黒い線があり,別々の作品か。しかし,左右の画面に関連が見られる。右側の武士の視線の先に庭があって,服を着ている猿回しの猿がいる。
・描かれている場面は武士の時代だが,制作された時期を限定するものではない。
・(右画面)服装や髪型,身の周りの様子(左画面)左下の紙にある「上杉」⇒武士でも,富と権力を持った殿様のような人ではないか。
・(右画面)肘置きの手前に本がバサッと落ちていること⇒何かに驚いたか,気をとられている様子。
・(左画面)枝に掛かっている紙にある「上杉景勝」という文字⇒戦国時代末期の人物では。
・(右画面)戦国時代は殺伐としているイメージがあったが,人物はのほほんとした様子。
・(右画面)目の前に猿が急に出てきて、思わず微笑んでしまった表情に見える。
・本の天地が引っくり返ってみえる⇒今驚いて思わず落としてしまったという発言に納得。また、口元の白い歯⇒猿に話しかけていると思った。猿を好意的に捉えている。
・(左画面)一方,見られている猿は人物と目線があってない。⇒猿は人に関心はない。
・(両画面)右画面の人物の背景の色と左画面の背景の庭の雰囲気が全く異なる点⇒違和感。
二枚の絵を併せて一作品にしているのか懐疑的に思う。ふすま絵の可能性はないか。
枝を突き破って紙が描かれている⇒あえてそんな描き方をしているところが興味深い。全体的に表現に遊びがある様に思う。だから,通常はでない別の二つの作品を組み合わせて全体を構成しているといった表現なのではないか。
・絵に残るくらいだから高貴な人で殿様だと思う。左の書面でこの人の名前も読み解けるから,この人に関するエピソードだと思う。猿と関係性が分かるが,同一画面にしづらいので分けたとか。だから,この作品は人物の表情がポイントかと思われる。権威づけるために描かれたものでなく,やはり人柄を表すことではないか。
~左右画面の関連性について~
・猿が細い枝をもって木に登る様子・真剣な顔立ち⇒描かれている猿がまだ幼い。芸を覚えて何かしようというよりは,子どもが真剣に何かしようとしているようなイメージ。だからこそ,殿様も幼い猿が真剣な姿が楽しかったのではないか。
・(両画面)二枚がはっきりと別々に見えるというところは,作者の意図があると思う。
右は,厳格な人が笑うという,その表情に焦点を当てるために周りを暗くしていて,左は,華やかな風景の中に真剣な猿がいるということ焦点を当てるためでは。
・殿様は獣を象徴する敷物の上に座っているのに,目下とも思える獣である猿に一本取られたというような面白さを,描かれている配置からも表現されているよう。
・自分のかぶっていた大事な烏帽子を猿がとって,庭に出て枝に上ったという話から,普通なら怒りそうなのに,それを怒らず,にこやかに見ている。しかも「一笑」とあったようにおそらく一回しか笑わなかったと思うが,これ一つで,本当はすごく心の温かいいいお殿様だったのではないかなと思った。そして,描く人は,それを伝えたかったのではないかと思う。人柄がにじんでいるように見えるし,描かれているエピソードも分かったので,武将の人柄を作者は描こうとしていたのではないかと思った。
(PM2:03~2:41)
実践後 鑑賞者(ミーティングに入れなかった会員より)
・猿は秀吉が朝鮮半島への進軍したことを暗喩しているのではないか。「景勝」の背後の棚には宝物が少なく,秀吉に献上したと想像した。明治の時代に,豊臣の重鎮の1人をモチーフに選んだ理由は何だろうと疑問が浮かんだことが楽しかった。また,描かれた明治23年は,教育勅語発布の年で,何かしらのメッセージがあるのではないかと想像した。
4.振り返り(チャットの記録も含む)
・鑑賞者の発言のくり返しになっていて,リズムが生まれていない。もっと,ポインティングの矢印を使うことで確認の時間を短縮し,対話の時間を確保する。
・鑑賞者の疑問について,しっかり聞き取り,他に発言を求めたら良かった。
・情報を出すのはこのタイミングで良かったという鑑賞者もいた。一方,もっと早く出して,作品に立ち返り,「そこからどう思うか」と解釈を広げることができたという意見もあった。限られた時間で,後半の対話をもっと鑑賞者全員で広げられるようにしたい。
「まとめ」
多くの学びがありました。進行役が他のメンバーだったこともあって,対話の流れをつかみやすかったと感じました。だからこそ,作品の画面が分かれていることの意味や様式と描かれている時代のギャップ,何よりも描かれている人物象についてさらに深められることができたのではと悔やまれます。「そこからどう思う」という問いに対する対話を,限られた時間の中でさらに生かせるように,多くの方と対話型鑑賞を楽しみ,研鑽を続けていきたいと思います。
年度末の時期に参加くださった鑑賞者の皆さん,ありがとうございました。
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