ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

出雲文化伝承館での鑑賞会レポートその①「築地松」(2017、08、06開催)

2017-08-17 19:37:16 | 対話型鑑賞
 みるみるの会の月例鑑賞会は「浜田市世界こども美術館」を中心に行っていますが、この夏は出雲市にある出雲文化伝承館でも鑑賞会をさせていただけることとなりました。
 その第1回目のレポートが会員の正田さんより届きました

8月6日(日)於 出雲文化伝承館 「郷土の洋画家展~明治から現代の出雲の作家たち~」
作品「築地松」 作:板倉 幸昌 氏
ナビゲーター 正田 裕子 参加者 7名(うち会員1名)

 最初に、出雲文化伝承館で対話を取り入れた鑑賞を開催することが初めてということでしたので、みるみるの会員から「対話型鑑賞」の由来についての説明をしました。

 その後、ナビゲーターが自己紹介をし、複数の鑑賞者で一つの作品を囲んでみていくときの「作品を隅々までみる・そこから考える・考えたことや思ったことを話す・他の意見を聴く」という流れを確認しました。

~鑑賞会のながれ~
 始めに、描かれている風景は「斐川平野ですね。」という発言がありました。続いて、作品の印象や色使いについて話がありました。描かれている風景が斐川平野である根拠を「どこからそう思いますか?」とたずねました。すると、まさに日が沈む様子や雲が迫り来る様子がご自身の生活の場面と重なり、斐川平野で生活してこられた長年の経験や思い出も語られることとなりました。
 その後、「築地松」が描かれていることから、やはり描かれている風景は「斐川平野」であるという意見が続き、描かれている太陽は、北西からの季節風をさえぎる築地松の奥に描かれていることから西に沈んでいく様子であると、場面の状況へと話題が移っていきました。空に描かれている雲の色合いが秋の燃えるような夕焼けというよりも、冬へ向かう頃の寒さを感じさせるような雲の色から、季節は初冬であると思うという意見がでました。
 鑑賞者からは、前出の「迫り来るような雲」「出雲の地名も雲が出るとあるように」「日本海の大社の方から湧き出る」「画面に水平方向に広がり続ける」など、夕日に染まる雲の色合いだけでなく、季節風が連れてくる出雲地方特有の自然の雲への豊かな感じ方や郷土の作者が感じる「出雲らしい風景」とは、まさに描かれている画面の風景ではないかという話題になりました。
 また、日が沈む一瞬が、「日が沈む聖地」として日本遺産に認定された出雲らしい風景という意見もありました。
 沈む夕日を中心に、夕日の下の平野は遠近法で描かれており、夕日の上は雲が放射線状に広がっている、まさに平野の広さや雲が広がるダイナミックな空間を構成して描いているところが作者のうまさであるという画面構成についても意見がありました。
 「左下の深い青緑は水たまりに築地松が映り込んでいる様子ではないか」、「平野の部分の中央にある輝くような黄色の部分は刈り残されている稲で、逆光になる築地松の色を引き立てる役割もある」、「写実の風景を描くにとどまらず作者の斐川平野の美しさの印象を描いた風景ではないか」という意見も出ました。
 「広がる雲間から、差し込むわずかな夕日がスポットライトのように刈り残された田んぼを照らしている風景であり、吸い込まれるかの様な風景はこのまま永遠の時をつむいでいくかのような風景である。」「築地松の向こう側にうっすら立ち上る白い煙は、野焼きのもので一日の仕事の終わりを描くかのようである。」など、郷土の風景画に意見がつきない様子でした。
 今回の鑑賞会は、描かれた風景をもとにたくさんの発見や思いを語る場となりました。


~ナビゲーターとしての振り返り~
 鑑賞者が作品をみることを楽しむために、ナビゲーターは何をどうすればよかったのか、改めて考えるきっかけになりました。鑑賞者の皆さんになじみのある風景画を選び話題が尽きなかった点ではよかったのですが、その場をどのようにコーディネートできたかという点では課題が残りました。
 鑑賞者の皆さんに、「作品がスキかキライか聞いて、発言の機会をたくさん作ろう。」「聞こえる音を聞いてみよう。」とか、その意見の根拠を一人一人たずねてみようと事前に考えていたことが、その場になるとできていなかったのは、やはりその場の雰囲気を自分がつくるという意識が十分でなかったということを振り返りの中で気づかされました。特に、このスタイルになれていない鑑賞者の不安と期待にどう応えていくのか、最初の5分余りの時間にナビがすべきことをもっと整理して臨むことができたのではないかということに気づきました。
 鑑賞者に来て話してよかったという思いで帰っていただくために、話題の中心を30分以内でおさまるようにしていきたいとも思いました。そのためにも以前からの課題と捉えていたパラフレイズを、どんな時も端的にしていけるようにさらに意識していかなくてはと思いました。一期一会の出会いが豊かで楽しいものになるために、場をナビゲートする技量をどう高めていくのかということを改めて考え直す機会となりました。
 
 今回の出雲文化伝承館での鑑賞会で活発なご意見をいただき、アート作品を楽しみたいというニーズは大きいと感じました。日常的に、大人向け、子ども向け様々な企画をしておられる素敵なミュージアムでした。今回の参加者も関心の高い方ばかりでした。その関心の高さに見合うだけのナビゲートができるようにと思いました。今回の素晴らしい出会いを契機に、出雲文化伝承館の他の企画にもアンテナを高く張って、また参加したいと思いました。
 
 参加くださった鑑賞者のみなさん、出雲文化伝承館のみなさん、このような機会をいただきまことにありがとうございました。


 出雲文化伝承館での鑑賞会は8月20日(日)、9月2日(土)両日とも11:00~(30~40分程度)です。
郷土(出雲)の作家さんの作品を対話しながら深く味わってみませんか?
出雲文化伝承館でお待ちしております。
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