島根県立石見美術館で開催中のコレクション展「あなたはどうみる?-よく見て話そう美術について-」関連イベント「みるみると見てみる?」の第2弾レポートをお届けします!
鑑賞会レポート みるみるとみてみる?グラントワ 展示室A(2017.1.8)
鑑賞作品「髪」(山崎 修二 画1939年/昭和14年)131cm×97cm
ナビゲーター:上坂 美礼 参加者 6名(内みるみるの会員 5名)
<はじめに>
①大きめの作品で、数名で囲んで鑑賞するのに適したサイズ。
②何が描かれているか具体的にわかり易く、状況を推察しやすい日常的な人物画。
鑑賞作品は上記の2点を理由に選んだ。作品名を確認せぬまま鑑賞会をスタートしたが、他者の話に耳を傾けることで次第に思考が変容し次第に作品の魅力や謎が解き明かされ、面白い展開となった。作品に描かれた女性は、鏡の前で度の強い瓶底眼鏡をかけ、長い黒髪を整えている。その様子に注目し、モデルの内面や画家との関係性についてなど、大いに盛り上がった。不思議な違和感を抱かせる作品で、謎への探究心を刺激する魅力も大きかった。
ナビを担当するにあたり、適度な声量と、鑑賞者の思考を促す効果的なパラフレーズ(言い換え)の2点を課題に臨んだ。およそ30分間の鑑賞会の録音を確認すると、声の調子や語尾を改善できるとよいと反省する。鑑賞会の展開については、振り返りの会でも出た意見だが、対話型鑑賞に慣れた集団だからこそ自ずと他者の発言に促され、活発な意見交換の場となったといえる。今回の鑑賞会では、パラフレーズ(言い換え)と問いかけに関して自分に合うアプローチの仕方が少し掴めた。そこで、実際に、対話型鑑賞に慣れない集団に対し、ナビは如何に効果的な働きかけをしたらよいかという視点で振り返りのレポートを試みたい。
<鑑賞者の発言とナビの働きかけ>
まずは、鑑賞者の鋭い鑑賞眼と巧みな語りによって、鑑賞会は心理面にせまる深みのあるものになったので、幾つか紹介したい。人物の顔のラフな描かれ方に着目し、描きこまれた周辺と比較して、絵画作品の違和感に関する話題が早い段階で挙がった。また、鏡台が部屋の隅ではなく、違和感のある位置にあるという指摘も続いた。そして、描かれた女性は容姿に自信がなく、そのことは右から差し込む陽の光が髪の美しさを照らしているのに対し、顔は陰になっていることからも象徴的で、人物の内向的な性格が伺えるという発言。鏡の配置と、顔以外が描きこまれているという二つの違和感の謎に関連させて鮮やかに語られ、その後の展開に続く局面の一つとなった。一方で、目を明確に描いていない要因として、髪を整えるためには眼鏡が必要であり、眼鏡の度の強さ示す物理的な側面に着目した発言も出た。眼鏡の他に、鏡台の後ろに置かれた絵筆の入った壺へと話題が広がり、画家が人物画を描くということや、モデルへの画家の眼差しについて丁寧に語られた。また、眼鏡を外すと実は女優のように美人だったらいいなぁという意見に和やかな笑いも起こりつつ、当時の女性が、度の強い瓶底眼鏡までして鏡を見て身だしなみを整える行為に関し、切実な乙女の心情も察せられる見解が多様に挙がった。そして、描かれているのは鏡台の裏面だが、右奥にちらりと見える椿の背景が鏡に写るイメージについて語られ、どよめきも起きた。他にも紹介したいコメントが多数あり、先日の録音した鑑賞会の音声をこの場で再現提示できないのが残念である。
ナビゲーターのパラフレーズ(言い換え)と問いかけを中心にふりかえる。
・無意識ではあったが、具象的な絵画であるため、「何が見えますか。」とは問わずに、「気づきはありませんか。」と投げかけた。「顔はぼんやり描かれている」「鏡台があるべき部屋の隅ではなく、斜めに置かれている」という二つの違和感が気づきとして話題となり、後に、「二点の違和感について話が出ています。」と小まとめして再提示できた。
・丁寧に長く語られた推論は繰り返さず、「小見出し」や「キーワード」で対応した。「モデルの行動に着目してのお話でした。」「光の当たり方から、モデルの内面が伺えるというお話でした。」等の概要説明でパラフレーズ(言い換え)を試みため、鑑賞者が本当に言いたかったこととズレが生じた!?と気まずい雰囲気になる場面が発生した。
・パラフレーズ(言い換え)の段階で発言者の推論を取りこぼした際には、しばらく後に小まとめや問いかけでフォローを試みた。
・努めたのは、話題を少し前に戻して問いかけたことで、その後、より詳しい話を聴くことができた。充分とはいえないが、何度か問いかけし、話を掘り下げようと試みた。
また、みるみるのメンバーから、振り返りの時間に下記のように貴重なアドバイスをいただいたので、学校などでも試みたい。
・パラフレーズ(言い換え)が効果的な場面もあったが、ズレが生じる場面もあった。
・挙手が続くと連続で指名する傾向がある。発言を受けて、整理しながら指名するのがナビの務めと心得て、慌てないことが大事。
・もう少し小まとめをして、整理しながら進めてもよかった。
・パラフレーズ(言い換え)で発言者の意図とズレを生じさせる場面ができてしまうことに関して、ナビは「~ということでしょうか。」と相手の発言内容を確認しながら進める方法がある。
・鑑賞者の発言内容を一度で理解できない折には、率直に「もう少し詳しく教えてください。」と問うことで、より詳しい内容を引き出す機会となる。次の発言を促すことで他の鑑賞者にとっても、より理解が深まる可能性があるので心がけてはどうだろうか。
<おわりに>
「ここで整理しますね。」と前置きして小まとめすることも、メリハリのある展開にするための課題の一つだと感じた。録音で確認すると、発言を受けて「~という話題が出ました。」「~というお話でした。」というような実況中継的な語尾でのパラフレーズ(言い換え)が目立った。中立性をめざしての試みだったが、アットホームな雰囲気を失わせ、ズレを是正できぬまま進んでしまう危険もあると大いに反省した。今回の鑑賞会での最後のパラフレーズ(言い換え)では「~ということでしょうか。」と言っていたのが救いで、今後は、相手の意図を確認するような語尾にも留意したい。
作品の魅力に迫る貴重な30分にしてくださった皆様に、心から感謝申しあげます。
次回の「みるみると見てみる?」は、1月29日(日)14:00~ 島根県立石見美術館 展示室A にて。
みなさまとトークできることを楽しみにしております。
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