毎年、ソメイヨシノの開花期に合わせ、上野の山の美術館、博物館の企画展を見に行くのが恒例になっている。今年の首都圏のソメイヨシノはちょうど満開の時期に天候が悪くて残念だった。
3日。東京国立博物館で開催中の『開山・栄西禅師800年遠忌特別展・栄西と建仁寺』展を観に行ってきた。いつものように電車を日暮里駅で降り、谷中の墓地をブラブラと散策しながら上野公園まで歩くコースをとる。ところがこの日は本降りの雨である。ちょうど見頃となった満開のソメイヨシノが強い雨のためにかなり散ってしまっている「もったいないなぁ…」。これも風情と言えば風情。桜並木の根本の水たまりに浮かぶたくさんの花びらを見ながらカメラに収めた。博物館に到着すると、この天候のせいだろう。さすがに空いている。ここでの特別展でこれほど空いている日も珍しい。
栄西禅師(1141~1215)と言えば、鎌倉時代、宋に渡り我が国に臨済宗を伝え、京都最古の禅寺「建仁寺」を開いたことで広く知られている。「茶祖」とも言われ、日本に茶をもたらし喫茶の習慣を根付かせたことでも有名である。依頼今日まで、「禅」と「茶道」は日本文化を象徴するものとして広く海外にも知られるようになった。同じ禅宗の曹洞宗開祖である永平寺の道元禅師の師匠でもある。今年はその「栄西禅師」の800年遠忌にあたるということで、禅師と建仁寺ゆかりの宝物の中から、彫刻や絵画、書などを数多く紹介する今回の企画展示が開催されることになった。
会場に入ってまず目についたのは寺院内で実際に茶道を行う部屋を再現したコーナー。整然と展示された茶道具や掛け軸、仏具などから作法に厳しい禅の宗風が垣間見られるようだった。開場を移動すると夥しい数の経典や文書が続く。さらに進むと建仁寺ゆかりの僧たちの肖像彫刻、肖像絵画が出迎えてくれた。そしてここから先が今回の僕のお目当てとなる絵画の名宝の部屋となる。狩野山楽、山雪、長谷川等伯、伊藤若冲など中世を代表する画家たちの名品が続く。そして『海北友松(かいほくゆうしょう)1533~1615』という画家の龍、花鳥、山水を題材とした墨による力強い障壁画には圧倒されてしまった。僕は勉強不足でこの画家のことを知らなかったが、建仁寺は別名「友松寺」と呼ばれるほど作品が山内には多く残っているということだった。「それにしともこの単純とも言える描線の大胆さと形の強さは他に例を見ない」 視線を引き付けられながらゆっくりと会場を移動する。
そして展示の最終章は目玉中の目玉となる俵屋宗達筆『風神雷神図屏風』。 かなりひさびさの再会である。前回観た時とも印象が違って見えた。宗達は日本美術史の中でも、かなり特異なタイプの画家だと思う。いったいこのフォルムの強さはどんな感性から出てくるのだろう。左右に飛び回る風神と雷神の交互に視線を移しながら長い時間、飽きずに立ちすくんでしまった。展覧会は5月18日まで。まだ観に行ってない方はぜひこの機会にどうぞ。画像はトップが宗達の『風神図』。下の向かって左から雨に散ったソメイヨシノの花びら、展覧会看板、海北友松筆の『雲竜図』『竹林七賢図』部分(展覧会図録から転写)。