長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

143.手動活版印刷機

2014-05-19 20:40:41 | 日記・日常

数年前、版画仲間のM氏より画像の機械を譲ってもらった。手動活版印刷機という機械で印刷業界では『テキン』と呼ばれている。

…と、言っても知らない人の方が多いだろう。現在はもう製造していない。今から数十年前までは街中の小さな印刷屋さんでもお目にかかることができた。中央の四角いプレートに「活字」を組んでから手動ハンドルを動かして、インクをつけ、印刷物を刷る機械である。印刷屋さんを覗くと、この機械のそばには数えきれない量の活字を並べた棚が並んでいた。「手動活版校正機」とも呼ばれているらしい。大量印刷をする前に活字の組み方を確かめるためにも使用されていたとのことだ。

M氏には「構造的に同じ凸版なので木口木版画の摺りにも使えるかもしれないよ」と言われたので、ためしてみようと譲っていただいたのだが、圧力が強いのと僕の版の彫り方には合わないようでしばらく部屋の隅に放置されたままだった。ところがこの『テキン』最近、印刷好きの若い女子に人気なのだという。テレビで見たのだが、わざわざ廃業した下町の印刷屋さんまで探しに行ったり、外国製のものを取り寄せたりしているらしい。目的はこれで活字を使ったオリジナルなグリーティング・カードなどを印刷するようだ。最近の若い女子は変わったことを考えてブームを起こす。

母校の美術学校のデザイン科に印刷の授業があることを思い出した。さっそく学校の教官に連絡すると即答で「教材にほしい」との返事。僕が使わずに私蔵していてもいずれ屑鉄になるばかりである。毎年、何十人かの学生さんたちの役にたってくれれば機械もM氏も喜んでくれるだろう。いい嫁ぎ先ができて本当に良かった。しばらく部屋の空間を支配していたので、なんとなく寂しい気持ちもあったのでお別れに画像を数枚撮らせてもらった。画像はトップが『テキン』の全体像。下はそれぞれ部分画像。