長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

313. 『街でくらす野鳥』のポスター原画を制作する。

2017-12-01 19:09:27 | 書籍・出版
先月はS社という出版社の依頼で「街でくらす野鳥」をテーマとしたポスターの原画を集中して制作していた。スズメやカラスに代表される人間の居住空間近くに生息する野鳥たちを1枚のポスターとして制作するという仕事である。こうした仕事は初めてというわけではなく今までにも時々依頼を受けて制作をしている。

編集者からお話のあった内容としては「住宅地や公園、駅前など人間の生活空間の中でも生息している代表的な野鳥たちを10種程度選択し、1枚のポスター原画として制作してほしい」という内容だった。いろいろと検討した結果、以下の野鳥を選び出した。キジバト、コゲラ、ハシブトガラス、シジュウカラ、ツバメ、ヒヨドリ、メジロ、ムクドリ、スズメ、ハクセキレイ、カワラヒワ、以上11種である。夏鳥のツバメ以外は平野部の街中で1年を通してごく普通に
観察でき、繁殖もしている野鳥を選んでみたつもりである。冬鳥でも馴染み深いジョウビタキやツグミといった種類も入れようかどうかと悩んだが案外一般の人たちには認知度がないかもしれないということで除いた。
こうした都市部でも繁殖している野鳥を近年、専門筋では「都市鳥・としちょう」などと呼んでいる。そして観察しやすいということもあり研究対象にする鳥類学者も増えているのだ。

野鳥に限らず動物、昆虫、魚類、植物等、野生生物を対象とする精密画・博物画は、自由に創作する絵画とは異なり難しい点もいくつかある。まず、科学的に正しくなければならないということだ。プロポーションや骨格的なこと、羽などの枚数や色彩の問題、等々といったことである。まぁ、こうした仕事を一度でも受けたことがある画家でないとこの苦労は理解できないと思う。出版社のほうもその点はよく解っているので大概は下絵の段階で中間チェックが入るのである。最近では下絵の時点での「赤入れ(修正)」も減ってきたが、受け始めた頃はずいぶんチェックが入り下絵が真っ赤になったこともあった。ここまで来るのにけっこう鍛えてもらったということである。

こうした身近な野鳥の画像資料は自分でも普段から撮影しているのでまずはそれらの資料を見ながら描いていくことになる。ただ鳥も個体差というものがあるので他の人が撮影したものや図鑑類、海外の資料にまで眼を通して確認していくことも多い。なので仕事机の周辺はたちまち足の踏み場もないほどに、参考資料の山積みとなっていくのが常である。

ようやく線描によるモノクロームの下絵が完成し、編集部にチェックを入れてもらうため画像添付で送信。しばらくしてから制作のGOサインの連絡が入って、ようやく原寸の本紙へのトレース(転写)となる。トレースが完了すると一安心。あとは水彩絵の具で実物と近い色が出るまで着色していくのだが、ここからが長い。納得する表現・色彩になるまでは何度も何度も薄く微妙な透明色を重ねて行くのである。途中、エンドレスで終了しないのではないかという時期を過ぎると不思議なもので「もうこれ以上は描けない、色がのらない」というような飽和状態がやってくる。ここでやっと筆を置くのである。

先日、担当の編集者が東京から原画を受け取りに工房まで来てくれた。これから専門のデザイナーの手により文字や大きさ表示のイラストなどと組み合わせデザインされてから色校正に入るのだがココまで来ると初稿の印刷が上がってくるのが楽しみになってくる。本番の印刷は来年の3月頃、「街でくらす鳥」の1種をテーマとした絵本と同時に発売される。その頃にまた詳細をご報告することにしよう。

原画を渡すとホッとする。翌日は1人、近所の湖沼でゆっくりとバード・ウォッチング。渡ってきたばかりの冬鳥の観察を行って長時間の細かい描画でたまった疲れの気分転換をした。疲労回復には自然の中に入って深呼吸をするのがなによりである。


画像はトップが野鳥ポスター原画制作中の僕。下が同じく制作中の僕、描画のようす4カット、使用した固形水彩絵の具、完成に近づいた原画の全体像。