長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

381.『メスキータ・Samuel Jessurum de Mesquita』展

2019-08-31 17:17:05 | 美術館企画展
今月9日。東京ステーションギャラリーで開催中の『メスキータ』展を観に行ってきた。近頃、美術館企画の観たい展覧会がたくさんあるのだが中々、スケジュールが合わず観られないことが多い。そしてどうゆうわけかブログへの投稿も後手になってしまう。

サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1866-1944)は19世紀末から20世紀末にかけてオランダで活躍した画家、版画家、デザイナーで、美術教育にも力を入れた人である。長く教鞭をとった美術学校の教え子の中には「だまし絵」で有名なM.C.エッシャーがいる。ポルトガル系ユダヤ人の家系に生まれたことから第二次世界大戦中にナチス・ドイツの「ユダヤ人迫害」に遭遇し終戦の年・1944年にアウシュビッツのゲットーで亡くなっている。死後、アトリエに残された数多くの作品はエッシャー等の教え子や知人たちが決死の思いで救いだし、大切に保管されたものだという。今回の展覧会が日本でのメスキータの初めての大きな回顧展となっている。僕は版画の世界に長く生きてきたが、この作家は初めて知った。弟子のエッシャーは好きでよく企画展なども観ていたのだが。

東京ステーションギャラリーはコンパクトな美術館であり、今回の作家はは日本では言ってみればマニアックな知る人ぞ知る存在である。「たぶん会場は空いているだろう」とタカをくくっていた。ところが会場に入るとけっこうな入場者でこの美術館としては混んでいて意外に思った。おそらく某公営放送の美術番組で紹介されたのだろう。版画作品が多い展示となっているので比較的小さな作品が多いのだが、それ故に展示作品数が多い。チラシやポスター、ネットなどの事前情報から特にモノクロの木版画作品がクローズアップされていたので、やはりその辺を期待して来た。少数の画像で見ていた限りではブリュッケ・ドイツ表現主義のキルヒナーやノルデなどのモノクロ木版画に近い表現かと思っていたが、実際に多くの木版画を観てみると、かなり質の異なるものだった。画家の手による荒々しいタッチの木版画を連送していたのだが、そいはむしろグラフィック・アートに通じるシャープな表現に思えた。たとえば戦後の東ヨーロッパ等に観られるボスターや挿絵、ブックワーク、絵本などの表現と重なって見えてきた。何かこの人の内面的世界にはそうした切れ味のよい平面空間があるのかもしれない。会場で思い出したのだがそう言えばエッシャーの以前観た初期木版画作品に類似している。「だまし絵」の巨匠も師の影響下にドップリとはまっていた時期があったのだと思った。銅版画作品もけっこうあったが、木版画作品に共通した表現であった。

展示作品の中で今回目を引いたものは「ファンタジー」と題名の付いた連作群だった。木版画、銅版画、ドローイングなどさまざまな手法で制作されたもので、不気味だがどこかユーモラスでもあり、何とも形容しがたい不思議なイメージの人物像が描かれている。それは例えて言うならばパウル・クレーの初期、人物表現やジェームズ・アンソールの仮面劇とも通じるような表現であった。

真夏の猛暑日、久々に版画らしい版画の展覧会をじっくりと堪能し、充実した気持ちで会場を出た。東京での展覧会は今月、18日で了したがこの後、2020年1月、千葉県佐倉市立美術館、4月、兵庫県西宮市大谷記念美術館、7月、栃木県宇都宮市美術館、9月、福島県いわき市立美術館と巡回する予定となっている。ブロガーの方々でお近くにお住いの方は要チェックして是非、御高覧下さい。