コロナ禍の中にスタートした連載投稿『リアリズムとしての野生生物画』の第3回目は前回に引き続きドイツ・ルネサンスの画家、アルブレヒト・デューラーの水彩画である。今回は鳥類と哺乳類、2点の作品をご紹介する。
イタリア・ルネサンスの画家、ジョットにより提唱された「自然を正面から、それらしく忠実に探究する」という考え方は後年のイタリアの画家たちに受け継がれていった。そしてドイツのデューラーが「神の創造された自然や生物をあるがままに絵画に描くことこそが神の意志にかなうものである」という考え方に発展していった。今回ご紹介する2点の水彩画作品もその思考を見事に表したものとなっている。以下、2点の解説となる。
●1点目:『Wings of a Blue Roller / ブルー・ローラーの翼』 羊皮紙に透明水彩と不透明水彩 19.5 × 20㎝ 1512年制作 オーストリア・ウィーン市 アルベルティーナ版画・素描美術館収蔵
野鳥の翼の片方を細密な筆使いと水彩絵の具の美しい色彩で描いた作品である。ブルー・ローラーとはヨーロッパと北アフリカ・西アジアに広範囲に分布している美しい羽衣を持つローラー属の野鳥である。ヨーロッパやイギリスの野鳥図鑑には図版と共に掲載されているが、現在は生息数が減少し国際的な絶滅危惧種に指定されている。デューラーは繊細な肌を持つ羊皮紙を基底材に使用し正確なな色彩の再現性と細い筆による繊細な線描写により見事に表現し描ききっている。
話が作品から逸れるが、僕はこの作品を40年ほど前に当時、最良の印刷と言われた大手出版社の画集で初めて見たのだが、そのタイトルがなんと『ルリカケスの翼』となっていた。ルリカケスはご存じのように日本の奄美大島周辺に生息するカラス科の固有種であり、もちろんヨーロッパには生息しない。おそらく美術書の編集者がよく調べずに図鑑の絵合わせ程度の知識で掲載してしまったのだろう。このあたりにも我が国の西洋の「野生生物画」への理解の浅さというものが見え隠れしてしまうのである。
●2点目:『Head of a Walrus / セイウチの頭部』羊皮紙の上にペン、インクと茶色のインクによう描写 21.1 × 31.2㎝ 1521年制作 イギリス・ロンドン市 大英博物館収蔵
海棲哺乳類の1種である大きな体と長い牙を特徴とするセイウチの頭部を大きく捉えたペン画である。セイウチはバレンツ海、アイスランド、スバーバル諸島等の北極海とその沿岸域に生息するが、その立派で良質の牙が西洋ルネサンス期にはキリスト教教会の建築物の装飾や細かい彫刻を施した工芸品、チェスの駒等に向くことから重宝がられ重要な産物として北ヨーロッパを中心に取引がされていた。このデューラーによる小さいが正確に描写されたペン画からは作品の素晴らしさと共に、その商業的な背景や当時の時代性を読み解いていくことができる内容ともなっているのだ。
今回、ご紹介した2点は画家で版画家でもあるデューラーの油彩画や銅版画の習作的な小サイズの素描にあたるものだが、500年以上前に科学的、芸術的にもたいへん優れた「野生生物画」が描かれていたことに改めて驚嘆してしまうのである。
※ 画像はトップが水彩画『ブルー・ローラーの翼』。下が向かって左からその部分図と素描、『セイウチの頭部』とその部分図、デユーラー60歳の自画像(油彩画の部分図)。
イタリア・ルネサンスの画家、ジョットにより提唱された「自然を正面から、それらしく忠実に探究する」という考え方は後年のイタリアの画家たちに受け継がれていった。そしてドイツのデューラーが「神の創造された自然や生物をあるがままに絵画に描くことこそが神の意志にかなうものである」という考え方に発展していった。今回ご紹介する2点の水彩画作品もその思考を見事に表したものとなっている。以下、2点の解説となる。
●1点目:『Wings of a Blue Roller / ブルー・ローラーの翼』 羊皮紙に透明水彩と不透明水彩 19.5 × 20㎝ 1512年制作 オーストリア・ウィーン市 アルベルティーナ版画・素描美術館収蔵
野鳥の翼の片方を細密な筆使いと水彩絵の具の美しい色彩で描いた作品である。ブルー・ローラーとはヨーロッパと北アフリカ・西アジアに広範囲に分布している美しい羽衣を持つローラー属の野鳥である。ヨーロッパやイギリスの野鳥図鑑には図版と共に掲載されているが、現在は生息数が減少し国際的な絶滅危惧種に指定されている。デューラーは繊細な肌を持つ羊皮紙を基底材に使用し正確なな色彩の再現性と細い筆による繊細な線描写により見事に表現し描ききっている。
話が作品から逸れるが、僕はこの作品を40年ほど前に当時、最良の印刷と言われた大手出版社の画集で初めて見たのだが、そのタイトルがなんと『ルリカケスの翼』となっていた。ルリカケスはご存じのように日本の奄美大島周辺に生息するカラス科の固有種であり、もちろんヨーロッパには生息しない。おそらく美術書の編集者がよく調べずに図鑑の絵合わせ程度の知識で掲載してしまったのだろう。このあたりにも我が国の西洋の「野生生物画」への理解の浅さというものが見え隠れしてしまうのである。
●2点目:『Head of a Walrus / セイウチの頭部』羊皮紙の上にペン、インクと茶色のインクによう描写 21.1 × 31.2㎝ 1521年制作 イギリス・ロンドン市 大英博物館収蔵
海棲哺乳類の1種である大きな体と長い牙を特徴とするセイウチの頭部を大きく捉えたペン画である。セイウチはバレンツ海、アイスランド、スバーバル諸島等の北極海とその沿岸域に生息するが、その立派で良質の牙が西洋ルネサンス期にはキリスト教教会の建築物の装飾や細かい彫刻を施した工芸品、チェスの駒等に向くことから重宝がられ重要な産物として北ヨーロッパを中心に取引がされていた。このデューラーによる小さいが正確に描写されたペン画からは作品の素晴らしさと共に、その商業的な背景や当時の時代性を読み解いていくことができる内容ともなっているのだ。
今回、ご紹介した2点は画家で版画家でもあるデューラーの油彩画や銅版画の習作的な小サイズの素描にあたるものだが、500年以上前に科学的、芸術的にもたいへん優れた「野生生物画」が描かれていたことに改めて驚嘆してしまうのである。
※ 画像はトップが水彩画『ブルー・ローラーの翼』。下が向かって左からその部分図と素描、『セイウチの頭部』とその部分図、デユーラー60歳の自画像(油彩画の部分図)。