先月、25日と26日の2日間、北海道の札幌芸術の森、版画工房で木口木版画のワークショップと体験制作の講師を担当してきた。札幌で4年ぶり、今回で3回目のワークショップである。なぜか偶然にもオリンピック開催の年と重なっているのである。
24日。成田から飛行機に乗って新千歳空港に到着、電車に乗り換えて札幌駅まで移動。駅構内のレストランでランチを食べていると渋いモダンジャズがBGMとしてかかっていて初日から嬉しい気分になった。ホテルにチエックインし、しばし休憩していると工房の担当者のU氏が車で迎えに来てくれた。ここから芸術の森まで車で40-50分はかかる。ひさびさに道すがら見る北国の風景が懐かしい。札幌芸術の森は美術館、野外彫刻展示場、工芸工房、版画工房などが森林を切りひらいた敷地に点在する複合型の文化施設なのである。何と言っても周囲の大自然のロケーションが素晴らしい。
工房で木口木版画用具や明日からのワークショップ進行の打ち合わせをもう一人のスタッフ、日本ハムファイターズのファンだというH女史を交えて話す。3回目なので、すでにマニュアルもできていて、サラサラと終了。夕方版画工房を出る。今宵はU氏が音頭をとり、地元の版画工房で制作する方々を交えて、すすきので夕食会となった。版画に熱心な方々とお酒も入って楽しい一時を過ごせた。
25日、1日目。ホテルを出て版画工房に着くと開始時間前だというのに熱心な社会人の参加者の方々が勢揃いしている。やる気満々である。この日の午前中はまずはガイダンス。「木口木版画とは何ぞや?」ということで毎度のことだが、西洋でこの技法が誕生した背景、歴史、代表的な作品、技法などをザックリと解説していく。それから次にワークショップなので実際にビュラン(木口木版画用彫刻刀)を使い講師用に用意してあった樺の版木に彫り方をいろいろと行って見せる。熱心な方々が多いので質問も次々によせられた。そして、あらかじめ描いて来るように進めてあった各自の下絵を見て回り、どのようにして進めて行けば良いかのアドバイスをする。それから版木に彫り後が解り易いように薄墨を塗ってからU氏お勧めの白いクレパスを下絵を写したトレペの裏に塗って版木にトレース。これで準備OK! ここからはビュランで各自が彫り進めて行く。午後、参加者の彫り進め具合を確認しつつ「試し摺り」の実演。大理石の練り台で硬めの油性インクをゴムローラーで薄く薄く、注意深くのばし版面に塗ってバレンとスプーンを使用した摺り方を指導する。早い人はこの日、試し摺りを取り始める。ここで今日はタイムリミット。
26日、二日目。昨日と同じく、朝から引き続き彫りの指導。昔から銅版画にしろ木版画にしろ、版を彫る仕事は「ブラインド・ワーク」と言ってインクを盛って摺ってみなければ絵がどこまで進んでいるのかは解らない。早めに試し摺りを行うことを勧める。遅れていた人も試し摺りを取り始める。ここからは試し摺りが下絵の代わりとなる。そして摺っては彫り、摺っては彫りの繰り返し。木口木版画の制作は我慢比べである。参加者の集中力も佳境に入る時間帯。こちらも、だんだんサポートする言葉が少なくなる。途中、ガンピ紙による摺りの実演や昭和20年代-30年代に我が国の彫り師によって制作された版木を摺って見せたりした。そうこうしている中、あっと言う間に終了時間がせまってきた。作業机を廻って見ると細かく積み重ねた彫りの集積にによるモノクロの美しい作品が並び始めていた。最期にこちらの感想と質問を受け付けて無事、2日間にわたったワークショップもお開きとなった。
この木口木版画の講習会、偶然なのだが、なぜか新潟、青森、北海道と北へ北へと移動しつつ開催してきている。寒い北国には机の上で細密に制作するこの技法が良く似合う。北国の人たちの集中力も素晴らしい。この先さらに北へと進路をとり、サハリンやウラジオストック、アラスカあたりでも開催できないだろうか?などと取り留めのない夢を見るのでした。この日の夜もすすきのへ。今日は北海道版画協会の方々と一献交えるのでした。最期になりましたが、今回も講師としてお声をかけていただいたスタッフのみなさん、そして力作を制作された参加者のみなさん、すすきのでの楽しい飲み会を開いていただいた方々に感謝いたします。ありがとうございました。北海道シリーズは次回ブログに続きます。画像はトップが19世紀のイギリスの版画家の作品コピーを使用して解説しているところ。下が向かって左から札幌芸術の森の代表的な野外彫刻マルタ・パン作「浮かぶ彫刻」、工房内でのワークショップ風景4カット、参加者の方々の制作した作品2点。