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ブルートレインで初日の出を見に行こう その3、平成20年12月30日~31日

2009-01-10 | 鉄道
大分駅から操車場へ引き揚げる「富士」号を見送る

ブルートレインで初日の出を見に行こう その2、平成20年12月29日~30日からの続き

東京駅から寝台特急「富士」に乗って大分駅に着いた。
整備の為に操車場に引き揚げていく「富士」の回送を見送ってから…

もう昼が近いので、腹ごしらえをすることにする。
大分駅の1番のりば、改札口横にある立ち食いスタンドで「かしわうどん」を賞味。
この立ち食い店は、元は大分駅で駅弁を販売していた業者さんが駅弁を廃業したあとも続けているそうで、店に立ち寄るのも店員さんと顔馴染みの常連客が多いような風情。
さて大分駅立ち食いの「かしわうどん」、小倉駅や折尾駅や鳥栖駅の「九州かしわ御三家」のものと比べるとやや淡白で味の主張も控えめだが、カウンターに置かれた「揚げ玉(天かす)」を入れ放題なのがいい。

腹がくちくなったら、手荷物をコインロッカーに放り込んで洗面道具だけ持って普通電車に飛び乗り、別府へ移動。

別府と言えば、湯の街。
どうせ夕方の折り返し東京行き「富士」の発車を待つ間は暇なので、温泉に入って夜汽車の疲れを洗い流そうという寸法だ。

別府駅のコンコースにある観光案内所で駅周辺にある「日帰り温泉(外湯)」の場所を聞いて、先ずやって来たのがここ。

駅から高架下を歩いて数分の場所にある、別府市営の温泉「不老泉」。
公民館と共同の建物で、すぐ隣にゲートボール場があったりして地元の御老人の「たまり場」になっているような。
一昔前の小学校のような建物に入っていくと「年末年始期間は入浴料無料」との貼り紙が。おおこれはラッキー!尤も普段も100円という激安料金らしいのだが。

さて「不老泉」の内部は、洗い場の中央に巨大な湯船が鎮座まします独特なスタイルで天井が高く、広々としていて壮観。
思わず「おお!こりゃすごい!」と呟きながら、早速かけ湯をして湯船に浸かろうとするのだが…「あれ?洗い場の蛇口からお湯が出ない?」すると湯船の中から
「兄ちゃん、今日はタダなんで蛇口からお湯は出ないバイ」と声がかかる。
「え~!?そうなんですかぁ?やれやれ、気前が良いんだか締まり屋なのか分からん温泉だなぁ…」
仕方なく水をかぶってから(う~冷たい!)、湯船の温泉に浸かる。
「あ゛~温かくて気持ち良い…極楽極楽…」
しかしここで重大な事に気が付いた。
「え~っと、洗い場の蛇口から水しか出ないということは…洗髪や背中を流すのも冷水でやれってこと!?」いくら晴れた真っ昼間とは言え、真冬にそんな事したら風邪引くわい。
という訳で、湯船に浸かって暖まっただけで「不老泉」から退散。

昨日今日と夜汽車に連泊しているし、髪を洗って身体も石鹸で流してサッパリしたい。
「洗い場からお湯の出る温泉」を探し求めて、別府の横丁をさ迷い歩くこと暫し。
ここなら大丈夫だろうとやって来たのが、「別府駅前高等温泉」。

“高等”な温泉とは凄い自信の程が伺えるが、梁の様式がスイス辺りの山荘みたいで(建築には不案内なのであまり能書き垂れられませんが)、確かに高等の名に相応しい堂々たる佇まいの西洋館。
とても温泉銭湯には見えない。
玄関には「高等温泉」と「並湯」の2つの看板が出ていたが、番台のおばちゃんからは自動的に「ハイお兄さんいらっしゃい、お風呂ね、300円です」と「高等」の方の入浴料を告げられる。ちなみに「並湯」は100円らしいのだが、また洗い場から冷水しか出ないとイヤなので素直に「高等料金」300円也を支払うと、貸しタオルと洗面器を差し出された。このへんのサービスが「高等」の所以か。

さて「別府駅前高等温泉」は脱衣所が5人も入れば身動きが取れなくなるほど狭く、お風呂場も広々としていた「不老泉」とは対照的にこじんまりしていたが、それでも湯船は熱湯と温湯の2種類あり(温湯は脱衣所の下の穴倉にあり、洞窟風呂のようで面白い)、もちろん洗い場のシャワーからはお湯が出る。
他のお客と譲り合いながら、狭い洗い場で身体を流すのもまた風情があっていいものだ。腰掛けがないので屈んで洗髪をすると腰がきつかったが。

寝台車2連泊の疲れを別府の湯に流して、いい心持ちで湯から上がると番台のおばちゃんから「どうぞ2階で休んでいって下さい」と座敷に通される。
このへんのサービスもまた「高等」の所以か。


しかしこの黒光りする木造の階段の、雰囲気の良さと言ったらどうだ。
まるで映画に出てくる、古い学校の寄宿舎のようだ。

帰り際に番台のおばちゃんに「この温泉の建物、凄く立派な西洋館ですね!」と声を掛けると、
「ええ、もう築80年になるんですよ。皆さん、そこの階段を『昔の学校みたい!』って喜ばれてね。」とのこと。2階には客室もあり、泊まることも出来るそうです。僕も一度泊まってみたいぞ、西洋館の温泉銭湯「別府駅前高等温泉」。

別府温泉も堪能したし、そろそろ大分駅に戻ろうか。
今夜乗る東京行きの寝台特急「富士」号は別府駅にも停車するのでこのまま別府で待っていてもいいが、せっかくブルートレインに乗るからにはやはり始発駅から乗りたい。それに手荷物も大分駅のロッカーの中だ。
「別府駅前高等温泉」はその名の通り別府駅のすぐ目の前の通りにあるので、目抜き通りをちょっと歩くと駅に着く。
駅前に温泉銭湯があるなんて、流石湯の街。

で、別府駅に着いたら出迎えてくれたのが、このインパクトあり過ぎる人物像。

駅前広場で旅人に襲いかかろうと…いや、諸手を挙げて歓迎してくれている(のだと思う、思いたい、多分!)このお方、別府を一大温泉観光地に育て上げ「別府観光の父」と呼ばれた実業家、油屋熊八その人である。
明治から大正にかけて別府でホテルやゴルフ場、バス事業を展開し、所謂「温泉マーク」の考案者ともされる油屋熊八の偉業を讃えて建立されたというこのブロンズ像、かなり巨大だし大迫力で奇抜なポーズでとにかく目を引く。何か背後に裾に取り付いた妖怪みたいなのを引き連れてるし。
暫し唖然と見惚れていると、通りすがりの観光客風の若い女性が
「わぁー、すごい!」と驚嘆の声をあげたり、
子供を連れた婆ちゃんが
「ほら、熊八さんがバンザイしとらすよ。すごかねー!」とか言ってる声が聞こえてきて、思わず吹きだしてしまう。
生前は様々なアイデアで別府温泉の売り込みに奔走していたという熊八さんも、自分自身が別府で注目の的になっているんだからきっと喜んでおられるんじゃないでしょうか。

大分駅に戻って、駅前のトキハデパートのデパ地下で今夜の酒とつまみを物色したりしてると、もう「富士」の発車時刻16:43となる。

独特の“山型ヘッドーマーク”を付けた九州島内専用交流機関車ED76に率いられた東京行き寝台特急「富士」が大分駅に入線してきた。
このヘッドマーク、先の大戦前に東京から下関まで、後には貫通したばかりの世界初の海底トンネル「関門隧道」を越えて長崎まで走った、新興大国「大日本帝国」の威信の象徴であった全席1等の超豪華特急列車「富士」号の最後部に連結された絢爛豪華なサロン風展望車のオープンデッキを飾ったものと同じデザインで復元されたもの。
特権階級の人々や富裕外国人しか乗車を許されず、外国語を流暢に話す車掌や給仕が乗務した車内にはフランス料理のフルコースを供する食堂車やバスルームまでも備え、関釜連絡船や長崎港からの国際航路を関してシベリア鉄道、そしてロンドン・ビクトリア駅行きのシンプロン・オリエントエクスプレスと接続していた歴とした国際列車だった栄光の「富士」号の残滓とも言うべきヘッドマークが、衰退し廃止を間近に控えたブルートレイン「富士」号の顔を飾る。

牽引機ED76は午前中に大分行き「富士」を牽引してきたのと同じ66号機だし、客車も同じ編成が折り返すだけなので、要はここまで乗ってきた大分行き「富士」と全く同じ顔ぶれで東京まで引き返すことになる。
馴染みのホテルに連泊してるようなものだ。


東京までの道中、割り当てられたB寝台1人用個室も一昨日「はやぶさ」で乗車した時と同じ部屋。
「ああ、またこの部屋か…」
同じ車輌の同じ部屋だ。


デパ地下のデリカテッセンで入手したおいしいワインと惣菜を楽しんでいるうちに、B寝台1人用個室「ソロ」のロフトのような2階部屋の丸窓には暮れなずむ別府湾が広がる。
湯の街を後にして「富士」は往く


中津駅で後から追い上げてくる特急「ソニック」を先に通すために10分弱の停車。
「ハイテクの振り子機能を駆使して時速130キロで生き急ぐ新型特急は、どうぞお先に!こちとら老い先短い人生を急ぐ気はないんでね。」と「富士」に替わって皮肉の一つも呟きながら、駅構内のコンビニで酒を追加したり、機関車ED76の尊顔を拝したり。


そして門司駅と下関駅では例によって鉄ちゃんが群がり機関車交換大撮影会。
ワインとビールですっかりいい心持ちになっていたので、到底撮影の砲列に加わる気にはなれず、一歩引いて饗宴を見守る。


別府温泉の湯の香とアルコホルのせいでぐっすり熟睡し、目が覚めると一昨日と同じ富嶽が車窓に広がる
日付が変わって今日は平成20年12月31日、大晦日。


一昨日の車窓を再生するように「富士」は「はやぶさ」と共に冬晴れの東海道本線を疾駆し、定刻に東京駅に到着した。

ブルートレインで初日の出を見に行こう その4、平成20年12月31日~平成21年1月1日に続く