写真:オーストラリア上空、機内からウーメラ方面を望む
←ニュージーランド星空旅記2009~7、サザンアルプスを越える鉄路からの続きです
2009年6月20日
クライストチャーチ国際空港を離陸したシンガポール航空298便のボーイングB777は一路オーストラリア大陸を目指し、サザンアルプスを飛び越えていく。
「この雪の山脈の氷河湖で世界遺産になる星空を見たりトレッキングをしたり、列車で山を越えたり。楽しかったなぁ。」
正直、何となく成り行きで出発したニュージーランド旅行だったけれど、来てみればかなり楽しめたと思う。あまり深く考えずに、それこそ成り行き任せで気楽に来れたのが良かったのかも知れないね。
サザンアルプスを見送りながら、「また星を見に、フラッと遊びに来たいな」などと思った。
さようならニュージーランド。
シンガポールスリングを飲みながら寛いでいるうちに、B777はオーストラリア上空を飛行している。
左舷から見えるこの空の、その向こうにはウーメラ砂漠とアルコーナの町がある。
上空10000mから見る暗い青空の彼方から、小惑星探査機「はやぶさ」が帰ってくるのは来年の今頃。
あの空の向こうから小惑星イトカワの欠片を納めたカプセルと共に、流れ星のように輝きながら地球大気圏に突入してくる筈だ。
今回のニュージーランド旅行も、元はといえば「はやぶさ」の“出迎え”の下準備のつもりだった(それがいつの間にやらオーストラリアの隣のニュージーランドに星を見に行く旅に変化してしまったのだが…)。
「はやぶさ」の帰って来る空を見ながら、僕は心に誓ったのだ。
「1年後、僕はこの空の下に来るぞ。『はやぶさ』を出迎えるために…!」
→ウーメラへの長い道~HAYABUSA The Voyage Home~
→アルコーナへの長い長い道~HAYABUSA The Voyage Home~
さて、帰り道もシンガポール経由で乗り継ぎとなり、現地時間の午後6時前にチャンギ空港到着。
待ち時間が半日以上あるので、またシンガポールの街に出てみた。
ちょうどこの日は港地区で何かのイベントをやっていたらしく、MRTの駅から地上に出たところで高層ビルの谷間を巨大なシンガポール国旗を掲げた軍用ヘリが編隊飛行しているのを目撃。
この後、打ち上げ花火も揚がっていたみたい。
タイミング悪くビルの影にいたので音しか聞こえませんでしたが。
シンガポールでも特に行きたい場所がある訳でもないので、地元の人達に混じって夕涼みがてら夜景を見ながら適当にブラブラ散歩。
ライトアップされた「世界三大がっかり」が一つ、マーライオンを見て、
やっぱりがっかり。
「小さい…しょぼい…なんでこんなのが観光名所になるんだシンガポール…」
がっかりしたところで空港に戻り、午前1時の福岡行き便の出発までリラクゼーションコーナーで水琴窟の音色を聞きながらカウチに寝そべって過ごす。
「ああ~このまま寝てしまいたい…」
目が覚めると、福岡行きシンガポール航空656便のB777はフィリピン上空を飛行していた。
日本の領空に入り沖縄が近付いてきた頃、夜が明ける。
やがて太陽が昇ってきた。
「あ、ちょうど今、7月22日の皆既日食帯の辺りを飛んでいるな!」
1ヵ月後の7月22日の午前中、ここから見る太陽は月に覆い隠され、暗い真昼の空にはコロナが淡く広がっている。そして僕は、それを種子島の南部で見ようと目論んでいるのだ。
「世界遺産の星空の次は、皆既日食にチャレンジだ!どうかその日は、晴れますように!」
今回の旅の無事とレイク・テカポで星空を見ることの出来た幸運に感謝しつつ、次の旅の幸運を御来光に祈る。
B777は九州本土に向かって一直線に飛んでいく。機内食を食べ終えたら、もう福岡に着陸だ。
「到着したら、すぐに皆既日食の日の種子島渡航準備を始めないといけないな!ああ忙しい!」
(旅行記:終)
ニュージーランド星空旅記2009 関連記事一覧
→ニュージーランド星空旅記2009~1、シンガポール・赤道を目指して
→ニュージーランド星空旅記2009~2、クライストチャーチ・大聖堂と公園の街
→ニュージーランド星空旅記2009~3、クライストチャーチ・街外れの駅
→ニュージーランド星空旅記2009~4、レイク・テカポ
→ニュージーランド星空旅記2009~5、天の河
→ニュージーランド星空旅記2009~6、トレッキング・目指せマウントジョン天文台
→ニュージーランド星空旅記2009~7、サザンアルプスを越える鉄路
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2009年6月20日
クライストチャーチ国際空港を離陸したシンガポール航空298便のボーイングB777は一路オーストラリア大陸を目指し、サザンアルプスを飛び越えていく。
「この雪の山脈の氷河湖で世界遺産になる星空を見たりトレッキングをしたり、列車で山を越えたり。楽しかったなぁ。」
正直、何となく成り行きで出発したニュージーランド旅行だったけれど、来てみればかなり楽しめたと思う。あまり深く考えずに、それこそ成り行き任せで気楽に来れたのが良かったのかも知れないね。
サザンアルプスを見送りながら、「また星を見に、フラッと遊びに来たいな」などと思った。
さようならニュージーランド。
シンガポールスリングを飲みながら寛いでいるうちに、B777はオーストラリア上空を飛行している。
左舷から見えるこの空の、その向こうにはウーメラ砂漠とアルコーナの町がある。
上空10000mから見る暗い青空の彼方から、小惑星探査機「はやぶさ」が帰ってくるのは来年の今頃。
あの空の向こうから小惑星イトカワの欠片を納めたカプセルと共に、流れ星のように輝きながら地球大気圏に突入してくる筈だ。
今回のニュージーランド旅行も、元はといえば「はやぶさ」の“出迎え”の下準備のつもりだった(それがいつの間にやらオーストラリアの隣のニュージーランドに星を見に行く旅に変化してしまったのだが…)。
「はやぶさ」の帰って来る空を見ながら、僕は心に誓ったのだ。
「1年後、僕はこの空の下に来るぞ。『はやぶさ』を出迎えるために…!」
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さて、帰り道もシンガポール経由で乗り継ぎとなり、現地時間の午後6時前にチャンギ空港到着。
待ち時間が半日以上あるので、またシンガポールの街に出てみた。
ちょうどこの日は港地区で何かのイベントをやっていたらしく、MRTの駅から地上に出たところで高層ビルの谷間を巨大なシンガポール国旗を掲げた軍用ヘリが編隊飛行しているのを目撃。
この後、打ち上げ花火も揚がっていたみたい。
タイミング悪くビルの影にいたので音しか聞こえませんでしたが。
シンガポールでも特に行きたい場所がある訳でもないので、地元の人達に混じって夕涼みがてら夜景を見ながら適当にブラブラ散歩。
ライトアップされた「世界三大がっかり」が一つ、マーライオンを見て、
やっぱりがっかり。
「小さい…しょぼい…なんでこんなのが観光名所になるんだシンガポール…」
がっかりしたところで空港に戻り、午前1時の福岡行き便の出発までリラクゼーションコーナーで水琴窟の音色を聞きながらカウチに寝そべって過ごす。
「ああ~このまま寝てしまいたい…」
目が覚めると、福岡行きシンガポール航空656便のB777はフィリピン上空を飛行していた。
日本の領空に入り沖縄が近付いてきた頃、夜が明ける。
やがて太陽が昇ってきた。
「あ、ちょうど今、7月22日の皆既日食帯の辺りを飛んでいるな!」
1ヵ月後の7月22日の午前中、ここから見る太陽は月に覆い隠され、暗い真昼の空にはコロナが淡く広がっている。そして僕は、それを種子島の南部で見ようと目論んでいるのだ。
「世界遺産の星空の次は、皆既日食にチャレンジだ!どうかその日は、晴れますように!」
今回の旅の無事とレイク・テカポで星空を見ることの出来た幸運に感謝しつつ、次の旅の幸運を御来光に祈る。
B777は九州本土に向かって一直線に飛んでいく。機内食を食べ終えたら、もう福岡に着陸だ。
「到着したら、すぐに皆既日食の日の種子島渡航準備を始めないといけないな!ああ忙しい!」
(旅行記:終)
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写真:サザンアルプスの谷間で停車中のトランツ・アルパイン号
写真:トランツ・アルパイン号の先頭に立つディーゼル機関車
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2009年6月19日
サザンアルプス山中の氷河湖レイク・テカポからクライストチャーチに戻ってきた。
今日は、朝から市バスで鉄道駅に向かい列車に乗る。
早朝のクライストチャーチ駅に停車して発車を待つのは、大人気の観光列車「トランツ・アルパイン」号。
アルパインの名の通り、サザンアルプスを越えて西海岸の港町グレイマウスへと向かう“ニュージーランド南島横断列車”だ。
列車から見るサザンアルプスの風景は大層素晴らしく、世界で最も車窓の美しい列車のひとつに選ばれたこともあるという。
この列車に乗って、今日は日帰りで「乗り鉄」を楽しもうと思う。
ニュージーランドでは鉄道の民営化に伴う行き過ぎた合理化の弊害で、旅客列車が極限まで削減されてしまい今では全国でも数えるほどの本数しか運転されていない。
大自然の国ニュージーランドが環境に優しい鉄道を冷遇しているという現状は解せない(まぁ政府がエコと称して国民にクルマやテレビを買い換えろと必死に煽り立ててる我が日本も他人のことは言えないが)。
運転本数が極端に少ない分、鉄道の予約システムもシンプルそのもので、インターネットのホームページで予約すると送られてくる確認メールをプリントアウトして駅に持参してチェックイン、その場で座席を割り当てられボーディングパスを渡されるという具合で、つまり乗車券・きっぷというものが存在しない(ボーディングパスは乗車後すぐ回収されてしまうし)。
解かり易くて結構なシステムだが、鉄道のシンボルアイテムと言うべききっぷが無いというのは少し寂しいような気もする。
8:14、クライストチャーチ発車。
定刻より1分早発なんだが…乗客が全員乗ったと確認できたらさっさと発車してしまうらしい。
冬の平日だというのに車内はほぼ満席。数日前に下見に来た時もそうだったが、この「トランツ・アルパイン」号、本当に大人気のようだ。
今日は座席車6輌に展望デッキ付き荷物車と電源車がつながった編成だが、夏の休暇シーズンには堂々10輌以上の座席車を連ねた長大編成を組むこともあるというのも頷ける。
クライストチャーチを出発すると、貨物ヤードや工場の間を掻い潜りながらかなりの速度で飛ばしていく。
何だか車窓の風景と道路に見覚えがあるが、どうやらレイク・テカポへとバスで向かう途中に通ったルートと並走しているようだ。
8:30頃、最初の停車駅Darfieldに到着。クライストチャーチの郊外駅といった風情のここから数名乗車した模様。
この駅で路線が分岐し、列車は西へと向かう。行く手にサザンアルプスの雪山が見え始める。
Springfield到着。
「ここで数分間停車するけど、乗り遅れに注意!汽笛が鳴ったらすぐ車内に戻れ」とまるでちょっと降りてみろと言わんばかりの車内放送があったので、早速プラットホームに降りる。
線路は真っ直ぐ、サザンアルプスに向かい延びている。
列車の先頭には山越えに備えてアメリカンスタイルの大型ディーゼル機関車が重連で立ち、行く手に待ち構える山脈を見据える。
汽笛に急かされ車内に戻ると、すぐ発車。
いよいよ車窓にサザンアルプスが迫ってきた。
編成の中間に連結された展望車から走行する列車を見る。
この展望車、完全オープンデッキなので見晴らしは最高だが、列車は山道でも容赦なく凄い勢いで高速走行しているので、吹きさらしのデッキはとにかく寒い!
サザンアルプスの奥深く分け入るように、「トランツ・アルパイン」号は往く。
雲海の谷を越え…
白銀の峰を目指す!
アルプス横断列車の名に相応しい、美しくも嶮しい車窓が展開する。
重連のDLに牽かれ山路を力強く駆け抜けた列車は、行程のほぼ中間点、山脈の北端に位置するアーサーズ・パスに到着。
国立公園の入り口となる駅で、数分間停車。
アーサーズ・パスを出るとすぐに長さ8キロを超える(と路線ガイドに書いてあった)トンネルを抜け、サザンアルプス越え区間は終わる。
その後は清流や牧場を見ながら、高原を走っていく。
ここまで長い時間を、寒さに耐えて過ごした展望車。
編成中間に連結される電源車の前後にオープンデッキの展望スペースがあるという独特なスタイルで、発電機の積まれた車輌中央部は立ち入り禁止なので編成の前後を行き来できないという、実にヘンテコな車輌ではある。
オープンデッキは山越え区間では手摺が氷結する程の寒さに加えて沿線の荒野や未舗装の道路、それに先頭のディーゼル機関車から土埃や煤が容赦なく降り注ぐという中々過酷な環境なのだが、それでも車窓をダイナミックに眺めることが出来るので乗客が入れ替わり立ち代わりやってくる車内一番の人気スポット。
壁には漢字で「禁煙」の注意書きも…
サザンアルプスが遠ざかり、西海岸の終着駅が近付いて来る。
最後の停車駅Moanaでは駅から湖が見えた。
昼過ぎ、終着駅グレイマウスに到着。
乗客が駅から去ると、「トランツ・アルパイン」号の編成はそのまま引き揚げていく。
折り返しの発車まで、小1時間程の休憩。
駅前から見た、グレイマウス駅舎。
グレイマウスはグレイ川の河口に広がる南島西海岸最大の町だが、それでもかなり小ぢんまりとした地方都市に過ぎない。
急峻な山地と切り立った海岸線が続く西海岸はニュージーランドでも特に人口希薄な地帯のようなのだ。
グレイマウスの名物は水害対策の大堤防だそうで、駅前にも堤防の土手が見えるので登ってみた。
堤防の向うにはグレイ川が流れていた。
堤防の上は遊歩道のようになっていたので、ちょっと散歩してみる。
暫らく歩くと、石炭貨車が並ぶ公園があった。
以前はここから石炭の積み出しが行われていたのだろうか。よく晴れた昼下がりなのに、どこか寂しげな雰囲気が漂う。
小さな散歩の後、駅に戻って、再び「トランツ・アルパイン」号に乗り込みクライストチャーチへと戻る。
往きの車中では展望車に入り浸ったり停車駅毎に降りて写真を撮ったりと忙しかったので、帰りは自分の席でのんびりしよう。
隣の席に座ったのはタスマニアから来たという爺さんで、1ヶ月かけてニュージーランドを巡っているとのこと。
「お前さんは、日本からひとりぼっちでニュージーランドまで何しに来たんだい?」とか聞かれたので、
「星を見に来たんですよ、テカポまでね。明日はもう日本に帰るよ」と答えると、
「テカポか!あそこの星は奇麗だろ?」
「うん、凄かった!日本では空が明るくて霞んでるから、あんな星空は見えないですよ」
「そうか、日本の空はfoggyなんだな」とか何とか会話。
向かいの席は地元のおっさん2人組みで、発車するや缶ビールを凄い勢いで開け始めてあっという間に出来上がってしまい、タスマニア爺さんと一緒にタスマニアンデビルに襲われてどうしたこうしたと盛り上がっている。
こちらは早朝からの乗り鉄の疲れが出て、ついウトウト。
と、列車が駅でもない場所で停車して、そのまま動かなくなってしまった。
サザンアルプスの谷間の信号所か何かで停まっているのだが、多分行き違いの貨物列車が遅れているんだろうと思ってそのまま居眠りを決め込んでいたが、10分程経っても動き出す気配がない。
そのうち退屈した乗客がどんどん列車を降り始めた。タスマニア爺さんの話によると「この先で線路を掘っている(保線工事をしている?)」とのことで、暫らく停車し続けそうだったので僕も降りてみた。
乗客は皆、手持ち無沙汰に列車の周りをウロウロしている。
僕はこれ幸いとばかりにベストアングルから「トランツ・アルパイン」号の編成を撮影。
すると、誰かがやっていることは真似したくなる心理は世界共通のようで、皆カメラを手に列車の撮影開始。
かくして、予期せぬ“トランツ・アルパイン号本線上撮影会”を楽しんだのでした。
結局、クライストチャーチには40分遅れて午後7時前に到着。
これで、今回のニュージーランド旅行の予定はすべて終了。明日、日本に帰る。
→ニュージーランド星空旅記2009~8、帰路・帰って来る空に続く
写真:トランツ・アルパイン号の先頭に立つディーゼル機関車
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2009年6月19日
サザンアルプス山中の氷河湖レイク・テカポからクライストチャーチに戻ってきた。
今日は、朝から市バスで鉄道駅に向かい列車に乗る。
早朝のクライストチャーチ駅に停車して発車を待つのは、大人気の観光列車「トランツ・アルパイン」号。
アルパインの名の通り、サザンアルプスを越えて西海岸の港町グレイマウスへと向かう“ニュージーランド南島横断列車”だ。
列車から見るサザンアルプスの風景は大層素晴らしく、世界で最も車窓の美しい列車のひとつに選ばれたこともあるという。
この列車に乗って、今日は日帰りで「乗り鉄」を楽しもうと思う。
ニュージーランドでは鉄道の民営化に伴う行き過ぎた合理化の弊害で、旅客列車が極限まで削減されてしまい今では全国でも数えるほどの本数しか運転されていない。
大自然の国ニュージーランドが環境に優しい鉄道を冷遇しているという現状は解せない(まぁ政府がエコと称して国民にクルマやテレビを買い換えろと必死に煽り立ててる我が日本も他人のことは言えないが)。
運転本数が極端に少ない分、鉄道の予約システムもシンプルそのもので、インターネットのホームページで予約すると送られてくる確認メールをプリントアウトして駅に持参してチェックイン、その場で座席を割り当てられボーディングパスを渡されるという具合で、つまり乗車券・きっぷというものが存在しない(ボーディングパスは乗車後すぐ回収されてしまうし)。
解かり易くて結構なシステムだが、鉄道のシンボルアイテムと言うべききっぷが無いというのは少し寂しいような気もする。
8:14、クライストチャーチ発車。
定刻より1分早発なんだが…乗客が全員乗ったと確認できたらさっさと発車してしまうらしい。
冬の平日だというのに車内はほぼ満席。数日前に下見に来た時もそうだったが、この「トランツ・アルパイン」号、本当に大人気のようだ。
今日は座席車6輌に展望デッキ付き荷物車と電源車がつながった編成だが、夏の休暇シーズンには堂々10輌以上の座席車を連ねた長大編成を組むこともあるというのも頷ける。
クライストチャーチを出発すると、貨物ヤードや工場の間を掻い潜りながらかなりの速度で飛ばしていく。
何だか車窓の風景と道路に見覚えがあるが、どうやらレイク・テカポへとバスで向かう途中に通ったルートと並走しているようだ。
8:30頃、最初の停車駅Darfieldに到着。クライストチャーチの郊外駅といった風情のここから数名乗車した模様。
この駅で路線が分岐し、列車は西へと向かう。行く手にサザンアルプスの雪山が見え始める。
Springfield到着。
「ここで数分間停車するけど、乗り遅れに注意!汽笛が鳴ったらすぐ車内に戻れ」とまるでちょっと降りてみろと言わんばかりの車内放送があったので、早速プラットホームに降りる。
線路は真っ直ぐ、サザンアルプスに向かい延びている。
列車の先頭には山越えに備えてアメリカンスタイルの大型ディーゼル機関車が重連で立ち、行く手に待ち構える山脈を見据える。
汽笛に急かされ車内に戻ると、すぐ発車。
いよいよ車窓にサザンアルプスが迫ってきた。
編成の中間に連結された展望車から走行する列車を見る。
この展望車、完全オープンデッキなので見晴らしは最高だが、列車は山道でも容赦なく凄い勢いで高速走行しているので、吹きさらしのデッキはとにかく寒い!
サザンアルプスの奥深く分け入るように、「トランツ・アルパイン」号は往く。
雲海の谷を越え…
白銀の峰を目指す!
アルプス横断列車の名に相応しい、美しくも嶮しい車窓が展開する。
重連のDLに牽かれ山路を力強く駆け抜けた列車は、行程のほぼ中間点、山脈の北端に位置するアーサーズ・パスに到着。
国立公園の入り口となる駅で、数分間停車。
アーサーズ・パスを出るとすぐに長さ8キロを超える(と路線ガイドに書いてあった)トンネルを抜け、サザンアルプス越え区間は終わる。
その後は清流や牧場を見ながら、高原を走っていく。
ここまで長い時間を、寒さに耐えて過ごした展望車。
編成中間に連結される電源車の前後にオープンデッキの展望スペースがあるという独特なスタイルで、発電機の積まれた車輌中央部は立ち入り禁止なので編成の前後を行き来できないという、実にヘンテコな車輌ではある。
オープンデッキは山越え区間では手摺が氷結する程の寒さに加えて沿線の荒野や未舗装の道路、それに先頭のディーゼル機関車から土埃や煤が容赦なく降り注ぐという中々過酷な環境なのだが、それでも車窓をダイナミックに眺めることが出来るので乗客が入れ替わり立ち代わりやってくる車内一番の人気スポット。
壁には漢字で「禁煙」の注意書きも…
サザンアルプスが遠ざかり、西海岸の終着駅が近付いて来る。
最後の停車駅Moanaでは駅から湖が見えた。
昼過ぎ、終着駅グレイマウスに到着。
乗客が駅から去ると、「トランツ・アルパイン」号の編成はそのまま引き揚げていく。
折り返しの発車まで、小1時間程の休憩。
駅前から見た、グレイマウス駅舎。
グレイマウスはグレイ川の河口に広がる南島西海岸最大の町だが、それでもかなり小ぢんまりとした地方都市に過ぎない。
急峻な山地と切り立った海岸線が続く西海岸はニュージーランドでも特に人口希薄な地帯のようなのだ。
グレイマウスの名物は水害対策の大堤防だそうで、駅前にも堤防の土手が見えるので登ってみた。
堤防の向うにはグレイ川が流れていた。
堤防の上は遊歩道のようになっていたので、ちょっと散歩してみる。
暫らく歩くと、石炭貨車が並ぶ公園があった。
以前はここから石炭の積み出しが行われていたのだろうか。よく晴れた昼下がりなのに、どこか寂しげな雰囲気が漂う。
小さな散歩の後、駅に戻って、再び「トランツ・アルパイン」号に乗り込みクライストチャーチへと戻る。
往きの車中では展望車に入り浸ったり停車駅毎に降りて写真を撮ったりと忙しかったので、帰りは自分の席でのんびりしよう。
隣の席に座ったのはタスマニアから来たという爺さんで、1ヶ月かけてニュージーランドを巡っているとのこと。
「お前さんは、日本からひとりぼっちでニュージーランドまで何しに来たんだい?」とか聞かれたので、
「星を見に来たんですよ、テカポまでね。明日はもう日本に帰るよ」と答えると、
「テカポか!あそこの星は奇麗だろ?」
「うん、凄かった!日本では空が明るくて霞んでるから、あんな星空は見えないですよ」
「そうか、日本の空はfoggyなんだな」とか何とか会話。
向かいの席は地元のおっさん2人組みで、発車するや缶ビールを凄い勢いで開け始めてあっという間に出来上がってしまい、タスマニア爺さんと一緒にタスマニアンデビルに襲われてどうしたこうしたと盛り上がっている。
こちらは早朝からの乗り鉄の疲れが出て、ついウトウト。
と、列車が駅でもない場所で停車して、そのまま動かなくなってしまった。
サザンアルプスの谷間の信号所か何かで停まっているのだが、多分行き違いの貨物列車が遅れているんだろうと思ってそのまま居眠りを決め込んでいたが、10分程経っても動き出す気配がない。
そのうち退屈した乗客がどんどん列車を降り始めた。タスマニア爺さんの話によると「この先で線路を掘っている(保線工事をしている?)」とのことで、暫らく停車し続けそうだったので僕も降りてみた。
乗客は皆、手持ち無沙汰に列車の周りをウロウロしている。
僕はこれ幸いとばかりにベストアングルから「トランツ・アルパイン」号の編成を撮影。
すると、誰かがやっていることは真似したくなる心理は世界共通のようで、皆カメラを手に列車の撮影開始。
かくして、予期せぬ“トランツ・アルパイン号本線上撮影会”を楽しんだのでした。
結局、クライストチャーチには40分遅れて午後7時前に到着。
これで、今回のニュージーランド旅行の予定はすべて終了。明日、日本に帰る。
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写真:レイク・テカポの青空の下の“善き羊飼いの教会”
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2009年6月17日
レイク・テカポで天空を横切る天の河に圧倒された一夜が明けた。
今日は、いよいよテカポ湖畔に聳えるマウントジョンに自分の足で登り、山頂のマウントジョン天文台を目指す!
ニュージーランドではトレッキングが大人気で、国内各地の景勝地には必ずと云って良いほど素晴らしいトレッキングコースが整備されている、らしい。
ここレイク・テカポにも勿論トレッキングコースが幾つかあり、そのうち2つの路はマウントジョンへと登る登山ルートとなっている。
登山とは言えレイク・テカポから見えるマウントジョンは小高い丘みたいな感じで(それでも実際には標高1000メートル以上もある高山なのだが、麓のテカポ自体がかなり標高が高いので…)、ハイキング感覚で気軽に登って来れそうだ。
マウントジョン天文台には今夜予約している星空ツアーでクルマの送迎付きで行けることになっているのだが、それでも折角だから日中に自力で到達して場所の感覚を摑んでおきたい。
それに、この素晴らしい景色を高いところから一望したらどんなにか気分が良いだろう。
という訳で、普段は山登りなんか全然しない僕も「そこにマウントジョンがあるから登るのだ、山頂に天文台があるから見に行くのだ!」とばかりに出発ー!
しかし、いきなり寝坊してしまい(何しろ昨夜は本当に夜明け近くまで星空を見上げて起きていたからなぁ…)、起きたらもうお昼。
大急ぎで仕度をして、現地調達の手袋と日本から持参した使い捨てカイロで身を固めて、セーターとコートを着込んで、さあ出かけよう!
外に出たら、この天気。
「何だこのどんよりした曇り空は!?昨日の突き抜けるような青空はどこに行ったんだ?」
それでもまぁ雨は降っていないし、山の天気は変わりやすいって言うからそのうち晴れてくるかも知れん。
とにかく行こう。
先ずは湖畔の木立を抜けて行き(昨夜、天の河をクリスマスツリーと見紛うたあの木立だ)、登山道の入り口のアスレチッククラブを目指す。
ここからトレッキングコースは二手に分かれていて、右手に進むとそのまま湖畔を進んでなだらかに山肌を登っていくゆっくりのんびり遠回りルートとなり、左手に進むといきなり急傾斜の山道を駆け登り直接山頂へと続くきつい近道ルートになる、みたい。
きつい思いなんかしたくないので、勿論右に進む。
路沿いの草木は立ち枯れているが、こんな実をつけてる小さな木もあったよ。
たまに野うさぎとすれ違ったりしながら、どんどん進む。
マウントジョンの裾の枯野をどんどん登っていく。
段々と、空が近付いてくる。のんびりルートとは言え、普段の運動不足が響いてか結構きつい。
「ふぅー、急斜面コースに行かなくてよかったぜ」
でも、雲が切れて青空が覗き始めたぞ。
「やった!このまま晴れろ晴れろ!」
高いところから見ると、一段と素晴らしいレイク・テカポとサザンアルプス。
近付いてきそうで、なかなか近くならない山頂。
「麓からだと小さな土山みたいだったが…やっぱり標高千メートルは侮れんな、マウントジョン。」
尾根を越える。
ここで進行方向が180度ターン、ようやく中間点まで到達した訳だ。
しかし、尾根ですれ違って挨拶を交わした白人女性トレッカーがかなりの重装備だったのが気になるな。本格的な登山靴を履いてたし…
「旅行用の靴をそのまま履いて、街に買い物に行く時みたいな格好で登るのはひょっとして無謀だったのかな?」
でも、ここまで何とか無事に登ってきたんだから、何とかなるでしょ。
(※僕は何とかなりましたが、山を舐めると非常に危険です。もし当地で登山をされる場合はちゃんとした装備で臨まれることを強くお薦めします。いやマジで。)
尾根を越えて暫らく登ると…
「うわー!これが、マウントジョンの向こう側かぁー!」
何と、見渡す限り白銀の山稜が続いていたのだ。
「広い広い!何て広大な山脈なんだ…どこまで続いているのか、見当もつかないよ。
それに、空もすっかり晴れてきた。宇宙へつながってる暗い青空が戻ってきたぞ!」
今来た路を振り返ると、テカポ湖の端っこが見える。
テカポ湖の隣の氷河湖が見えてきた。なんていう名前なのかな。
やがてトレッキングコースはクルマが通れる舗装道路に合流。
ここまで来ればあと一息、もうすぐ山頂の天文台に着く筈。
こんな標識も立ってます。
天文台での観測が、クルマのヘッドライトに邪魔されたら困るもんね。
それにしても、ニュージーランドにはフレンドリーな人が多いというか、山道で登山者と出会うとにっこり笑顔で挨拶を交わすのは当然だが、ここではクルマですれ違うドライバーも僕に笑顔で手を挙げて挨拶してくれるのだ。
坂道をヒーヒー云いながら登ってバテ気味になったが、嬉しくて元気が出てくるね。ついでに「ジャパニーズフレンド、乗ってくか?」って山頂まで乗せてってくれたらもっと嬉しいんだけど(笑)
いやいや、折角ここまで来たんだ、こうなったら最後まで自力で登りきるぞー!
いよいよ、山頂に建ち並ぶ観測ドームが見えてきました!
本当にあと一息!
そして…
「着いたー!!ここがマウントジョン南峰の山頂だぁー!!」
レイク・テカポのホテルを出発してから2時間余り、とうとう登頂!
山頂のベンチに腰をおろし、達成感で至福の一時を過ごす。
「ここまで来るのは大変だったけど、テカポの町があんなに近くに見えるよ。善き羊飼いの教会や、泊まってるホテルも見えるねぇ」
さて、一休みして疲れも和らいだ。
早速、マウントジョン天文台を見に行こう!
マウントジョン天文台全景。
奥に見えるガラス張りの建物は観光客向けのカフェ。
名古屋大学などが中心になって進めている「MOAプロジェクト」で使われる望遠鏡の概況を説明するボードも用意されている。
サザンアルプスに擁かれたマウントジョン天文台は、外宇宙への入り口なのだ。
消え去った飛べない巨鳥モアの名を持つ望遠鏡がサザンアルプスの空に羽ばたき、まだ見ぬ星を探している。
昨夜の星空を思い出しながら、ここで遥か彼方の惑星系を目指す天空の大冒険が毎夜行われているんだと思うと、思わず胸が熱くなる。
そろそろ夕方だ、暗くなる前に下山しよう。
今夜はここから星空を見るんだ、テカポの町灯りの中でもあれだけの星空が広がったんだ、太陽系外惑星まで見えるマウントジョン天文台からの星空は、一体どれ程凄まじいものなんだろう?
数時間後の再訪を思いワクワクしながら山を下る。
帰りは急斜面の近道ルートを通って、一気に町まで駆け下りよう。
「成程、えらく急な坂道だ。登るときに通らなくて良かった。」
でも確かに近道で、行きは2時間半かかった道程を1時間もかからず下山できた。
「え?山頂まではこんなに近かったの?でも、この近道ルートだとずっと木立の中を行くから景色は楽しめないね。やっぱり、行きに遠回りルートを通って来たのは正解だったかな。あの景色はやっぱり捨て難いわ」
今後、レイク・テカポからマウントジョンに登られる方は参考にしてみて下さいな。
テカポ湖に太陽が沈んでいく。
もうすぐ、またあの星空の大劇場が空一面に広がるかと思うとワクワクする。
「おや?サザンアルプスの峰に傘がかかってるな。」
まさかこの傘雲が、今夜の悲劇の前触れだったとは…
マウントジョン天文台星空ツアーの集合時刻は午後8時15分だ。
それまでホテルでシャワーを浴びてゆっくり休んでから、ホテルの隣にあるサーモン丼で有名な日本食レストランその名も「湖畔レストラン」に行って腹ごしらえ。
日本人ツアー客の団体さん達が盛大に幕の内弁当を食べていたりしたので尻込みしたが、日本人の店員さん達は親切だ。名物サーモン丼も美味しかったし。
腹もくちくなって、さあ行くぞ星空ツアーだ!
再び使い捨てカイロと手袋とマフラーで身を固め(何しろ、昨日予約の再確認に行ったら「とにかく暖かい格好で来て下さい」と念を押されたからな)、灯りの点いているツアーの事務所に行くと…
「ああmさん、今夜は雲が出てきたので、ツアーはキャンセルされちゃいました」
何ですとーーー!?キャンセルとなーーー!!??
「ええ、残念ですが…先程から急に雲が流れてきましてね」
「そうですか…アア、ナンテコッタイ。。。でも、自然が相手じゃ仕方がないですね…」
「ええ、本当に残念ですが」
「うん、僕、絶対再チャレンジしますよ!いつかまたレイク・テカポに来て、絶対マウントジョン天文台で星を見ます!
その時は、また宜しくお願いしますね!」
元気にリベンジを誓ったものの、ホテルの自室に戻ったら暫らく座り込んだきり起き上がる気力もなかった。
ベッドに放り出したままになっていた「銀河鐡道の夜」を手に取り、ページをめくってみる。
「あなた方は、どちらへいらつしやるんですか。」
「どこまでも行くんです。」
「それはいいね。この汽車は、じつさい、どこまででも行きますぜ。」
~宮澤賢治「銀河鐡道の夜」より~
そのまま数時間は本を読み耽っていただろうか。もう日付が変わる頃になっている。
本を置いて、そのまま(防寒着も脱がず着込んだままだった)窓を開けて、凍える外に出てみた。
「昨夜は、この湖畔の道から星を見たなぁ。凄い星空だった。」
そう思って見上げると…
「えっ!?洪水!?」
そこには、昨夜以上に凄まじい天の河の流れがあった。それは最早、激流といった方がいい程の。
「いつの間にか、雲が晴れたんだ!凄い、凄いぞ!!星空がこんなに明るかったなんて。」
僕は“善き羊飼いの教会”まで歩いていった。天の河に照らされて、街灯もない道でもそのまま歩けるのだ。
教会の庭に置かれた石に腰をおろし、空を見上げる。
天の河は天頂をぶった切って轟々と流れ、濁流の先はテカポ湖に注ぎ込んでいる。湖と空が、完全につながっているのだ。
それは、凶暴なまでの星空だった。恐るべき星空だった。
「これが、本当の宇宙か…」
僕は夜明け近くまで、ただただ圧倒されながらそれに見入っていた。
翌朝。
青空の下のマウントジョン。
昨夜は出ていなかった月が青空に白く淡く光っている。「あっ!日本を出るときに見た月とは、欠けている部分が左右逆に見える!」
南半球にいるんだから、考えてみれば当たり前のことなんだけど何とも奇妙な感覚。
今日はレイク・テカポを離れ、昼過ぎのバスでクライストチャーチへと戻る。
名残りのテカポ湖畔を暫し散策してからバスストップに行くと…
「オオ~、モシモシ~!」
またあのモシモシおっちゃんがバスの中で待っていた。
→ニュージーランド星空旅記2009~7、サザンアルプスを越える鉄路に続く
←ニュージーランド星空旅記2009~5、天の河からの続きです
2009年6月17日
レイク・テカポで天空を横切る天の河に圧倒された一夜が明けた。
今日は、いよいよテカポ湖畔に聳えるマウントジョンに自分の足で登り、山頂のマウントジョン天文台を目指す!
ニュージーランドではトレッキングが大人気で、国内各地の景勝地には必ずと云って良いほど素晴らしいトレッキングコースが整備されている、らしい。
ここレイク・テカポにも勿論トレッキングコースが幾つかあり、そのうち2つの路はマウントジョンへと登る登山ルートとなっている。
登山とは言えレイク・テカポから見えるマウントジョンは小高い丘みたいな感じで(それでも実際には標高1000メートル以上もある高山なのだが、麓のテカポ自体がかなり標高が高いので…)、ハイキング感覚で気軽に登って来れそうだ。
マウントジョン天文台には今夜予約している星空ツアーでクルマの送迎付きで行けることになっているのだが、それでも折角だから日中に自力で到達して場所の感覚を摑んでおきたい。
それに、この素晴らしい景色を高いところから一望したらどんなにか気分が良いだろう。
という訳で、普段は山登りなんか全然しない僕も「そこにマウントジョンがあるから登るのだ、山頂に天文台があるから見に行くのだ!」とばかりに出発ー!
しかし、いきなり寝坊してしまい(何しろ昨夜は本当に夜明け近くまで星空を見上げて起きていたからなぁ…)、起きたらもうお昼。
大急ぎで仕度をして、現地調達の手袋と日本から持参した使い捨てカイロで身を固めて、セーターとコートを着込んで、さあ出かけよう!
外に出たら、この天気。
「何だこのどんよりした曇り空は!?昨日の突き抜けるような青空はどこに行ったんだ?」
それでもまぁ雨は降っていないし、山の天気は変わりやすいって言うからそのうち晴れてくるかも知れん。
とにかく行こう。
先ずは湖畔の木立を抜けて行き(昨夜、天の河をクリスマスツリーと見紛うたあの木立だ)、登山道の入り口のアスレチッククラブを目指す。
ここからトレッキングコースは二手に分かれていて、右手に進むとそのまま湖畔を進んでなだらかに山肌を登っていくゆっくりのんびり遠回りルートとなり、左手に進むといきなり急傾斜の山道を駆け登り直接山頂へと続くきつい近道ルートになる、みたい。
きつい思いなんかしたくないので、勿論右に進む。
路沿いの草木は立ち枯れているが、こんな実をつけてる小さな木もあったよ。
たまに野うさぎとすれ違ったりしながら、どんどん進む。
マウントジョンの裾の枯野をどんどん登っていく。
段々と、空が近付いてくる。のんびりルートとは言え、普段の運動不足が響いてか結構きつい。
「ふぅー、急斜面コースに行かなくてよかったぜ」
でも、雲が切れて青空が覗き始めたぞ。
「やった!このまま晴れろ晴れろ!」
高いところから見ると、一段と素晴らしいレイク・テカポとサザンアルプス。
近付いてきそうで、なかなか近くならない山頂。
「麓からだと小さな土山みたいだったが…やっぱり標高千メートルは侮れんな、マウントジョン。」
尾根を越える。
ここで進行方向が180度ターン、ようやく中間点まで到達した訳だ。
しかし、尾根ですれ違って挨拶を交わした白人女性トレッカーがかなりの重装備だったのが気になるな。本格的な登山靴を履いてたし…
「旅行用の靴をそのまま履いて、街に買い物に行く時みたいな格好で登るのはひょっとして無謀だったのかな?」
でも、ここまで何とか無事に登ってきたんだから、何とかなるでしょ。
(※僕は何とかなりましたが、山を舐めると非常に危険です。もし当地で登山をされる場合はちゃんとした装備で臨まれることを強くお薦めします。いやマジで。)
尾根を越えて暫らく登ると…
「うわー!これが、マウントジョンの向こう側かぁー!」
何と、見渡す限り白銀の山稜が続いていたのだ。
「広い広い!何て広大な山脈なんだ…どこまで続いているのか、見当もつかないよ。
それに、空もすっかり晴れてきた。宇宙へつながってる暗い青空が戻ってきたぞ!」
今来た路を振り返ると、テカポ湖の端っこが見える。
テカポ湖の隣の氷河湖が見えてきた。なんていう名前なのかな。
やがてトレッキングコースはクルマが通れる舗装道路に合流。
ここまで来ればあと一息、もうすぐ山頂の天文台に着く筈。
こんな標識も立ってます。
天文台での観測が、クルマのヘッドライトに邪魔されたら困るもんね。
それにしても、ニュージーランドにはフレンドリーな人が多いというか、山道で登山者と出会うとにっこり笑顔で挨拶を交わすのは当然だが、ここではクルマですれ違うドライバーも僕に笑顔で手を挙げて挨拶してくれるのだ。
坂道をヒーヒー云いながら登ってバテ気味になったが、嬉しくて元気が出てくるね。ついでに「ジャパニーズフレンド、乗ってくか?」って山頂まで乗せてってくれたらもっと嬉しいんだけど(笑)
いやいや、折角ここまで来たんだ、こうなったら最後まで自力で登りきるぞー!
いよいよ、山頂に建ち並ぶ観測ドームが見えてきました!
本当にあと一息!
そして…
「着いたー!!ここがマウントジョン南峰の山頂だぁー!!」
レイク・テカポのホテルを出発してから2時間余り、とうとう登頂!
山頂のベンチに腰をおろし、達成感で至福の一時を過ごす。
「ここまで来るのは大変だったけど、テカポの町があんなに近くに見えるよ。善き羊飼いの教会や、泊まってるホテルも見えるねぇ」
さて、一休みして疲れも和らいだ。
早速、マウントジョン天文台を見に行こう!
マウントジョン天文台全景。
奥に見えるガラス張りの建物は観光客向けのカフェ。
名古屋大学などが中心になって進めている「MOAプロジェクト」で使われる望遠鏡の概況を説明するボードも用意されている。
サザンアルプスに擁かれたマウントジョン天文台は、外宇宙への入り口なのだ。
消え去った飛べない巨鳥モアの名を持つ望遠鏡がサザンアルプスの空に羽ばたき、まだ見ぬ星を探している。
昨夜の星空を思い出しながら、ここで遥か彼方の惑星系を目指す天空の大冒険が毎夜行われているんだと思うと、思わず胸が熱くなる。
そろそろ夕方だ、暗くなる前に下山しよう。
今夜はここから星空を見るんだ、テカポの町灯りの中でもあれだけの星空が広がったんだ、太陽系外惑星まで見えるマウントジョン天文台からの星空は、一体どれ程凄まじいものなんだろう?
数時間後の再訪を思いワクワクしながら山を下る。
帰りは急斜面の近道ルートを通って、一気に町まで駆け下りよう。
「成程、えらく急な坂道だ。登るときに通らなくて良かった。」
でも確かに近道で、行きは2時間半かかった道程を1時間もかからず下山できた。
「え?山頂まではこんなに近かったの?でも、この近道ルートだとずっと木立の中を行くから景色は楽しめないね。やっぱり、行きに遠回りルートを通って来たのは正解だったかな。あの景色はやっぱり捨て難いわ」
今後、レイク・テカポからマウントジョンに登られる方は参考にしてみて下さいな。
テカポ湖に太陽が沈んでいく。
もうすぐ、またあの星空の大劇場が空一面に広がるかと思うとワクワクする。
「おや?サザンアルプスの峰に傘がかかってるな。」
まさかこの傘雲が、今夜の悲劇の前触れだったとは…
マウントジョン天文台星空ツアーの集合時刻は午後8時15分だ。
それまでホテルでシャワーを浴びてゆっくり休んでから、ホテルの隣にあるサーモン丼で有名な日本食レストランその名も「湖畔レストラン」に行って腹ごしらえ。
日本人ツアー客の団体さん達が盛大に幕の内弁当を食べていたりしたので尻込みしたが、日本人の店員さん達は親切だ。名物サーモン丼も美味しかったし。
腹もくちくなって、さあ行くぞ星空ツアーだ!
再び使い捨てカイロと手袋とマフラーで身を固め(何しろ、昨日予約の再確認に行ったら「とにかく暖かい格好で来て下さい」と念を押されたからな)、灯りの点いているツアーの事務所に行くと…
「ああmさん、今夜は雲が出てきたので、ツアーはキャンセルされちゃいました」
何ですとーーー!?キャンセルとなーーー!!??
「ええ、残念ですが…先程から急に雲が流れてきましてね」
「そうですか…アア、ナンテコッタイ。。。でも、自然が相手じゃ仕方がないですね…」
「ええ、本当に残念ですが」
「うん、僕、絶対再チャレンジしますよ!いつかまたレイク・テカポに来て、絶対マウントジョン天文台で星を見ます!
その時は、また宜しくお願いしますね!」
元気にリベンジを誓ったものの、ホテルの自室に戻ったら暫らく座り込んだきり起き上がる気力もなかった。
ベッドに放り出したままになっていた「銀河鐡道の夜」を手に取り、ページをめくってみる。
「あなた方は、どちらへいらつしやるんですか。」
「どこまでも行くんです。」
「それはいいね。この汽車は、じつさい、どこまででも行きますぜ。」
~宮澤賢治「銀河鐡道の夜」より~
そのまま数時間は本を読み耽っていただろうか。もう日付が変わる頃になっている。
本を置いて、そのまま(防寒着も脱がず着込んだままだった)窓を開けて、凍える外に出てみた。
「昨夜は、この湖畔の道から星を見たなぁ。凄い星空だった。」
そう思って見上げると…
「えっ!?洪水!?」
そこには、昨夜以上に凄まじい天の河の流れがあった。それは最早、激流といった方がいい程の。
「いつの間にか、雲が晴れたんだ!凄い、凄いぞ!!星空がこんなに明るかったなんて。」
僕は“善き羊飼いの教会”まで歩いていった。天の河に照らされて、街灯もない道でもそのまま歩けるのだ。
教会の庭に置かれた石に腰をおろし、空を見上げる。
天の河は天頂をぶった切って轟々と流れ、濁流の先はテカポ湖に注ぎ込んでいる。湖と空が、完全につながっているのだ。
それは、凶暴なまでの星空だった。恐るべき星空だった。
「これが、本当の宇宙か…」
僕は夜明け近くまで、ただただ圧倒されながらそれに見入っていた。
翌朝。
青空の下のマウントジョン。
昨夜は出ていなかった月が青空に白く淡く光っている。「あっ!日本を出るときに見た月とは、欠けている部分が左右逆に見える!」
南半球にいるんだから、考えてみれば当たり前のことなんだけど何とも奇妙な感覚。
今日はレイク・テカポを離れ、昼過ぎのバスでクライストチャーチへと戻る。
名残りのテカポ湖畔を暫し散策してからバスストップに行くと…
「オオ~、モシモシ~!」
またあのモシモシおっちゃんがバスの中で待っていた。
→ニュージーランド星空旅記2009~7、サザンアルプスを越える鉄路に続く