宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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超新星爆発はデコボコ構造

2012年08月07日 | 宇宙 space
銀河系外にある超新星の偏光観測から、超新星爆発の形がデコボコなことが分かりました。

大質量の恒星が、一生の最後に起こす爆発が超新星爆発です。
この爆発が完全な球形ではないことは、これまでシミュレーションで分かっていました。
でも、デコボコができるメカニズムは分かってなかったんですねー

国立天文台などの研究チームは、このメカニズムの検証にハワイの“すばる望遠鏡”を使いました。
“すばる望遠鏡”に搭載された“微光天体分光撮像装置”を使い、
実際の観測から超新星爆発が、どのような形で起こっているのかを調べたんですねー

遠方の超新星爆発の形を実際に見るのは困難なので、今回は超新星からの光の偏光を調べています。

偏光とは、光の振動方向の偏りのことです。
デコボコした爆発から出る光の場合には、波長ごとに偏光の向きがバラバラになります。




きれいな形状の爆発では、
偏光の向きが揃う(右)
デコボコした形状の場合、
波長によって偏光の向きが
バラバラになる(左)


今回観測した超新星爆発は、2009年に出現した“SN 2009jf”と“SN 2009mi”です。
この2つは偏光の向きがバラバラ… つまり爆発の形がデコボコということになります。

研究チームは以前の観測と合わせて、6つの超新星爆発のデータを調べました。
すると、そのうちの5つでデコボコの形が見つかったんですねー
なので、超新星爆発の形がデコボコなのが、稀なものではないということです。

超新星爆発が、どのような立体形状をしているのか?
これについては銀河系内の超新星爆発の観測から、これまでに数例行われてきました。
でも、銀河系内では100年に1度程度しか超新星爆発は起こらいないので、観測できるサンプルが少なくなります。

今回のように銀河系外の超新星爆発の形を、光の偏光からとらえることができれば…
これから出現する多くの超新星爆発に応用できるんですねー

そして、超新星爆発のメカニズムを解明する糸口になるのかもしれません。

世界で一番高い場所から観測して分かったこと

2012年08月06日 | 宇宙 space
銀河の成長する過程が、アタカマ天文台の観測から明らかになってきました。
アタカマ天文台は世界一高い場所にある天文台で、南米チリのチャナントール山(標高5,640m)の山頂にあります。

今回分かってきたのは銀河の形についてです。
銀河がどのような形になるのかが、作られる段階から「はっきり分かれている」可能性があることです。

大量の星を生み出している形成途上の銀河は、強い赤外線を出すことが知られています。
でも、その活動の詳細は星生成活動で大量に作られるチリの雲に隠されて、よく分かってないんですねー

東京大学を中心とする研究チームは、
水素パッシェンα(Paα)輝線と呼ばれる、特定の波長の赤外線に着目して観測を行っています。
Paα輝線とは、宇宙空間の中性水素原子が恒星からの紫外線によって電子と陽子に分離され、再び結合する際に放射される光です。

この輝線は銀河中のチリの雲を通り抜けてくるのですが、地球大気中の水蒸気に吸収されやすいという特徴があるんですねー

研究チームは水蒸気の影響をできるだけ小さくするため、天文台としては世界一高い場所となるチャナントール山山頂を選んだということです。
ここに口径1mの光学赤外線望遠鏡“ミニタオ(miniTAO)”を建設しました。



東京大学アタカマ天文台(左)
近赤外線カメラANIRを搭載した
ミニタオ(miniTAO)望遠鏡(右)


星の生成が爆発的に行われている銀河を、Paαで観測するプロジェクトは他にもあります。
その中でもミニタオによる観測は、最多の38個もの銀河をとらえることに成功しています。








ミニタオがとらえた銀河の赤外線画像
赤色がPaα輝線




さらに、星の生成が爆発的に行われている銀河は、
星生成が活発な領域が銀河の中心部に集中している“楕円銀河に似たタイプ”と、
銀河全体に広がっている“渦巻銀河に似たタイプ”の2種類にハッキリと分かれることが分かったんですねー

この結果は、現在の宇宙に普遍的に見られる“楕円銀河”と“渦巻銀河”という2種類の銀河の形状が、その形成段階ですでに2つに分かれていた可能性を表しています。

“楕円銀河”は、はるか昔の銀河同士の衝突合体によって爆発的に星を生成し、今の形状に落ち着いた後には星はほとんど作られないと考えられてきました。

でも、今回の観測では“楕円銀河”の中心では今でも爆発的に星が作られ、質量を増やしつつあるものが存在することが分かったんですねー



銀河の形状の中心集中度の観測結果
横軸が古い星の分布の中心集中度
縦軸が新たに生れた星の分布の中心集中度


一般的に中心集中度が高いほど
銀河の形状は楕円銀河的なる



“楕円銀河”の質量形成には、未だ知られていない過程があるようです。

研究チームでは、今後もさらに多くの爆発的に星が作られている銀河の観測を行うそうです。
銀河の性質や成長過程が、だんだん明らかになっていくのが楽しみですね。

最も遠くにある超新星の残骸

2012年08月05日 | 宇宙 space
国内の研究チームが“すばる望遠鏡”を使って、最も遠くにある超新星の残骸を発見しました。
この超新星の残骸は120億光年のかなたにあり、観測史上最も遠方となるんですねー

今回の観測で研究チームは、手前の天体の重力を「レンズ」として利用する方法をもちています。
これにより、「銀河が活発に作られていた、100億年以上前の宇宙の歴史を明らかにできる」 っと期待されています。

研究チームはハワイの“スバル望遠鏡”を使って、119億光年先にあるクエーサーを観測。
赤外スペクトルを分離して取得することに世界で初めて成功しました。
(クエーサーと遠方銀河の中心にあり、非常に明るく輝く活動銀河核の一種です。)

このクエーサー“B1422+231”は、地球から37億光年先の銀河付近を通して見えます。
このとき銀河の重力によりクエーサーの光が曲げられ(重力レンズ効果)、4つの像に分裂して見えるんですねー

この4つの像のうち、今回とらえた像AとBのスペクトルを調べたところ、
クエーサーより0.5億光年手前に位置するガス雲に、
マグネシウムや鉄といった重元素が含まれている痕跡が、吸収線(スペクトル中の暗い線)として現れました。

また、同クエーサーは過去にアメリカの研究チームが、像AとCの可視光スペクトルを取得しています。
これを併せることで、ガス雲の大きさや運動も明らかになったんですねー

これら重元素の存在や運動のようすから、ガス雲は超新星爆発の残骸だと考えられます。
特に鉄が多く含まれているので、超新星爆発のなかでも鉄を多く放出するIa型超新星爆発の残骸のようです。

恒星の重力崩壊でなく、白色矮性が起こす暴走的核融合で発生するのがIa型超新星爆発です。
これまでに発見されていた最遠記録は約93億光年先なので、
今回の約120億光年という距離は、記録を大幅に更新したことになります。

今回の発見は、重力レンズ効果によって約400倍に拡大された超新星残骸を、
吸収線といういわば「影」によって見るという斬新な方法によって初めて可能になったんですねー

Ia型超新星爆発は宇宙における元素合成や、物質循環の基礎となる重要な現象です。
これが約120億年前という宇宙が誕生して間もない時代に、すでに起こっていることを世界で初めて観測により明らかにしました。

今回の研究は、私達の周りに存在する多くの元素の起源を探るうえで重要な成果になります。

研究チームでは今後、多くの重力レンズ効果を受けたクエーサーの分光観測を進める予定です。
100億光年以上先の遠方宇宙における、ガス雲の状態や銀河の歴史が解明されることを期待しましょう。

超新星の残骸に若いパルサーを発見かも…

2012年08月04日 | 宇宙 space
50年以上前に見つかった超新星の残骸から、これまで確認されていなかったX線の放射が検出されました。

この超新星の残骸は地球から約1500万光年離れた渦巻銀河M83で1957年に見つかり、
その年に4番目に発見されたので、“SN 1957D”と名付けられています。

爆発の光が検出できなくなった後も、
銀河系外の天体としては珍しく1981年には電波波長、1987年には可視光波長によって爆発の残骸は観測されてきました。

NASAでは2010年と2011年にX線観測衛星“チャンドラ”を使い観測を行ったのですが、
比較的短い(約14時間)観測だったのでX線は検出できなかったんですねー

今回“SN 1957D”が属する渦巻銀河を“チャンドラ”で8.5日間観測し、ようやくX線をとらえることに成功したということです。

“SN 1957D”の残骸は大質量の恒星が、重力崩壊してできたと考えられています。
X線分布からは、残骸の中心には光速で回転する中性子星(パルサー)があるらしいことが分かっています。







画像の赤、緑、青はそれぞれ
“チャンドラ”が観測した
低エネルギーX線、中エネルギーX線、
高エネルギーX線を表している



パルサーは崩壊した星の核が元となった高密度天体で、
その周囲には光速に近い速度で移動する荷電粒子の雲(パルサー風星雲)を作り出しているかもしれません。

もしそうなら、これは観測されたものとしては最も若い55歳のパルサーになるんですねー

また、“かみのけ座”の渦巻銀河M100で1979年に起こった超新星爆発にも、
パルサーらしきものが見られるのですが、ブラックホールなのかパルサーなのか分かっていません。
ひょっとすると、最も若いパルサーは33歳になるのかもしれません…

衛星“イアペトゥス”の巨大地滑り

2012年08月03日 | 土星の探査
NASAの探査機“カッシーニ”が、土星の衛星“イアペトゥス”の凍った表面に巨大な地滑りの跡を発見しました。
地滑りは30ヵ所もあり、巨大隕石の衝突で引き起こされた可能性が高いようです。

“イアペトゥス”の表面には、
クレーターの切り立った崖や、エベレストの2倍以上になる高さの山脈がそびえています。
地滑りには理想的な環境といえるんですねー

この衛星は太陽系の主な天体の中でも、
大きさに比べて地表の高低差が最も激しい天体の1つです。
火星を除けば地滑りが最も多いそうです。

ワシントン大学の研究チームが、“カッシーニ”の地滑り写真を分析した結果、
地滑りは長距離におよんでいたそうです。
クレーターの壁や山の尾根から崩落した「凍った岩屑」は、ときには80キロも地表を移動したとか…
これは落下した高さの20~30倍の距離になるんですねー

地球上の大半の地滑りは、崩落した高さの2倍の距離しか移動しません。
でも、“長距離運動地滑り”と呼ばれる地滑りは遠くまで滑り、
“イアペトゥス”で見られる地滑りに似た動きをします。

地球上の“長距離運動地滑り”は長く科学者を悩ませてきました。
なんせ転がり落ちる岩や氷は、摩擦で止まってしまうんですねー

“イアペトゥス”では、何らかの要因が氷の地滑りの摩擦を減らしているようです。
研究チームが要因として考えたのが「摩擦熱」です。

フラッシュヒーティングと呼ばれる急激な発熱現象は、
地滑りの摩擦が氷を熱し、滑りやすくして、落ちていく岩屑の速度を高めます。
移動がとても速いので、熱が周囲の物質に放射する時間が無いんですねー
熱は狭い領域に集中するので、温度が十分に上がり冷たく固い氷はさらに滑りやすくなります。

これは地球で起こる“長距離運動地滑り”を解明する手掛かりになるのかもしれません。
“イアペトゥス”の地滑りを理解することは、地球上で起こる地滑り(天災)を防ぐ一手になるのかもしれません。