宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

土星の巨大嵐“大白斑”の謎

2015年05月21日 | 宇宙 space
環を持つ巨大ガス惑星“土星”では、
20~30年に1度の周期で、巨大な超大型嵐が発生します。

その超大型嵐は“大白斑”といい、数か月にわたって猛威を振るい続けます。

今回の研究では、
この地球の直径より大きな嵐の謎解明に迫っているんですねー
土星の“大白斑”



巨大嵐が伸ばす尾は、
消失するまでに数十万キロに達する場合があり、中には土星を1周するほどの長さに及ぶものもあります。

内部で起きる稲光で白っぽく見えることから、“大白斑”と名付けられたこの嵐は、ひじょうに巨大なので、地球からも望遠鏡で見ることができます。

途方もない規模の巨大さによって、
天文学者たちの注目を集めてきた“大白斑”は、
過去150年間で6回観測されています。

でも「なぜ、このようなに発生頻度が低いのか?」は、
これまで謎でした。

そして、土星の大気中に含まれる水蒸気が、
この謎を解明するカギになりそうなんですねー

土星の大気は、地球と同様に性質の異なる層で構成されていて、
通常、雲が形成される“外層”の密度は、
土星の中心へと至る“雲下層”よりも低くなっています。

水面に浮く油のように、低密度の外層が、
水素やヘリウム、水などの分子が主成分の高密度の混合大気の上に、
のっている状態です。

ただ、土星の外層は、
暴風雨を発生させるのに必要なプロセス、
“下部のより暖かい空気の上昇”→“冷却”→“凝縮”を、
妨げるんですねー

このため安定した大気の状態が、
長期にわたり継続・維持されることになります。


でも、ひじょうに長い“嵐の前の静けさ”の間、
外層大気は、宇宙空間に熱を放射して徐々に気温が下がることに…
ついには、下部の雲下層より密度が高い状態になってしまいます。

これにより2層間の均衡は崩れ、
下部に閉じ込められていた暖かい空気が、外層へとあふれ出すことになります。

ただ、かき混ぜられた混合大気には、
他の分子より重い水分子が含まれているんですねー

これが、巨大嵐で雨として落ちることで、
元の平衡状態が回復し、また静けさが戻るという仕組みです。

この現象の発生頻度は、
惑星が、どのくらいのペースで宇宙空間に熱を放射して冷却できるか、
によって決まることになります。

土星は巨大な大気圏を持っているので、冷却には数十年を要するんですねー

火星には、表面を覆い尽くせるほどの氷がある

2015年05月20日 | 火星の探査
火星の氷といえば、極冠の存在がよく知られています。
でも、南北両半球の中緯度にも、帯状に伸びる氷河が存在するんですねー

最新の研究では、そこに含まれる水の氷の量が、
火星全球を1メートル以上の厚さで覆いつくすほど、あることが分かってきたようです。
帯状の氷河は、火星の南北両半球の中緯度にある。
水色の線は、緯度30度と50度を表している。

火星の中緯度には氷河があり、
その形は、火星上空を周回している複数の探査機で観測できます。

でも、凍っている物質が水なのか二酸化炭素なのか、
あるいは泥なのかは長い間分かっていませんでした。

NASAの火星探査機“マーズ・リコナサンス・オービター”によるレーダー観測で、
厚いチリの層に覆われた、この氷河の氷が水だと分かるのですが、
厚みがどれほどなのか? 、地球の氷河に似ているのか? などは不明なままなんですねー

その疑問を解くため、
今回の研究では、レーダー観測のデータを10年遡り、
氷の厚みや、その動きを調べています。

その結果、氷河は巨大な氷の塊で流れていることが分かりました。

さらに、高解像度の詳細な観測データなどを用いて、
氷河の形や流れに関する情報を集め、氷の厚みや体積を計算。

氷の体積は1500億立方メートルで、
火星全球を1.1メートルの厚みの氷で覆いつくせるほどだったんですねー

火星の気圧はとても低いので、水の氷は簡単に蒸発して水蒸気になってしまいます。

氷が宇宙空間に蒸発しなかったのは、厚いチリの層に守られていたから…
火星の中緯度に存在する氷は、火星の重要な貯水場といえますね。

ベビーブームに遅れて生まれた太陽系は、生命の誕生に適していた?

2015年05月19日 | 宇宙 space
天の川銀河で大量に星が生まれた“ベビーブーム”の時代は、
約100億年前のことになります。

ただ太陽は、そのベビーブームから遅れること約50億年…
星の形成がすっかり落ち着いてしまった頃に、ようやく誕生したようです。


天の川銀河は、数千個の星が集まった天体で、
その星が、最も活発に作られていたのは、今から約100億年前のことになります。

天の川銀河の現在の星形成率は、1年に太陽1個分程度ですが、
ベビーブームだった100億年前には、
天の川銀河は現在の30倍もの勢いで、星を生み出していたと考えられています。
100億年前の天の川銀河(イメージ図)。
赤い部分で星が勢いよく作られている。
集団で生まれた星は、青い集団として描かれている。

今回の研究では、
ハッブル宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星“スピッツァー”、“ハーシェル”のデータを用いて、
数千個もの銀河を調査。

宇宙の歴史の中で、天の川銀河のような銀河が、
どのように成長し星を生み出してきたのかを調べています。


遠い銀河を観測すれば、
それだけ過去の、つまり宇宙の早い時代の銀河を見ることができます。

こうして100億年以上も宇宙の歴史をさかのぼって、
銀河の成長や星形成の歴史を調べたんですねー

結果、各時代にどのくらいの勢いで星が作られ、銀河が成長したかが分かってきました。

様々な時代の銀河。左端は113億年前。
時代が進むにつれて、銀河が大きく、重くなり、形も整ってくる。

一方、太陽が誕生したのは今から約50億年前。
つまり、天の川銀河のベビーブーム時代から、約50億年も後のことになります。

もちろん、遅いから悪いわけではなく、
それどころか、遅かったおかげで太陽系や生命が誕生したとも言えます。

惑星や生命の元になる酸素や炭素、鉄など重い元素は、
ベビーブームの頃に生まれた星の内部で作られ、星の死とともに宇宙空間に広がって、
次の星へと取り込まれていきます。

なので、時代が進むほど宇宙での存在量が増えていき、
生命が誕生する環境も整っていったことになるんですねー

純アメリカ産の新型ロケット“ヴァルカン”

2015年05月18日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
新開発の再使用可能なメタンエンジンや、
長時間運用できる新型の第2段などの特長を持つロケット。

この新型ロケット“ヴァルカン”が、
ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社から発表されました。
初打ち上げは2019年になるようです。

ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社は、
現在、軍事衛星やNASAの科学衛星などを、
打ち上げるための基幹ロケットとして、
デルタIVとアトラスVを運用しています。

でも両機ともコストが高く、
またアトラスVの第1段には、ロシア製のロケットエンジンが使用されています。

ただ、最近のアメリカとロシアの関係悪化により、今後も安定した入手ができるか不安が残るんですねー

“ヴァルカン”では、機体の一部を再使用することでコストを下げ、
また、機体やエンジンを全てアメリカで開発・生産することで、
安価に、なおかつ高い信頼性と運用の確実性を持ったロケットになるようです。

“ヴァルカン”は第1段に、BE-4というロケットエンジンを2基装備。
BE- 4は、液体酸素と液体メタンの組み合わせを使用し、
2400kNの推力を出すことができます。
最大の特長は再使用が可能な点。
打ち上げ後に、第1段機体からエンジン部分だけが分離され、
パラシュートで降下、ヘリコプターによって空中で捕まえられ、
回収されることになります。

そして整備が行われた後、また別の打ち上げで使用。
っという流れが、繰り返されるんですねー

BE-4の開発は、
Amazon.comの創業者によって立ち上げられた宇宙企業“ブルー・オリジン社”が担当。

また保険として、エアロジェット・ロケットダイン社が開発するAR1も、
選択肢として残されています。

第1段の周囲には、固体ロケットブースターを装備も可能。

このブースターは、
アトラスVで使われているものから20%ほど推力を高めたもので、
装着本数も必要に応じて、0本~6本まで変えることができるんですねー

第2段には、ACESと呼ばれる新規開発の機体を装備。

エンジンは、まだ決まっていないのですが、
第1段と同じブルー・オリジン社が開発しているBE-3Uというエンジンや、
従来からアトラスやデルタで使われているRL10、
もしくはXCOR社が開発しているエンジンが搭載できるようです。

装着数は、どのエンジンを装備するか、
また、ミッションによってかわるのですが、1~4基になるとのこと。

さらに、モータースーポーツ“NASCAR”に参戦している、
ラウシュ・フェンウェイ・レーシングと協力して新機構を開発。
推進剤から発生した水素ガスを使い、
タンクの加圧や発電、姿勢制御、エンジンの再点火が行えるんだとか。

これにより、軌道上で運用可能な時間が数週間単位まで伸び、
今までより複雑なミッションに使うことが可能になるようです。

開発は、まず第1段周りが優先され、2019年の打ち上げではACESは使用されず、
アトラスVの第2段になるセントールをそのまま搭載。

ACES搭載は、は2023年の打ち上げになるようなので、まだ当分先になりますね。


月の誕生に新説

2015年05月17日 | 月の探査
およそ45億年前のこと、
地球が誕生して間もない頃に、火星サイズの天体テイアが衝突…

これによりテイアは粉々になり、
融解した高温の破片が、地球の周りの軌道に撒き散らされることになります。

この破片が数億年かけて融合し、地球の夜空に輝く天体“月”になったんですねー

っと言うように、どのようにして地球が月という小さな友人を得たのかは、
たいたいのところ、ジャイアント・インパクト説で分かっています。

でも問題は、重要な観測事実のいくつくが、
このジャイアント・インパクト説と合わないこと…

今回、この問題を解決できるかもしれない、3本の論文が発表されたんですねー
生まれたばかりの地球に、
火星サイズの天体が衝突したときに、月が生まれた…
でも、このシナリオの詳細は、まだ完成していない。

最大の問題は、ジャイアント・インパクト説のシナリオを、
そのまま採用するには、地球と月の組成が似過ぎていることです。

月が主としてテイアの破片から出来ているなら、
その化学組成はテイアのそれに似ているはずです。

そして、従来から言われている通り、
テイアが太陽系内の遠くの場所からやって来たのなら、
月とテイアの成分は、地球の成分とは違っていることになります。

そして、そのことは、
さまざまな同位体(陽子の数は同じだが、中性子の数が違っている元素)の存在比の、
違いとして観測できるはずです。

ところが、アポロ計画により持ち帰られた月の石を調べてみると、
地球と月の同位体比は、ひじょうに良く似ていました。

そう、ジャイアント・インパクト説は、
数々の重要な観察事実をうまく説明できる、すばらしいモデルなんですが、
同位体比の近さを説明することができないんですねー


それでは、この同位体比の問題は、どう説明すればいいのでしょうか?

1つの考え方は、2012年の報告のように、
月はテイアの破片ではなく、
地球から飛び出した破片から形成されたというものでした。

ただ今回の論文は、もっとシンプルな説で、
それによると、生まれて間もない太陽系のコンピュータ・シミュレーションの結果、
地球とテイアは近くの場所で成長し、そのため組成も似ていた可能性が高いというもの。

シミュレーションによって、惑星が成長して衝突する過程を追跡したところ、
大規模な衝突のすくなくとも20%は、良く似た天体同士の間で起きることが分かります。

同じ環境で成長した惑星同士は衝突しやすいんですねー

20%というと、あまり大きい数字ではないと思うかもしれません。

でも、過去の研究で見積もられた確率は、この10分の1程度…
それに比べれば、高い確率になります。


ただ、これで全ての問題が解決するわけではありません。

月の石と地球のマントルの成分は、完全には一致しておらず、
ある元素の同位体比には、無視できない違いが出ています。

その元素はタングステンで、
タングステンにはいくつもの同位体があります。

今回問題になるのは、タングステン182という軽い同位体。
月の石は地球に比べて、タングステン182の存在比がずいぶん高いんですねー

今回の論文の説明はシンプルで、
地球と月が形成された後に、冥王星サイズの天体がいくつか衝突した結果、
タングステンの重い同位体がもたらされたというもの。

衝突が起こるまでは、
月と地球のマントルのタングステン182の存在比は、同じだったそうです。


ところが、当初のタングステン同位体比が同じというのは、
ジャイアント・インパクト説にとっては、困ったことになります。

これは、2つの天体が同じ場所でできたからといって、
タングステン同位体比が同じになるわけではないから…

タングステンの同位体比は、2つの天体の元々の組成とは無関係で、
中心核が形成されてからの時間に強く依存するからです。

地球とテイアの中心核が、同時に形成されたとは考えにくいんですねー


そして、月と地球の当初のタングステン182存在比が、同じになるような説明を考える中で、
“空飛ぶマグマの海”という奇妙な仮説が登場します。

ジャイアント・インパクト説では、
地球のまわりの軌道に、超高温のチリとガスの雲が撒き散らされることになります。

融解した破片からなる回転円盤は、ある期間その場に残っていたのでしょう。

地球と月は数十年間、もしかすると数百年間も数千年間も物質を交換しつづけ、
化学成分の差を解消していったのかもしれません。


たしかに空飛ぶマグマの海と、冥王星サイズの天体の衝突は、
タングステンの同位体比を説明できているようです。

でも、オリジナルのジャイアント・インパクト説のシナリオに、
なじまない部分も残っているんですねー

ただ、月がその秘密を明かしてくれるまでまでには、
まだ、もう少し時間がかかるようです。