電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

帚木蓬生『天に星 地に花』(上巻)を読む

2017年07月01日 06時03分27秒 | 読書
文春文庫で、帚木蓬生著『天に星 地に花』(上巻)を読みました。始まりは、成長し独立して北野新町に診療所を開き、一揆を犠牲なく鎮めた功労者であるのに不遇の内に亡くなった稲次家老の墓に詣でる場面からです。これに対して、第1章では年代がぐっと遡り、26年前の亨保13年に、年貢改めをきっかけにして一揆の機運が高まる様子が描かれます。百姓と領主の間に位置するのが、百姓側では庄屋とそれを束ねる大庄屋であり、領主の側では武士団の実務責任者である家老ということになります。百姓と領主が力と力で直接対決することを回避し、お家断絶や領地替えを防ぐことを暗黙の合意点として、家老と大庄屋たちの交渉・交流が展開されます。

こういう背景下でも、疫病の流行はあり、飢饉は起こります。その収め方にも、為政者の資質は大きな影響を及ぼします。主人公の高松庄十郎は、久留米藩領井上村の大庄屋の次男ですが、疱瘡で生き延びたものの、母と奉公人ののぶを失います。次男として家に居づらいだけでなく、医者になりたいと志を立て、城島町の小林鎮水先生のもとに弟子入りします。鎮水先生は、オランダ医学を修めた医者で、庄十郎の命を救った人でもありました。圧政と飢饉に苦しむ百姓と領民たちの動きを観ながらも、庄十郎の医術修行は続きます。



著者の帚木蓬生氏の作品は、ラジオ番組「かがやく」の朗読に感銘を受け、『風花病棟』『閉鎖病棟』の二冊を読み、さらに大戦中の軍医を描いた『蝿の帝国~軍医たちの黙示録』などを読んでいます。おそらくは採話に基づくと思われる、物語の丁寧な語り口に好感を持ち、同氏の作品に注目しておりましたが、今回は時代物とあって、より自由な小説世界を味わうことができます。下巻が楽しみです。


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