ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

「能面を打つ」新井達矢能面展/山口宏子写真展

2010-04-19 02:01:33 | 能楽

…という催しが銀座で開かれます。

新井達矢さんは若干27歳の新進気鋭の能面作家です…が、知名度は抜群で、このブログをご愛読頂いているみなさまの中にも名前をご存じの方もあると思います。幼少から能面を打つことに親しまれ、5年前に福井県で行われた新作能面公募展で最優秀賞たる「文部科学大臣奨励賞」を受賞されて注目を集めました。その後も彼の能面製作の様子を記録した短編映画が作られたりと活躍されておられます。

一方、能楽写真家の山口宏子さんは ぬえのブログでも何度も登場されておられます。ぬえとのお付き合いもずいぶん長くなってきたと思いますが、最初は東京で ぬえが舞う能の撮影を所望されたところからお付き合いが始まったのだと思います。ところが拝見した写真から撮影技術は相当に高いことが窺われ、以来親しくお付き合いさせて頂いております。伊豆の子どもたちの稽古風景や発表の様子を撮影して頂いたり、外国人へのそれをお願いしたり…どうしても予算の厳しい催しで無理を言ってお願いするよう場面が多くて ぬえはご迷惑を掛けっぱなしなのですが…

今回は山口さんの写真展+新井さんの能面展という珍しい企画なのですが、じつは山口宏子さんは ずっと以前…それこそ新井さんが賞を頂くより前から面を打つ姿を撮影し続けておられるのだそうです。今回はそれをまとめた写真展であるわけですね。

さて、なぜ ぬえがこの写真展+能面展をご紹介しているかというと…この写真展では ぬえが新井さんの面を掛けて舞う写真が少々含まれているからなのです。

…というのも、新井さんの製作風景の写真は多くあっても、いかんせん舞台で実際にその面を掛けて舞っている写真が少ないのだそうで、そうしたわけで ぬえに依頼を頂き、本式の能ではないけれど、師家のお舞台で面・装束を着けての撮影が今月のはじめに行われました。

山口さんと ぬえとの関係があったればこそ頂いた依頼でありましょうが、これまた奇遇にも、前述の福井県での公募能面展の審査員というのが なんと ぬえの師匠その人なのです。このとき ぬえは師匠からその様子を伺っておりますが、審査は作者名が伏せられて、先入観なく面そのものの出来だけで審査することになったのですが、師匠は最優秀賞はこの面しかない、と感じたものの、そのうえに「はて…? この面は新井くんの作に似ているが…」と思われたそうです。かくして受賞が決まったところではじめて師匠は作者と会い、そこで「ああ、やっぱり君か」と話されたそうです。ん~~、ぬえにはとても出来ない、とんでもなく高いレベルで面を見ているのですね…

これからもわかるように、師匠と新井さんとは公募展よりも以前からお付き合いがあるそうですが、この度の撮影で新井さんに どれほどの期間交際が続いているのですか? と伺ったところ…「15年以上になりますか…」というお答え。いま新井さんは27歳ですから、そうすると高校生の頃から…!!?? まあ…もとより小学生時代から面を打っておられる新井さんだから、非常に能面に造詣の深い ぬえの師匠と出会う時期が早いとは驚くこともないのかも知れませんが…

こんな訳で、今回は ぬえに頂戴した依頼ではありましたが、これは ぬえが撮影モデル(?)になるよりは師匠の方が似つかわしいと考えて師匠にも相談したのですが、あいにく師匠の都合が合わず、やはり ぬえが舞うことになりました。

まあ、ぬえも ひと通りは装束を持っているつもりですが、う~ん、いざ1曲、頭のてっぺんから爪先まですべて自前の装束や小道具類で揃えて、となると相当 曲目も限られてきますね~。今回はそういうわけで『葵上』など3曲のそれぞれ一部分だけを舞ってみました。装束の着付けと演技監督には若師匠が当たってくださり、また師匠もご予定の合間にしばしお見えになりアドバイスも頂きました。舞ったのは ぬえでしたが、結果的にかな~り豪華な撮影になりましたですね~

そしてまた ぬえも、新井さんが持参された面の中に美しい面を見つけて心躍りました! かつて人間国宝であった故・粟谷菊生師は古い小面を「生涯の伴侶」とおっしゃって、一生ほとんどの三番目物のシテをその面だけを使われたと聞きますが、今回は ぬえも「恋人」ができそうです…

【能面を打つ】新井達矢能面展/山口宏子写真展

会期: 2010年5月7日(金)~13日(木)/会期中無休
会場: フレームマン エキシビションサロン銀座 アンビションⅡ
    東京都中央区銀座5-1 銀座ファイブ2F
時間: 10時~19時/初日12時~19時/最終日10時~17時