ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

埼玉県で学校公演(その2)

2010-12-02 09:57:07 | 能楽
昨日は埼玉県での学校公演の3日目。3日目から5日目は宿泊しての公演になります。昨日伺ったのは秩父市の小学校でしたが、自然の多い素晴らしい環境の学校でした。

…と思うのもうべなるかな、じつは昨日の朝 特急電車で当地に向かうことになっていたのですが、自宅からその特急電車の始発駅である池袋に到着するまでが、それはそれは大変でした…いや、世間では一般的なのかもしれませんが。

ぬえは元々 東京都の練馬区の出身でして、今でもそこに住んでいます。ですから大学に通っていた頃も、池袋までまず私鉄で出てから、JRに乗り継いでいたのです。通勤・通学電車には慣れていたはずなのですが…

ところがその朝、久しぶりに通勤電車に乗りましたが…いや、本気で気絶するかと思った。駅をひとつひとつ進んでいくうちに段々と増えていく乗客…そのたびに増してゆく車内の圧力…車両の前部に乗っていた ぬえは、電車が加速するといくぶん手足を動かせるものの、ブレーキをかけるとものすごい圧力が掛かって…あちこちでうめき声も聞こえるし、圧力の当たり所が悪ければ、朝ご飯が逆流してしまいますね…

電車に乗っていた時間はわずか15分くらいだったと思いますが、本当に危険を感じました。実際、池袋駅に着いてから、担架で運ばれていく乗客や、ケンカしている乗客を見てしまった…なんだか病的ですね。これが毎朝なんて…仕事をするってのは本当に大変。ぬえの仕事にはこういう苦労はないけれど、いろいろな意味で仕事をするのは大変だと思います。

そういえば…ぬえが通学していた頃も、ケンカは毎日のように見たし、一度は満員電車の中で窓ガラスに手をついて圧力に耐えていた乗客が…ついに窓ガラスが割れた現場を見たことがあります。あれから何にも変わっていないのか…なんとか通勤の苦労を緩和するうまい方法はないものかしら。

そういう、悲惨な場面とは無縁な、自然の中の学校。ああ、心癒されます。ただ、こちらでは少子化と戦っている現状もあるのでした。なんと今日の学校公演を見た小学生はわずか20名弱…父兄や地域の方々もお出でになったので、実際にはその倍ほどのお客さまがいらっしゃったのですが、児童だけなら出演者の人数と同じような状況でした。

でもねえ。子どもたちはそれでも元気。今回の学校公演では、終演後に質疑応答を求めるのですが、なんだか行く先々の学校でだんだんと質問が増えていっているように思います。「どうやったらそんな声が出るようになるのですか?」とか「先生はいつ頃からお能をやっているんですか?」(←この質問に対して、答えは「はい、600年前からです」だったという…) というような素朴な疑問から、「間違ったときはどうするんですか?」という、演者が青ざめるような質問まで、いやいや、多岐にわたる質問が出ました。

子どもたちみんなで今回の上演曲『安達原』の一部を謡ってみたり、昨日は囃子方のはからいで、子どもたちを舞台に上げて大鼓の演奏を体験させたり。あ、この大鼓方は先日の伊豆の子ども能でも ぬえが出演を頼んだ人だったのですが、そうか~ こんなに子ども好きだったんだ~。しめしめ。終わってから早速彼に、こんな子ども好きとは知りませんでした。これからも伊豆の子ども能にお手伝いを頼むから、断っちゃダメだよ~、と言い含めておきました(笑)

こういう、交通の便の悪いような地方で、たった20名ほどの子どもたちを相手に能の公演ができるなんて、なんて贅沢で、意義のある企画なんでしょう! こういう地道な活動から文化というものは育っていくのですよね。あと2日間で今年の学校公演は終わってしまうけれど、ぬえは本当に楽しみにしております!