ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

大地震の影響

2011-03-15 10:59:48 | 能楽の心と癒しプロジェクト
ニュースでは原発の事故と、計画停電が大きな問題になっていますね…。生活にもいろいろな支障が出始めています。

能楽界でもいろいろな影響が出ています。しあさってに予定されていた国立能楽堂の定例公演で、ぬえの師匠が『桜川』をお勤めになり、豆ぬえがその子方として出演する予定になっていましたが、昨日公演そのものが中止された旨、連絡が来ました。キビシイ稽古をしていた豆ぬえにとっては残念でしたが、わざわざ停電させて電力供給を確保する非常事態。そのために電車まで止まっている状況では公演は不可能ですし、するべきではないでしょう。

が、こういう事態になる以前の公演については、開催の是非について主催者側はずいぶん懊悩があったと思います。ぬえの師家について言えば、地震の2日後の日曜日に月例公演があったのでした。師家では通常 申合は公演の2日前に行われる慣習になっていて、この申合の午後に地震が発生しましたので、師家ではたった1日半で公演の是非について検討しなければならない状態でした。詳しい検討の内容は ぬえにはわかりませんが、いろいろと熟慮の末、地震の翌日には公演開催の判断が師家によって下されたようです。

ぬえがそれを知ったのは公演前日…地震の翌日、来演を願っていた能楽師からの問い合わせがあったからで、そのとき伊豆にいた ぬえは、特別に師家から ぬえに連絡がない以上、公演は行われるものと漠然と考えていましたが、師家の公演事務所に連絡を入れて確認してみます、と答えました。ところがそこでこの能楽師から聞いたのは、事務所に電話が繋がらないので ぬえに問い合わせをしたのです、とのことでした。

なるほど、電話を切って事務所に電話してみても、通話中で繋がりません。おそらくお客さまからの問い合わせが殺到しているのでしょう。そこで書生さんに電話をして公演について聞いてみると、公演は予定通り開催と決まりました、とのこと。出演者からの問い合わせがあり、そちらへの連絡が遅れている、と伝えて、ぬえとこの書生さんとで手分けをして出演者に開催の連絡をすることになりました。

大多数の出演者からは「かしこまりました」と丁寧なお言葉を頂戴致しましたが…一部の出演者からは、ぬえ個人にではありましたが、余震への不安や 公演開催そのものについて異論も寄せられたのも事実で、すべての出演者は主催者たる師家の判断を尊重してくださいましたが…実際にはすべての出演者が不安や懊悩を抱えながら出勤されたのだと思います。

当時はまだ東北地方の津波の被害は伝えられ始めたばかりで、それが大災害に発展する可能性がようやく言われ初めていました。原発の事故もまだ被害は調査中、という段階で、電力供給に不安があるためようやく節電が呼び掛けられ始めたばかりだったと思いますので、この時点では公演の開催は判断が難しいところだったと思います。主催者には公演のチケットを販売している以上、たとえお客さまが1人しかお出でにならなくても公演をする義務と矜持がありますから、それと現状との判断を重ねて(かなり苦しい判断だった、と聞いています)、結局 師家では日曜日に公演が開催されましたのだと思います。ほかのお流儀でも公演が行われたようですが、一方 中止となった公演もあったように聞いております。

ところが…不謹慎かもしれませんが、舞台人の立場として言わせて頂ければ、この日の公演はなかなか良い出来だったように ぬえには思えました。あとで聞いたところでは他流の公演でも同じ感想が聞かれたそうです。ぬえも楽屋入りするまでは、正直に言えば逡巡しながら、という気分でしたが、公演が始まると俄然、やる気が出てきました。なんだか「なにくそ!」という気分が舞台にあったように思います。

いま…とても公演はできる状態ではありませんし、やるべきでもありませんね。影響はいろんなところに…公的施設はのきなみ貸し出し中止になってしまったので、生徒さんのお稽古が中止になってしまったり…じつは ぬえ、今週末には伊豆で子ども能の打ち上げパーティーを予定していました。子どもたちと一緒にビンゴ大会をやったりで大盛り上がりになるパーティーで、その景品もたくさん買い込んだ ぬえ。やむなくこのパーティーも期日を定めずに延期になりました。(・_・、)

それでも被害が大きかった分、残された我々は元気でなければならないと思います。一刻も早く災害から立ち直り、また子どもたちとも笑顔で会える日が来ますように。