「村上木彫堆朱-むらかみきぼりついしゅ」
Description / 特徴・産地
村上木彫堆朱とは?
村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)は、新潟県村上市周辺で作られている漆器です。旧村上藩のあった村上地方は平安時代から天然漆の産地として知られていました。城下町として栄えたこの街に、緻密な彫刻と堅牢で色鮮やかな漆で仕上げる美しい工芸が花開いたのです。
村上木彫堆朱の特徴は日常の使用にも耐える丈夫さと、長い年月にわたって愛用されるにつれ深みのある艶へと変化してゆく点です。飾って眺める美術工芸品ではなく、日常使いの品としてこそ、その真価が生きると言えます。
もととなったと言われる中国の堆朱、剔紅 (てっこう)は、厚く塗り重ねた漆の層に彫刻を施したものでした。しかし村上木彫堆朱では、木地に彫刻を施し、その上から漆を塗るので、漆の無駄がなく、躍動感ある彫りや細かい地模様などを表現できるようになりました。
彫り溝に流れ込まないように堅めの漆を使い塗り重ねるのでとても丈夫です。工程上つや消しを施すので完成時にはおぼろ月の光のような艶を抑えた仕上がりですが、使い込むほどにしっとりとした艶を増してゆきます。
History / 歴史
村上木彫堆朱の起源は約600年前の室町時代、寺院建築のため京都からやってきた漆工が始めたと伝えられています。江戸時代になり歴代藩主がこの技術を奨励し、17世紀後半には漆奉行が設置され、漆樹栽培がますます盛んになりました。
18世紀になると現在の堆朱(ついしゅ)・堆黒(ついこく)が生産されるようになり、19世紀に入ると江戸詰めの村上藩士たちもたしなみの一つとして塗漆・彫漆の技を学ぶようになり、それを持ち帰ったことで、さらなる発展を遂げました。
幕末には名工、有磯周斎(1809年~1879年)を輩出しています。宮大工稲垣八郎兵衛の二男として生まれ、父について家業を習っていましたが彫刻を好み、江戸で彫刻を学ぶ傍ら漆芸をも修め、堆朱・堆黒など各種技法を習得しました。さらに中国風の図案に写生を加えて品を高め、また鎌倉彫の技法を加えて改良するなどして現代の村上木彫堆朱の基礎を築きました。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/murakamikiboritsuishu/ より
使い込むほど色のでる村上木彫堆朱
高級な器というイメージのある木彫堆朱。「もったいなくて使えない」と押入れにしまう人が多い中、「使い込んでこそいいんです」と訴え続ける、自ら愛好家で村上堆朱事業共同組合の前事務局長、伊与部さんと、彫師の川村さんにお話を伺った。
高級品、だからこそできる芸の極み
どこから見ても真っ赤な器、全体にほどこされた大胆で深い彫刻。一度見たら忘れられない鮮烈な漆器、それが村上木彫堆朱である。この豪華絢爛な木彫堆朱は今から600年ほど前に、ここ村上ではじまった。村上は古い城下町。彫刻技術や漆塗りの技術を発達させようとした歴代藩主や幕府の保護のもと、非常に多くの手間をかけて作られてきたこの漆器は、豪華な装飾品や接待用に使われ、高級品としての名を欲しいままにしてきた。ハレの日に使うお重箱、旅館や料亭で使われるお膳類、お座敷の装飾に使われる棚…。粋を凝らせば凝らしていくほど価値が上がり、需要も増えた。もともと高級品として栄えただけに、堆朱作りにかける職人の芸の極みを至るところに見てとることができる。
大胆な柄と対照的な、小さな小さな幾何学模様
高級であるがゆえの面白さ、伊与部さんもそんな魅力にとりつかれた人の一人である。「いい品物には必ず「地紋(じもん)」という細かい柄が入ってるんです。」と器を見せてくれた。よくみると大胆な花鳥や植物の柄の間に、連続的で細かい幾何学模様の彫刻が施されている。この「地紋」の柄は菊、波、麻の葉など、20近く存在している。それを小紋のように、正確に少しもズレなく、彫師の川村さんが目の前で彫ってくれた。「思っているほど難しいものじゃないんですよ。」そうはいうものの、これだけの細かい柄を正確に早く彫れるようになるには8年はかかるとのこと。
年月とともに移りゆく堆朱の色
さて、地紋だけではなく、木彫堆朱といえば、やはり何といっても移りゆく赤の色が面白い。新しいお茶受けと6年前のものとを見せてもらうと明らかに色が違う。新しいのは少し黒っぽく、古い方の赤はより鮮烈だ。川村さんが説明をしてくれる。「漆ってのは乾いた時にちょっと黒くなる性質があるんです。塗ってる時は赤いけども、乾くとくすんだ色になるんですよ。漆は何年も経つうちにガラス状まではいきませんけども、透明になるんです。漆が透明になるから中にまぜた赤い色が鮮明になるんです。」実際上塗(うわぬり)の色は深紅よりも赤い、鮮烈な赤だった。その色が時ともに移りゆく。そこになんともいえぬ味がある。
高くてももったいなくても、堆朱は使ってこそ味がある
伊与部さんは「使う」ということにとても重きをおいている。「とにかく使ってもらわなきゃよくならない。みんな高くてもったいないからって押し入れにしまっちゃうんです。それじゃぁ色は変わらない。手の油とか、汚れたものを拭いてるうちにね、だんだんとツヤがででくるわけですよ。」しかも手入れも想像以上に簡単だ。「濡れたらすぐにふきんで拭けばいいだけです。彫刻の間にゴミが入ったらどうするんですかって聞かれるんですけど、たわしで取ってくださいって言うんですよね。たわしでこすっても絶対キズはつきません。真新しいのはだめだけど、1年以上経ってれば絶対に大丈夫。」
「あんた方は日本一の幸せな先生についている」
不景気、コストダウンの波にもまれる高級品、木彫堆朱。高級品であるがゆえの悩みを抱える一方で明るい兆しも見えている。「私は子供さんを大事にしてるんですよ。」と、ファイリングされた、子供たちからの手紙を伊与部さんが見せてくれた。現在小学校5年生が社会科の授業で、伝統工芸について学ぶことになっている。子供たちが見学に来たときのエピソードを話してくれた。「新潟に熱心な先生がいてね、塗物についてもよく調べてて、そのために夜にわざわざここに品物をとりにきてねぇ。子供たちはこの品物に触れたってことを一番喜んだんですね。それでみんな礼状の作文書いて送ってくれたんで、私も書いてやったんです。あんた方は日本一の幸せな先生についてるってね。」
600年前から伝わってきた、豪華で特異な木彫堆朱。時代の波が移りゆく中、変わらぬ伝統の一品を、自分の色にしてみてはいかがだろう。木彫堆朱は使ってこそ味がでる。毎日眺めて豊かな気持ちで過ごしていただきたい。
職人プロフィール
伊与部市郎
根っからの堆朱愛好家の村上堆朱事業協同組合前事務局長。堆朱は使ってこそ味がでるとの普及活動に努めている。
川村初男
18の頃彫師に弟子入り、戦後タクシー運転手を経て再び彫師に。現在は全国各地で実演を行っている。
こぼれ話
村上の職人芸の極み、朱溜塗りと三彩彫
村上にある木彫漆器は赤い器だけではありません。伝統的工芸品の指定をうけた技法は堆朱の他に5つもあり、それぞれ他の地域ではみられない特徴をもっています。その中でも特にご紹介したいのが朱溜塗り(しゅだめぬり)と三彩彫り(さんさいぼり)。彫師と塗師の競演、村上の木彫漆器。塗りに特に力を注いだ朱溜塗りと彫の極みの三彩彫。ぜひ村上にお越しの際はご覧ください。
■朱溜塗り
本当に吸い込まれるような透明感、黒でも赤でもなく茶色ともいえぬ微妙な色。この色と深い透明感がかもし出す落ち着いた雰囲気には、ため息が出てしまうほど。
木彫堆朱と同じ工程を行った後、つや消しをして、溜漆(ためうるし)という、色を混ぜない漆を塗ったものが、この朱溜塗という技法です。上に塗られた漆が年月を経て透明になり、だんだんと中の赤が浮かび上がってこの落ち着いた色合いが生まれます。そばにあるだけで心の底まで落ち着いていきそうな、とても不思議な魅力をもった塗物です。
■三彩彫り
これぞ彫刻と塗の国、村上の職人芸の極みなのではないかとおもってしまう塗物です。これは赤、黄色、緑、最後に黒と、木地に色のついた漆を塗り重ねていったもので、最後に真っ黒な上から彫り、中にある色を用いて柄をつくっていくのです。葉っぱを彫るには浅く、花のところは少し深くと、非常に微妙なカンで彫りあげます。4つ合わせた色の厚みはせいぜい2ミリ程度です。一歩でも間違えれば色が変わる、そこを思いのままにあやつる職人芸。商品を見ただけでは気づき得ないこの色の生み方。塗っても色はつけられる。でもそこを塗らずにあえて彫る。そこに村上の職人魂を感じずにはいられません。
*https://kougeihin.jp/craft/0509/ より
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