「アメリカ国民は今ようやく、かってのような経済的繁栄が、過去のものになってしまったことを、徐々にではあるが意識しつつある。」
自信たっぷりの彼らが、こんな正直を言うとは思いがけないことでした。
「実際にアメリカの繁栄は15年ほど前に、すでに終焉を告げていたのだが、未来への不安が、アメリカ全体に影を落とし始めたのはごく最近のことだった。」「今アメリカは、好むと好まざるとにかかわらず、繁栄の時代が終わってしまったと言う事実を、受け入れざるを得なくなっている。」
著作出版の15年前といえば1988年、日本では昭和63年です。首相は竹下氏で、アメリカはレーガン大統領でした。この頃からアメリカの繁栄が終焉を告げていたとは、気づきもしない私でした。強圧的な日本との貿易戦争や、激しい日本叩きがその表れだったのかと思い当たります。
「長い年月にわたって、アメリカに富をもたらしてきた、自動車、鉄鋼、造船といった産業は熾烈な競争にさらされている。」「東アジア諸国をはじめとする、かっては後進国だった国々の進出のためである。」
「その原因は、アメリカ産業界の特殊性と高い賃金水準にある。アメリカ経済が、これまで他の国々に対して、圧倒的優位に立っていたため、アメリカ製品は品質が劣る上に、価格が高すぎるものになってしまった。」「経営者や労働者の報酬も、国際的標準からすると、あまりにも高すぎる。」
氏の本に惹かされたのは、飾らない叙述でした。自分の国の欠点や短所を正直に述べるのは、誰にでもできることではありません。
「アメリカ企業の経営者たちは、生産のエキスパートというより、財務の専門家と化してしまった。」「彼らは、自分の会社の製品についてほとんど無知であり、製品に関する知識など、必要なしとみなしている。」「アメリカの経営者たちは、会社の株価を高騰させることだけに心血を注ぎ、自社の製品でなく、株を買ってくれる人こそ、真の顧客であると信じて疑わない。」
そして現在の日本が、まさにこのアメリカの真似をしつつあります。経営者たちが法外な報酬を取るようになり、製品より株価に目を向け、大切な従業員を疎かにし始め、財務諸表ばかり重視するようになっています。
「アメリカは、工業に従事する中流階級を大量に生み出した、最初の国家だった。」「そして今、ポスト工業時代の経済へ転換する最初の国家になろうとしている。」「アメリカが、20世紀という 〈石油の世紀〉に、いち早く中流階級主体の、工業化社会へ道を開いたことは、日本をはじめとする諸外国に多大な影響を及ぼした。」
「現在アメリカが抱えているジレンマは、遠からず後に続く国々の、ジレンマにもなるだろう。」「アメリカで起こることは、遅かれ早かれ、世界中で起こるのである。」「他国に先駆けてその段階に達した国々は、豊かになるにつれ、後に続く貧しい国々のために、道を開けてやらざるを得なくなっていくからだ。」
日本では、政治家にだけでなく学者や評論家も、氏のような意見を言いません。彼らは、日本と敵対する中国や韓国・北朝鮮の経済について、反中、嫌韓の国民に迎合し、感情的な経済論を述べます。
「中国破綻、日本隆盛」「明日にも潰れる韓国経済」「日本なしでは生きられない韓国」「大嘘の統計で国民を欺く中国経済」
保守言論人と言われる経済評論家も、極論で扇動をする限りでは、反日左翼と変わりません。彼らは、どちらも日本に害をなす「獅子身中の虫」です。
日本への理解は欠けていますが、自国を客観的に語る氏の姿勢には、学ぶべきものがあります。日本の学者や経済評論家の中に客観的意見を述べる人物がいても、マスコミが取り上げません。
反日左翼か、日本賛美の保守か、彼らは極端な意見を報道し社会を騒がせるのが使命だと勘違いしています。儲けるためのマスコミ、国民を扇動するためのマスコミに堕しているからです。「報道の自由」に守られ、誰にもチェックされないマスコミの奢りです。
「マスコミが、日本を駄目にしている。」
残念ながら、これが今回の結論です。