ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

大変な時代 - 4 ( 読者をたぶらかす、堺屋節 )

2020-03-17 18:39:37 | 徒然の記

 何をもって、氏は「大変な時代」と称しているのか。12ページから始めます。キャッチフレーズの得意な氏らしく、「常識破壊と大競争」と副題をつけ、政治、経済、安全と言う切り口で意見を述べます。

 いつもなら、説明が煩雑なので箇条書きにしますが、今回は逆です。読みやすく、分かりやすい文章のため、そのまま転記すると、たぶらかされる人が増えそうなので、あえて文章にしません。

《  政  治  》

  1. 自民党単独政権の崩壊 ( 戦後38年間続いた単独政権 ) 

    (1) 短命内閣の誕生

     細川政権  羽田政権 ・・ 自・社・さ連立政権

    (2) 無党派のタレント知事の誕生 ( 平成7年 )

     東京  青島幸男 ・・タレント、俳優、作家 

     大阪  横山ノック・・漫才師

《  経  済  》

  1. 円・ドルレート

    (1) 平成5年春・・1ドル110円を割り込んだと、大騒ぎ

    (2) 平成7年春・・1ドル80円になるが、貿易収支は黒字

  2. 景気循環、物価動向も、常識破壊

   政府は「緩やかな回復」と言うが、諸物価が長期低落。特に一般消費者物価が、顕著な値下がり

《  安  全  》

  1. 建物、道路等への安全神話崩壊

   世界各地の事例に関し、専門家たちは「厳しい基準で建設されているから、日本は絶対大丈夫だ。」

  と言ってきたが、阪神淡路大震災では、道路もビルも倒壊

  2. 日本に広まる、組織盲従の危機

   オウムなど、過激な犯罪集団に盲従する若者の増加は、終末思想を受け入れる素地発生の象徴

 振り返りますと、目まぐるしいまでの変動でした。テレビも新聞も、連日大騒ぎし、落ち着きのない日々だった自分を思い出します。それでも当時はまだ、企業戦士の時代でしたから、満員電車に乗り、朝から晩まで会社で働いていました。もしかすると、自宅待機や休業ばかりで、気を紛らすもののない、「武漢コロナ」の今の方が大変なのかもしれません。

 「この国の高度経済成長と、国際競争力強化を実現してきたはずの官僚組織と、一部の経営者とが、」「バブル景気の崩壊と円高の過程で、国庫と企業に膨大な損失を与えた。」

 「偉いと思っていた、高級官僚や経営者の多くが、」「実は見通しが悪く、見切りが拙い、無能、無責任な人々だと、分かったわけだ。」

 自分も高級官僚の一員なのに、よくも他人事のように批判できると呆れますが、言っている内容が正しいため、反論もなかったのでしょう。ヴォーゲル氏の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』や、ハンチントン氏の『文明の衝突』を読めば分かりますが、氏が述べるように、高級官僚や企業人の一部を批判すれば済むような、単純な話ではありません。だが私が疑問を抱いたのは、次の説明でした。

 「このことは、有能で勇敢と信じていた、帝国陸海軍の将星たちが、」「必ずしもそうでなかったことを知らされた、終戦時と同じような衝撃を、日本人多数に与えている。」

 「つまり今の世の中には、一種の、」「終戦現象が起こっているのだ。」「困ったことに、当の本人たち、」「高級官僚や、企業経営者のほとんどが、その事実に、気づいていない点である。」

 私は働き盛りの社員で、妻や子供のためと、苦労も苦労と思わず仕事をしていました。終戦時と同じような衝撃など、周りの誰を見渡しても、そんな思いはありませんでした。氏が言う「衝撃を受けた日本人多数」とは、どこにいたのでしょう。私の会社は山奥の過疎地にあったのでなく、東京のど真ん中にありましたから、終戦時と同じ衝撃を受けた人間が多数なら、当然私も目にするはずです。と言うより、私自身がそう思うはずです。

 こう言うところが、飾り物の知識をちらつかせる、魂の抜けた元東大生の見本です。別次元の話を、同じものとして語るまやかしですが、私のような捻くれ者でなく、善良な読者は、なるほどなるほどと読み進むことでしょう。捏造の説明を鵜呑みにさせる巧みな文章なので、息子たちに読ませたくない悪書と言う由縁です。

 「いつの時代でも、世の中は変わる。」「そう言う意味では、時代は常に不連続だ。」「何時の時代、どんな世の中でも、人は本音と建前を使い分ける。」「だから世の中のことは、何時も分かりにくい。」「ましてや、不連続の彼方にある未来ともなれば、」「不透明なのも当然だ。」「それにもかかわらず、今が特に 〈 大変な時代 〉 と感じられるのは、」「この不連続と不透明の先に、」「夢と面白さが、期待できないからだろう。」

 由緒正しい左翼なら、こう言う文章は書きません。マルキストたちには、不透明な時代という認識がなく、科学的に歴史を見れば経済活動の変遷が、必ず階級社会を産む・・と、使う言葉が決まっています。

 「大変な時代」に関する説明が、明快だったため、分かったような分からないような叙述も、読者の心を捉えます。西部開拓時代のアメリカのように、「夢と面白さ」ばかりを期待する人間が、今の日本にどのくらいいるのか。乱世は出世と金儲けのチャンスだと、夢と面白さを感じるのは、氏や竹中氏みたいな野心家たちくらいでしょう。

 堅苦しいテーマを述べていても、くだけた叙述の面白さに読者は惹かされます。自分は騙されないと、オレオレ詐欺を警戒するように身構えますが、氏の分析の的確さもあり、つい納得させられます。

 次は「時代予測」ですが、スペースがなくなりましたので、本日はここで一区切りとします。堺屋節とでも言うのでしょうか、読者を惑わす、講談師の語り口に要注意です。

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大変な時代 - 3 ( 竹中平蔵氏を超える獅子身中の虫 )

2020-03-17 08:00:21 | 徒然の記

 私のような小人は、知らない内に自慢をします。「あれは、私がやったことだ。」、「あれは、自分が中心だった。」と、口に出したり匂わせたりします。

 その点堺屋氏は、著書の中で自分の自慢を一つもしません。だからもう少し、輝かしい氏の経歴を紹介します。

 ・昭和37年の通商白書では、世界に先駆けて「水平分業論」を展開。また、日本での万博開催を提案

 ・昭和45年の、「大阪万博」の企画・実施に携わり、成功を収めた。その後、沖縄開発庁に出向

 ・昭和50年の「沖縄海洋博」も担当。その後3年「サンシャイン計画」に携わった後、通産省を退官。

 氏が、いかにやり手の官僚だったかが、経歴から分かります。手掛けたイベントは、全て何らかの形で、日本の歴史に残っています。

 ・産経新聞の提言コラム「正論」欄に、定期的に寄稿

 ・平成3年「第7回正論大賞」を受賞。

 ・平成10年  小渕内閣で、経済企画庁長官に就任

 ・平成12年  第二次森内閣で、経済企画庁長官 総合交通担当大臣 I T担当大臣

 産経新聞といえば、NHKと朝日新聞の対局に位置する保守新聞社です。口の悪い左翼は、右翼新聞と陰口を言います。産経に定期的寄稿をするというのなら、世間的には保守とみなされます。

 ・平成22年  大阪維新の会の支援団体「経済人・大阪維新の会」最高顧問

 ・平成24年  大阪維新の会が設立した、「維新政治塾」名誉塾長 ( 堺屋は、橋下徹及び大阪維新の会のブレーンとされていた。)

 ・平成28年  安倍内閣の「成長戦略」担当の内閣官房参与として、首相のブレーン 

 ・同年 4月に、一般社団法人「外国人雇用協議会」を設立し、会長に就任。政府の諮問会議などで、外国人労働者の受け入れ拡大を提案。

 多彩な経歴を見ていますと、元官僚というより、抜け目のない政商みたいに見えてきます。しかし、経歴最後の一行を見て、心から驚きました。氏は安倍内閣のブレーンまでしていて、外国人労働者受け入れ拡大を、総理に提案しているのです。竹中氏に似ているどころでなく、氏の方が師匠でした。

 日本の歴史も伝統も語らず、金勘定だけする商人の子孫が、事もあろうに、総理へ「移民法」の立法化を勧めていたのです。こうなりますと話は別で、両論併記の千葉日報と、同列に扱えなくなります。氏は間違いなく「獅子身中の虫」で、しかも、とんでもない親玉でした。

 氏の悪書がこの世に残る限り、私は愛する息子や孫たちのため、氏の間違いを、指摘し続けなければなりません。好意的な解釈も止め、忖度も無しで、いつものように冷静な書評をします。カメレオンのような氏を相手にしていると、私の心もくるくる変わり、信念のない自分が衆目にさらされます。不思議で、不可解な人物に出会ったものです。

 次回は、何が「大変な時代」なのか。氏の意見を紹介しながら、書評に入っていきます。冗談を言う余裕がなくなり、むしろ怒りをこらえて次回へ進みます。

コメント (2)
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