「大競争時代」についての、氏が説明。これがまた、堺屋式「カメレオン」説です。幕末以降の歴史から説き起こし、昭和、平成の日本を語ります。産経新聞に寄稿する保守の顔をしながら、マルクスの経済論を展開します。
ブレジンスキー氏が、20世紀最大の失敗はマルクシズムだったと言い、平成2年に『大いなる失敗』という本を出版しています。氏はキッシンジャー氏と並ぶ、現代アメリカを代表する戦略思想家だと言われています。キッシンジャー氏は、ニクソン政権ででしたが、ブレジンスキー氏は、カーター政権のブレーンで、アメリカの外交政策に力を及ぼしました。
堺屋氏も日本政府で似たようなブレーンですが、ブレジンスキー氏の著作を、読んでいなかったのでしょうか。消えゆく思想と位置づけられ、時代遅れとなった社会主義思想を、堺屋氏は評価しています。本物のマルキストでなく、知的飾りとしか考えていないので、他人が何と言っても気にならないのでしょうか。
息子たちのため、労を厭わず、氏の叙述を転記します。26ページです。
「われわれが今経験しつつあるのは、日本が近代になってから、」「4回目の変革期だ。」「第一回目は、幕末から明治維新にかけて、徳川幕藩体制が崩壊し、」「明治官僚体制が、形成された時。」「第二回目は、第一次世界大戦の後、」「明治官僚体制から、昭和軍官体制に変わった時。」
「第三回目は、第一次世界大戦の敗北の後、」「戦後体制が築かれた時。」「そして今、世界の冷戦構造と日本の成長構造が崩壊した後の、」「この時期が、第四回目の大変革期である。」
第二回目の変革について、私には異論があります。東京裁判を思い出せば、氏の意図が見えて来るからです。「日本だけが、間違った戦争をした。」「日本だけが、悪かった。」と、この結論を導くには第2回目の変革が必要となります。日本の近代化を進めた明治の官僚政治から、好戦的な軍官体制に変わったから無謀な戦争へ走ったと、そう言いたいための布石です。
206ページを紹介すれば、息子たちも、「ねこ庭」を訪問される方々も、私の意見にうなづかれる気がします。
「昭和10年代に、日本の陸軍軍人にやる気がなければ、」「太平洋戦争の悲劇は起こらなかっただろう。」「不幸にして、日本の軍人たちには、やる気満々の人が多かった。」「それを維持するために、軍事費と軍人権限を強めるという誤りを犯した。」
「このため、やる気のある軍人を出世させ、要職につけた。」「軍人たちは無闇とやる気を出し、戦線を広げ、」「軍備を拡張し、戦う相手を増やしてしまった。」
長いので省略しますが、「うつむき加減の経済」になった時、企業は闇雲に社員の「士気」を高めず、程々にしないと失敗する例として語っています。講談調の氏の著作を読む人間は、戦前の日本を誤って理解します。大東亜戦争は、単純化した氏の独善の説明では、正しい理解を妨げます。
例を示したので、また元の26ページに戻ります。事実と捏造を織り交ぜた、「カメレオン的説明」です。
「今回の変革期は、平成元年のベルリンの壁の崩壊、」「そしてほぼ時を同じくして起こった、日本のバブル景気の崩壊から始まった。」「この二つの現象は、一見別々に見えるが、実は変革の両面なのだ。」
「世の中を動かすのは、社会の基礎構造としての経済であり、」「政治はその上に浮かぶ、上部構造に過ぎないとする、」「〈 科学的社会主義の 〉 テーゼの正しさが、皮肉にも、社会主義陣営の破壊で、証明された形である。」
安倍総理の政策が、最近では、国を大切にしているのか、崩壊させようとしているのか、国民を戸惑わせたり、失望させたりしていますが、堺屋氏をブレーンしていたからだと分かりました。
「冷戦後の世界、それを一言で言えば、メガ・コンペティション・エイジ、」「つまり大競争時代の到来である。」「冷戦後の世界は、北米、欧州、日本の、先進三極に、」「急成長する東アジアなどが加わり、世界的な経済と文化の、大競争時代になってくるだろう。」
どうしてこのことが、科学的社会主義の正しさの証明になるのか。最初は、理解に苦しみました。
大競争時代の特徴は、「世界的な資本の移動」「世界的な物の移動」「世界的な人の移動」で、これを言い換えますと、「地球規模での利益追求」、「地球規模での、自由な物の移動」、「地球規模での安価な労働力の追求」となります。
ここでは言及していませんが、「国家から解放された資本の自由な活動」、「国境の撤廃」「民族主義の撤廃」となり、内容が「グローバリズム」そのものとなります。
「温故知新の読書」で、反日・左翼と、マルクシズムと、グローパリズムは、突き詰めていけば同じものになると、教えられたばかりです。
1. 国の否定 2. 民族の否定 3. 宗教の否定
このような地球国家は、かっての「ユートピア」と同じで、理屈では考えられても、現実にはあり得ない空想です。利益追求という経済優先の、唯物思想ですから、なるほど氏の意見が妥当性を帯びてきます。
「 〈 科学的社会主義の〉テーゼの正しさが、」「皮肉にも、社会主義陣営の破壊で、証明された形である。」
ならば氏は、これがまた、強いものだけが生き残れる、「弱肉強食」の野蛮社会につながっていることを、読者に語るべきです。それが「両論併記」であり、優れた官僚の良心ではないでしょうか。
スペースの限界のため、ここで一区切りしますが、氏の著作の有害性を少しでも理解してもらいたいので、次回も続けます。