ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『日露戦争』 - 5 ( 明治の元勲と若手軍人たち )

2021-09-19 13:27:34 | 徒然の記

  ロシアがウラジオストック港を開き、クロポトキンが「日本との戦争はロシアにとって、軍事的散歩に過ぎない。」と、語っていた当時の、ロシアと日本国民の意識を下村教授が説明しています。( 48~49ページです。 )

 「ロシア国内では、戦争に対する民衆の関心は極めて低く、」「動員が始まれば、逆に不平不満の声の方が高まっていた。」「ロシア国民にとって、遥か遠方の満州・朝鮮の出来事などでは、」「国家の危機という意識が、一向に生まれなかったのだ。」

 「それに比べると、日本の事情は大きな違いがあった。」「日本国民にとっては、軍事力を先に立てる、ロシアの極東侵略に対する恐怖が、」「そのまま、国家の存亡に関わるという危機感になっていたのである。」

 大国ロシアへの恐怖感が、国民の意識を萎えさせるのでなく、返って怒りと憎しみを高め主戦論へと走ったところが、事大主義の朝鮮国民との違いです。しかし政府の動きはどうであったか。これについても氏が説明しています。( 50ページです。 )

 「一般世論は、三国干渉以来、対露敵愾心に覆われていたと言って間違いない。」「しかもそれに拍車をかけたのは、歴代内閣、伊藤・山形・西園寺・桂らの施政であった。」

 「彼ら国家の指導者たちも、心理としては一般国民と同じあったかもしれないが、」「いやしくも国家を背負った者が、迂闊な発言ができるわけもなく、」「また当時の日本の実力を、十分に知っていたため、」「列強、特にロシアに対しては、極めて慎重な態度で臨んでいたのである。」

 息子たちには、何度でも言います。いったいこの日本のどこが、侵略国家なのでしょう。憲法学者の宮沢俊義氏や、芦部信喜氏の、こんな批判を許してはなりません。

 「日清戦争も、日露戦争も、太平洋戦争も、みんな日本の侵略戦争だった。」

 彼らの意見が、戦後に蔓延した反日・左翼思想の産物でしかないことが、確認できます。臆病者と罵られながら、それでも慎重だった政府に対し、マスコミはどう報道したのか。これについても、氏が説明しています。( 52ページです。 )

 「主戦論には、新聞雑誌が大きな役割を果たしたことは、言うまでもない。」「ほとんどすべての論調が、ロシアの侵略に対する恐怖から、」「憎悪に身満ち満ちて、国民の士気をかき立てていた。」

 100年前も現在も、マスコミは「売らんがための記事を書く」ことを優先させています。国民の感情を煽り立て、冷静な判断を曇らせ、だからここでも、ちょっと言いたくなります。

 「河野太郎氏と、共同通信社に騙されてはいけません ! 」

 では、軍国主義、侵略主義者の集まりと言われる、軍人の動きはどうであったか。これについても、氏の説明を転記します。

 「当時陸軍は、元帥山縣有朋、参謀総長元帥大山巌を大御所とし、」「首相・大将桂太郎、参謀次長大将児玉源太郎、陸相・大将寺内正毅らが抑えていた。」

 「薩摩出身の大山を除いて、すべて長州出身である。」「みなわが国軍閥史上、著名な人物ばかりである。」

 陸海軍の若手の中には、対露強行論を主張する者が沢山いました。いわゆる「胡月会」と言われる、若い軍人の集まりで、ロシアの横暴を抑制しなければ、日本の前途は憂慮すべきものになると、息巻いていました。彼らは、上層部を開戦に踏み切らせようと、しきりに説得したと言います。

 1. 外務省・政務局長山座円次郎

  「伊藤は親露協調派の親玉だから、言うことを聞くまいが、」「ウンと言わなければ、叩き殺すまでだ。」と放言していたが、伊藤博文から激しく叱責された。

 2. 海軍中佐・上泉徳弥

   山本海相に逆襲された。「言うことは分かる。だが戦争には、何十億という金がいる。」「どうやってその金を作るんだ。そこまで考えているのか。」

 3. 陸軍大佐・福田雅太郎

   「君たちの考えは、書生論に過ぎん」と、やっつけられた。

 簡単に一部分を転記しましたが、いずれも一身を賭した激論です。大事なのは、氏の次の叙述でしょう。

 「当時は、昭和の軍部のように、下克上の風潮はなかった。」「上層部には国家があるだけで、清廉潔白、」「私的欲望は抑制していたから、水火も辞さない若手に、」「つけ込まれる隙もなければ、抑えも利いたのである。」

 軽挙妄動しない、明治のご先祖さまたちの姿が、垣間見られます。そうは言っても、ロシアの行動を見ていれば、戦争突入の危機は明らかです。軍の若手には賛同しませんでしたが、陸軍も海軍もあらゆる手を尽くし、開戦の準備を進めます。

 本日はこれまでとし、次回は明治天皇の出席された御前会議の模様を、氏の著作から教えてもらいます。時間の許す方は、「ねこ庭」へ足をお運びください。

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