(上)(下)2巻の下巻を。
(上)はアルカイダ構成メンバーの個人史を追っていく内容で、見慣れない名前が多く、読むのにけっこうエネルギーが必要だった。
読むのでさえそうなのだから、作者はさそかし大変だったのだろうと察する。
その点で(下)は、テレビ「9.11アメリカ同時多発テロ 最後の真実」で主人公だった ジョン・オニールに焦点があたったところからはじまるので、入りやすい。
オニールという人物の魅力を写真なども使用し、わかりやすく記述するとともに、その裏側にあった彼の問題点なども語られる。
ドラマでのハーヴェイ・カイテルが容姿も含め、なかなかはまり役だったということもわかった。
エジプトのアメリカ大使館での「無差別爆破テロ」では、これをきっかけに大きな論理的飛躍がなされたという点が興味深い。
爆破は集団礼拝が行われる金曜に実行され、その場にたまたまい会わせた子供たちや信徒までを巻き込んでいる。
その「無差別」への批判に対して、ザワヒリの詭弁は以下。
「敵はあまりにも兄弟なのだ。こうした緊急事態に」
そして前回引用した「殉教」、つまり禁じられてはずの「自殺」についての詭弁がここでも登場している。
本来、
コーラン「自らを殺すなかれ」
ハディーズ(予言者の言行録)「自殺したものへの積みは、地獄で焼かれ、そのものの胃の胃を奪ったのと同じ手段によって繰り返し死ぬ状態に永遠に置かれる」
がどうねじまげられているかは本編でお読みいただきたい。
若いジハード戦士は、大半が中・上流階級出身で、両親がともに揃っており、大部分は大学教育を受けており、参加するまでそれほど宗教的なかった(!)
これにはまってしまう若者たち、という構造は、繰り返し言うが、現代でいうとまるで新興宗教まがいの出来に感じる。
クライマックスの第19章は、価値観が崩壊しつつあり迷うオニールと、若者たちを迷いもなく死に追いやるビンラディンとの対比が恐ろしい(P264)
「この時代の運間(イスラム共同体)は道に迷い、正道を踏み外してしまった。
そしていま、アメリカが二聖モスクの地に入って十年の歳月がたった(中略)
(中略)
この惨めさ、この屈辱感、この侮辱の源泉であるのだと」
これらの言葉は、19人の若者たちの心に、深く深く届いた。
おおくの者が技術と才能を持ち、しかるべき教育を受け、西洋で快適な暮らしをしていた。
それでも彼らは、ビンラディンが歌うように語ってきかせた恥の感覚とまだに共振する心性を保っていたのだ。
先日アップしたように、09月13日に放送された「9.11アメリカ同時多発テロ 最後の真実」 The path to 911 は、5時間弱のものが短縮されているため、かなり端折った内容にならざるえない。
そしてオリジナル版を視聴する機会を作るのもなかなかハードルが高い。
このため、放送で興味を持った方には。この「倒壊する巨塔 アルカイダと911への道」(上)(下)を読まれることを是非お勧めしたい。
ドラマではあまり表現していない、アルカイダの発生起源、CIAとFBIの間の確執などがよりはっきりと理解できる。
ピュリツァー賞を獲得しただけのことはある緻密な取材に基づいており、かなりリンクするとともに、これを補う内容になっている。
日曜の日経の書評でも絶賛されていたが、当ブログも強力にプッシュさせていただく!
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