風の数え方

私の身の回りのちょっとした出来事

アテネで成人式

2005年01月10日 | 清水ともゑ帳
成人式に出たくない。
それだけの理由で旅に出た。
行き先はどこでも良かった。
その時期に1週間ほど安く旅行できればいいと思った。
それが、ギリシャだった。
ちょうど、職場の仲のいい先輩と一緒に冬休みがとれたので二人で出かけることにした。
中学生のころから成人式について疑問をもつようになった。
なぜ成人式に何十万円もする晴れ着を着るのか。
あの式典の意味はなんなのか。
あれに出てほんとに大人の自覚とか仲間入りなんてできるのか。
実際に二十歳という年齢を迎えてみても、成人式の意味はないように思ったし、友人に会いたいとも思わなかった。
晴れ着に大枚はたくなら、何か経験したほうがずっとお金が生きる気がした。
ギリシャへのフライトは香港、ニューデリー、ドゥバイと、数カ所に寄港しながらの南回りだった。
現地に着くと早速、エーゲ海クルージングだった。
今までに見たことのない青に触れた。
空も海もこんな青があったのかという青だった。
この青に抱きしめられたら、誰もが胸をしめつけられるような切なさと甘さと深さを感じるんじゃないかと思った。
そして、それとは対照的な白い建物とオレンジの朱。
港で出会って貝を分けてくれた漁師のやさしい顔。
先輩は誰とでも気軽に話しができる人だったので、ツアーの人たちと仲良くなるのが早かった。
それで船上で親しくなった会社役員のご夫婦と私たちは、ほとんどの行動を共にするようになった。
役員といってもまだ30代だったと思う。
パルテノン神殿をのぞむホテルに泊まった。
夕食のあと、そのご夫婦が「部屋に遊びにおいで」と誘ってくれた。
先輩と二人、飲み物やお菓子を持って訪ねた。
先輩はよくしゃべり、夫婦もよく笑った。
私はテニスのラリーを見るように、首を左右に振りながら話を聞いているだけだった。
ロイヤルファミリーみたいな紳士的なご主人と上品な奥さん、上質でユーモアのある会話に私は気後れしてまったくついていけなかった。
そんな様子に気がついた奥さんが私に話を振った。
「…で、あなたはいくつ?」
「二十歳になります。誕生日はまだちょっと先ですけど…」
私はどぎまぎしながら答えた。
「まぁ、そうなの。じゃ、もう一度乾杯しましょ。あと10分もすれば1月15日じゃない」
元旦を迎えるみたいに、1月15日の零時をカウントダウンし、夫婦と先輩が私の成人を祝ってくれた。

あれから20年以上の時が流れた。
あの晩のことは私の心にしっかりと刻まれている。
連日、アテネからのオリンピック中継を観ながら、心は再びそこに戻る。
五輪発祥の地は、私に大事な一歩を与えてくれた地でもある。

※当時、成人式は1月15日でした。
※昨年、アテネオリンピック開催中の8月にUPした記事を再び載せました。


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