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自衛隊音楽隊隊員「戦う音楽家」

2012-12-22 | 自衛隊

           

前回に引き続き、「制服シリーズ」、
今日は海自音楽隊のマーチングなどの演奏用ユニフォームです。

みなとみらいで行われたコンサートの模様は、探せばyoutubeに上がっていますから、
ぜひアップしたURL以外にもいろいろと探していただければよろしいかと思います。
そして場内の様子を見れば、いかにこのコンサートにたくさんの人々が詰めかけていたか、
その様子がお分かりになるでしょう。

エリス中尉は、半日このコンサートを傾聴して、この人気と関心の第一理由は、
なんといっても「かれらが軍楽隊であること」(この言い方に異論は認めません)
であることにつきる、と思ったのですが、いかがなものでしょうか。

本日画像にあげたような凛々しい「軍服」に身を包んだかっこよさ。
たとえば「錨を揚げて」のソロを鮮やかに披露したドラム奏者が、
他のだれにも真似できない本物の敬礼をする様子、
サラ・ブライトマンと同じキイで完璧な歌声を披露する女性歌手や、
「ゆず」の「栄光の架橋」を熱唱する男性デュオが、
「一等海曹」「三等海曹」などとアナウンスで紹介される不思議なギャップ。
演奏開始の際も0分きっちりにタクトが振られる「軍隊的規律の正しさ」。
そして、全ての音楽隊が必ず一番最後に演奏する「行進曲 軍艦」。

これらの様式や一般の人間にはめったに知りえない世界の規律を見るからこそ、
自衛隊音楽隊に人は強烈に惹きつけられるのだと思います。


昔、5月27日、日本海海戦で聯合艦隊が勝利をおさめたこの日は
海軍記念日とされていました。
この日に行われる「海軍行進」はいわば「季節の風物詩」として人々に親しまれ、
そのかっこよさに軍楽隊を楽器もできないのに志願する男子がいたというほど、
・・・・つまり、現在と全く同じように軍楽隊への関心と称賛を煽る行事でした。

このようなことを以前書いたことがありますが(海軍軍楽隊かく戦へり)
きょうは、このみなとみらいでのコンサートを見て
「自衛隊音楽隊員になりたい!」と思ったら、どうすればいいのか、
少し調べてみましたのでお付き合いください。

この日、会場ではプログラムとともにこのようなパンフレットが配られていました。



これには、海自音楽隊の活動の広報とともに「音楽隊員になるには」
というリクルート情報もあったりして、いかにこういったコンサートによって
志願があるかということがうかがい知れます。




それによると、音楽隊配属はこのような段階を経るのだということ。
音楽大学を出た楽器奏者の就職先は多くはありませんし、
一旦職を得てしまったオーケストラ団員はめったにやめませんから、
一般のオーケストラにもめったに欠員は出ません。
自衛隊音楽隊もまさに同じです。
音大を出た奏者の「第一目標」は普通はオーケストラですから、最初から
「自衛隊で音楽をしたい」と思って応募してくる者は希少ではないかと思いますが、
宝塚劇団の専属オーケストラですら、音大卒業者にとっては非常に安定した
優良就職先であることを考えれば、自衛隊音楽隊に入るのがいかに狭き門かお分かりでしょう。

この上のチャートを見て、不思議に思われませんか?
音楽隊員になりたい、と思ったものは、まず

自衛官試験を受けなければいけない

ということになっているのを。
音楽大学、音大大学院を卒業した者は、自動的に

「二等海士」「一般曹候補生」「海自技術海曹二曹、三曹」

の受験資格を持ちます。
専攻学科は指揮、作曲、管楽器、打楽器が対象ですから、ピアノ、声楽、弦楽器はアウト。
つまり、エリス中尉は受験資格があるということですね。
ただし、二等海士と一般曹候補生の募集年齢は27歳までですから、
ここでエリス中尉は大幅に受験資格を失います。
まあそんなことはどうでもよろしい。

それにしても、音大を出て自衛隊音楽隊に入りたい、と思ったら、まず試験を受け、
自衛官になってからあらためて「適性試験」を受ける。
これはとてもリスキーなのではないか?自衛官にはなったけど音楽隊に入れない、
つまり適性試験で不合格になったら、音楽隊をあきらめて普通の自衛官になるしかないのか?
そんなの、もしかしたら詐欺なのではないか?

とこの表を見て思ってしまったあなた、あなたは正しい。
しかし、どの世界にもどうやら「建前」というものがあって、実は音楽隊にも
ここに書かれない「裏試験」というものがあるらしいことがわかりました。

音楽隊の募集は毎年各楽器行われるわけではありません。
なぜなら、前にも言いましたが、いったん入った楽団員はそうかんたんにやめませんから、
募集は「欠員が出た楽器の対象者のみ」ということになります。

このような情報は各音大に「オーディションのお知らせ」という形で広報されます。

エリス中尉が大学生だったころ、大学掲示板に

「NHK『おかあさんといっしょ』のおにいさんおねえさん募集」

というオーディション告知があり、資格は「声楽家専攻」となっていました。
在学中見たもっとも変わったオーディション告知でしたが、そのほかにも、
地方オケなどの欠員に際して募集要項がしょっちゅう貼り出されたものです。

そんな感じで各専門学校に告知してオーディションを行い優秀な応募者を選ぶ。
実は、このチャートに書かれている「自衛官試験に応募」というのは、
このオーディション合格者が「形だけ行う」もののようです。
あくまでこのパンフレットは「一般向け」であるから、ここから書くしかないんですね。

もっともこれは「一つの形」で、高校を出てまず自衛官試験を受けてなった「正式採用組」、
大学に自衛隊の説明会が来たのでなったという「スカウト志願組」、そして、
普通に自衛官をやっていた趣味の奏者が適性試験で受かったという「一般採用組」
など、いろんなパターンの入隊者がいるようです。
ただし、「正式採用組」は、必ずしも希望の職種に回されるわけでもなく、
へたしたら意にそまない部署で「空きを待つ」可能性もないわけではないとか。

そして、晴れて音楽隊の隊員になれたら。
旧海軍でもそうでしたが、だからといって「らっぱふいてりゃいい」ということは、
軍楽隊である自衛隊音楽隊員には許されないのです。

音楽の訓練とは別に団体行動の規律を厳守することから叩き込まれ、さらには
体力と精神を鍛え上げるために、普通の自衛官と同じようなカッター訓練、
水泳(フネに何かあったら泳げないといけませんから)、陸上訓練をこなし、
さらには運営そのものを自分たちで行うために雑用も多いとか。
毎日プロオケとしての厳しい練習の日々。
もちろん旧海軍時代のように「練習室の防音壁に血しぶきが飛ぶ」などということは
決してありませんが、その分「言葉による叱責」の苛烈さは旧軍以上(たぶん)。
自衛官としての厳しい訓練は、もしかしたらこの言葉責めに耐えるための
精神力修養が目的か、というくらいのものだそうです。


観艦式の時、同行者の知人である退官した元掃海艇艦長、内閣府勤めの方と
エリス中尉、甲板で陽にあぶられながら長時間話をしました。
その会話の中で音楽隊の話が出たとき、この方は

「音楽隊が広報活動で一般向けに演奏するのは勿論いいことだが、
その存在意義の一番重要点は『隊員の士気鼓舞と慰安』なのだから、
その辺を逆転させないでほしい」

というようなことをおっしゃっていました。

音楽隊の義務の一つに「有事の際の隊員に対する士気鼓舞と慰安」があるというのは、
自衛隊に限らず古今東西軍と言われる組織では当たり前の話。
むしろ、それが第一義であると断定しても間違いはないでしょう。
国民の税金で賄われている音楽隊ですから、その国民に対していつなんどきでも
演奏を提供するべき、などというようなことをいうつもりはありませんしこの方の意見はわかります。

わたしは阪神大震災の後、被災者を慰撫するためのコンサートに
かかわったこともあるのでよく知っていますが、音楽の持つ力は、
どんな言葉よりも被害にあった人々の気持ちを慰め勇気づけます、

今回の東北の大震災の後も、自衛隊の音楽隊は慰問演奏を行いました。
そのような演奏を行っているのが自衛隊や消防隊の楽隊であることは、
被災者に音楽だけではない安心感を与えたと思うのです。

自衛隊が一般に向けて演奏を供することは、自衛隊そのものを宣伝することであり、
それに向けて皆の寄せる関心の強さはイコール「日本を守る自衛隊への理解」
につながっていくことから、こちらの意義も決して「二番手にすべきではない」
と私は思うのですがいかがでしょうか。

ある航空自衛隊の音楽隊隊員はインタビューに答えてこのように言っています。

「この仕事は音楽隊以前に自衛官であるっていうことを認識しないと務まらない職務だと思っています。
日本の国土と国民及び国民の財産を守る自衛官という事を先ず第一に考え入隊してほしいと思います」