日本の最後通告は真珠湾攻撃が始まって一時間後、
予定の時間「攻撃開始30分前」に1時間半遅れて手交されました。
アメリカ政府は実は日本が先に攻撃を仕掛けてくるのを待っており、
日本の動きを逐一報告させていました。
外務省と大使館の通話は筒抜けであったことが今では明らかにされています。
何度も出してきている12月8日日経新聞記事の表ですが、
今日はこの、記事の内容にはあまり関係のない(笑)
「米軍による傍受」という部分を見てください。
お分かりのように(なぜかここだけ米国時間なのでわかりにくいのですが)
外務省が電文を打っていずれもほとんどが約30分で傍受されています。
最後通告の13部までを受け取った米軍は、少なくとも攻撃の始まる14時間前には
外務省から電文が大使館に送られていることを知っていました。
翻訳にかかった時間を考慮しても、902電文の第1部が送られた時点で、
米軍側はそれを順に解読していたことは間違いないと思われます。
つまり、アメリカは日本がこれを以て
「日本が米国に対して外交交渉を打ち切る覚書を送付している」
=「いつ日本が軍事的に進行してきても不思議ではない」に突入したことを
知っていたと断定してもいいでしょう。
ところで、この記事で「日本の計画的無通告攻撃であった」ということを主張する
三輪(助)教授は、この表における時間の経過を「初めて」発見したということです。
しかし、この「新事実」が実は新事実ではなく、単に米国公文書記録管理局にある
記録文書を初めて日本人が見たに過ぎない、という事実に注目してください。
つまり、アメリカ側はこの記録をいつでも見ることができたということです。
アメリカは、日本大使館の最後通告が真珠湾攻撃の後になったことを
「国際法違反だ」とし、世論を戦争に向けるために大いに利用しました。
当時、それは「卑怯なジャップのだまし討ち」として国内に喧伝され、
国民は「リメンバーパールハーバー」に簡単に同調しました。
戦後、「大使館の怠慢と無能のためのミスで通告が遅れた」という説が出て、
今日それがほぼ既成事実化―アメリカでも一応―されています。
しかし、もし通告の遅れが意図的であったことがこれらの資料によって証明されるのなら、
資料を持っているアメリカはなぜそれを今までしなかったのでしょうか。
「日本の先制攻撃はやはり国家的に仕組まれたものであった」
これを証明することは当初の主張が正しかったことを裏付けることになり、
やれない理由もまた考えられないのですが、それをアメリカはしようともしなかった。
考えられる理由は2つ。
1、とにもかくにも通告が遅れたことは事実であるから、その理由などはどうでもよかった
2、通告の遅れは日本が意図したものではなかったことを傍受によって知っていたから
おそらくこのどちらもが正解で、さらにはもう一つ重大な理由があるとわたしは思います。
それは最後に回すとして、どちらにしてもこの日経の記事を見て不思議なことは、
日本の陰謀説を主張しているのが日本人であるということです。
以前「ひめゆりの塔の怖さ」という項を書いたとき、沖縄戦について調べていて、
「近頃あの戦争を讃美する動きがあるが」
という、いわゆる左っぽい人の言論を見つけたことがあります。
太平洋戦争は日本の自衛のための戦争であり、そして、
「卑怯な騙し討ち」になってしまったのは大使館の人為的ミスによる遅れが原因だった。
このように評価することをイコール「讃美」と非難する言論人にとっては、
通告の遅れはミスではなく、やはり日本の軍部が関与した意図的なものだったのだ、
というこの新聞記事の「新事実」は非常に歓迎すべきものであることは確かです。
つまり、編集者は「日本の戦争を自衛のためのものであった」という見解に
「卑怯な陰謀説」で水を差すのが目的だったのかもしれません。
そして、その目的に沿った主張をしている井口氏の「身内のための戦い」を引用したのです。
わたしは汚名をきせられた父親の名誉を回復しようとするこの井口氏を見て
真珠湾攻撃の全責任を問われたキンメル少将のことを思わずにはいられません。
キンメルは大将から引責降格されました。
たまたまその瞬間、責任を負うべき立場にいたがために、
未来永劫、歴史的な咎を受け続けなければいけない不運さにおいては、
アメリカ太平洋艦隊司令長官と大使館員という立場の違いはあっても同じです。
そして、どちらもの身内がその名誉のために今も戦い続けているのです。
http://pearlharbor911attacks.com/
「アメリカは日本の真珠湾攻撃をを知っていた」という通説が各種研究によって
年々信憑性を増しているにもかかわらず、
ハズバンド・キンメルの名誉は遺族による運動によってもいまだ回復していません。
その名誉回復決議は上院で一旦採択されましたが、歴代大統領は署名を拒否しています。
遺族の主張が「アメリカは攻撃を知っていてあえて真珠湾をスケープゴートにした」
という説に基づくものである限り、国家としてはこれを認めるわけにいかないからでしょう。
日本の打電を傍受していたことについても、アメリカ側は
「傍受はしていたが、すべてを解読したときにはすでに攻撃は始まっていた」
という見解を一貫して主張しているようです。
先ほどの「三番目の理由」がこれです。
公文書の記録を解析して「日本の陰謀」を暴こうとすれば、自分たちの動き、
そのとき何をどう察知していたのかということをも同時に明らかになってしまいます。
キンメルの犠牲を見て見ぬふりを続けてでも国の公式見解を守ろうとするアメリカが、
今さら藪を突いて蛇を出すような真似をするとはとても思えません。
翻って今回の日経記事に登場した人々は、
すべての責任を押し付けるのに格好の対象として「陸軍」を選びました。
戦後の多くの「日本誤謬論」が今は亡き「日本軍」にその責任を問うているように。
しかしいかんせんそれを証明するにはあまりにも状況や証拠が曖昧です。
遺族にはお気の毒としか言いようがありませんが、わたしには
大使館員の「汚名返上」は今後も不可能なことに思われます。
キンメル少将の名誉が、おそらくこれからも回復されないであろうのとは違う理由で。
だいたい、大使館の館員はこの件について公的には何の処分もされていないんでしょ?
だったら、むしろ黙っていた方がいいんじゃないか?と他人事だと思って軽く言ってみる。
(このシリーズ終り)