リコの文芸サロン

文化、芸術、手芸など人生を豊かにする情報発信ブログを始めました。より良いブログに育てるためにコメントなどお寄せください。

『いのちの種』歌集

2022-10-09 | 短歌
リコの歌会は最近、4名の方が歌集を上梓されました。
今回は福岡歌会の武藤富美さんの歌集『いのちの種』を紹介します。
この歌集はアマゾンで購入出来ます。
表紙絵もご自分で描かれています。


【鑑賞文】
〇肝っ玉先生
       大津留 直 
 この度、あけびの福岡歌会で長年活躍して来られた武藤富美さんが歌集『いのちの種』を上梓された。先ずは、心からお祝い申し上げます。歌集の題名『いのちの種』は歌集最後の次の歌から採られている。
塩糀保存と味を引き立たせ「いのちの種」の食べ物活かす
 武藤さんが生涯のテーマとして取り組んできたのは、日本人の食の問題である。
 略歴からも分かるように、福岡女子短大の特任教授などとして活躍してきたほか、地域での講演活動も活発にしてきたその道の専門家である。歌集の歌からもそのエネルギッシュで、ぶれることのない姿が彷彿する。まさに「肝っ玉先生」である。日本のみではなく、世界的に「食の危機」が明らかになりつつある現在、非常に貴重な存在である。私としても、その歌々から大いに学んでゆきたいと思う。

 
〇武藤富美「いのちの種」に寄す。            小西榮依子
逝く兄は手を振るごとく悠々と煙となりて天空(てんくう)に舞ふ
兄上との最後の別れの情景。煙の流れゆく様に肉親との情愛の深さが想定出来る。
日々(にちにち)の暮らしの短歌をあけび誌に我が生涯の一つの柱
どのお歌も表題の言葉を挿入し、角度を変えて詠む発想の豊かさで、日々の喜怒哀楽を歌に託している。
かなしみは悲しみ哀しみ愛しいといろいろあるが心揺さぶる
日本語の精密さ、それぞれの体温により同じ物を見ても表出が異なる。空間など、見えない物まで見える、奥深い短詩の妙味である。小笠原嗣朗先生が添えられた序のお言葉に「長い年々の足跡が臨場感よく綴られており、歌を人生の楽しみにされていることが云々」とある通り、生活実感を尊重し、言葉以上の豊穣な空間を見事に表現しておられる。

〇郷愁の歌集
      上野 猛雄 
 歌集『いのちの種』のご上梓を心からお祝い申し上げます。
 本歌集は、七十歳代であけびに入会した作者が月々詠まれた短歌作品を集大成したものであり、豊富な題材を生かして詠まれた歌の数々を感銘深く読ませていただいた。
 中でも、現在お住まいの九州から遠く離れた生まれ故郷、山形県酒田市での少女時代を回想して詠んだ歌、また作者を農家の主婦として慈しみ育ててくれた母上を懐かしんで詠んだ歌が圧巻であり、私が敢えて郷愁の歌集と題した所以である。
 もう一つこの歌集の特色を挙げると、歌を詠むに当たって、日常耳に聞き口に発する言葉、いわば生活語の中から一つを選び、その語を闊達自在に操って、バラエティーに富む八首があまた詠み上げられていることである。このようにして生まれた歌に、読者は親近感を抱き、同時代人として共感を覚えるのではないだろうか


〇いのちの種、とは?
     菅井 節子 
 昨年、あけび歌友の武藤富美さんが歌集『いのちの種』をご上梓。心よりお喜び申し上げます。
 内容は平成十八年からの「あけび」誌上の掲載歌を丹念に拾われています。ご経歴から拝察しますに、母であり、先生でありその上大学院にも挑まれ、いかにバイタリティある方であるかが想像に難くありません。そのお方の「いのちの種」とは何をさすのでしょうか。

色紙書くいつもと同じ「ひと皿の料理にいのちの種を宿して」 武藤 富美 
 勿論、美味しい料理も命の素ではありますが、その基には愛情がなくては始まらないでしょう。子への、はたまた生徒への短歌を拝見するにつけ、命の素となる愛が溢れていると感じました。
 最後の「こどもの戦争体験記」。戦争の記憶はまさにタイムリー。歌友だけでなく若い方々に是非読んで欲しいものです。

〇無碍の愛
      田中 悌子 
 山形の自然の中に優しいご両親に育てられた富美様の豊かな感性の詰まった歌集だと感じました。物事の正しい判断力、教師としての経験、常に前向きに学ばれ培われた知識等を、地域・ボランティア・趣味へと活用・還元された行動力に感服します。
 時代の流れと共に、自然・ご家族・作物等を優しい眼差しで包み込む、懐の広い歌は、武藤流の短歌となり新鮮で魅力的です。
 お幸せな日常を平明に詠まれ、ユーモアがあり機知に富み、同じ思いに納得します。特に野菜を詠まれた歌は、生活力に溢れ生き生きとして素敵です。富美様の努力され築かれた証が歌となり人生を彩っています。
今後もお元気で歌作りをお楽しみ下さい。
  私の好きな歌
九人(くにん)の子育てし農婦の母想ふ四人の子育てなんてことないさ
八十歳妬(ねた)まず驕(おご)らず謙遜に生くる技をと惑ひつつ暮らす


〇六名の方々の十首選の中からリコの好きな歌を加えて掲載します。
我が命誰かの杖となりしかと問ひつつ生きし八十五年

荷の届く透き間に埋むる新聞に故郷の香を探し読み入る

香りだし主材引き立て寄り添ひて葱の旨みのごとく生きたし

朝夕に笑顔にまさる化粧なし心ひそかに想いひて暮らす

九人の子育てし農婦の母想ふ四人の子育てなんてことないさ

ほんたうの言葉はひとつ「ありがとう」素直に言えればいのち輝く

着いた日に帰りの日を問ふ母の瞳に待つ切なさにたぢろぐ想ひ


リコの大阪歌会にくださった、自筆の絵の礼状です。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする