ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

ジョン・ディクスン・カー「曲がった蝶番」「テニスコートの殺人」読後感

2017年08月07日 | ミステリー小説
 先日購入したカーの作品のうち2冊を読了。読後感をつれづれになるままに。

●「曲がった蝶番」:自分が子どもの頃読んだのが偕成社の「踊る人形の謎(世界科学・探偵小説全集)」だということを後ろの解説を見て思い出した。だがその内容は全く覚えていなかったので、今回本文庫新訳版にて初めて読んだに等しい。自殺のようにしか見えない殺人のトリックについては確かに伏線や手がかりとなる表現が事前に示されているのだが、かなり想像力がないとわからないだろうという気がした。どちらの人物が本物かというサスペンス、自動人形のおぞましさ、そして若干のラブロマンス。ストーリーとしても一気に読ませる面白さが十分にあった。こなれた新訳の効果もあると思う。ただ、現場の状況が、外国の家ということでわかりづらかった。推理小説特有の見取り図があれば助かったのだが(単に想像力が不足しているだけか!)。

●「テニスコートの殺人」:これは完全に初読作品だが、大矢博子氏の解説ではこの作品を「現代的でテンポのいいサスペンス」と表現していて、実は私も全く同じ感想を持った。前半はサスペンス小説である。実際にはやっていない殺人の嫌疑を逃れるため主人公の男女が画策する。二人は愛し合っているし、殺された人物がイヤな奴なので必然的に読者は主人公の立場になって手に汗を握る、そんな流れである。カーってこんな小説も書いていたのか、と思ったのは大矢氏と同じ。そうした行動に出ざるを得ない理由は、犯人と思われる者の現場への足跡がないというテニスコートの密室化があるためだ。後半はその謎の解明に焦点が当たる。作者カーの「読ませる」筆力の高さを改めて知った作品だが、新訳の力も大きいと思う。そして、この作品には推理小説特有の見取り図が載っている。こうした図の有無で購入意欲が沸く私である。(それにしても「四阿」は推理小説でよく見る漢字だが「あずまや」と読ませるのが難しいといつも思う。)

創元文庫「夜歩く」新訳版ジョン・ディクスン・カーを追加で購入

2017年07月25日 | ミステリー小説
 先日のジョン・ディクスン・カーまとめ買いに続いて、通販の古本でカーの「夜歩く」新訳版を追加購入。到着すると帯付きだったのが嬉しい。
   

 原題はIt Walks by Night 。by nightというのはfly by night「夜間飛行」のように使われる表現だが、ここでは夜の間というよりは「夜によって、夜であるために」という直訳的意味合いに解釈した方が良い。そして、主語がit。人ではない何かが夜になると歩き回るのだ。これだけでゾッとさせられる。横溝正史にも同タイトルの作品があった。

 この小説は旧訳で子供の頃を含め2回読んでいる。私にとっては初めての三度読みである。さらに読みたくなるのは、そのような怪奇趣味に加えて不可能犯罪・密室の三拍子が揃った作品だから。犯行現場の見取り図もついている。ついでに言うと、2回も読んだのに真相をすっかり忘れているのである。


さあ読むぞ!新訳ジョン・ディクスン・カー創元推理文庫版

2017年07月11日 | ミステリー小説

 創元推理文庫版ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)の新訳本を写真のように揃えた。これまで「三つの棺」「火刑法廷」の新訳(早川文庫)を読了したが、創元版ではまず「曲がった蝶番」に取りかかっている。読むペースが遅いのでこの夏から秋にかけて読破予定。

 実は有名な「ユダの窓」は一度も読んだことがなかった。密室のトリックが有名すぎて読む前にその内容を知ってしまったという残念な理由があったからだ。しかし、この作品は法廷ものとしても優れていることがわかり、新訳版を数年前に購入。「貴婦人として死す」も全くの未読で、このような作品があったことは創元文庫のリストで初めて知った。他の作品のうち「髑髏城」は旧訳版で読んだ記憶がある。「曲がった蝶番」も児童書訳で読んだ。いずれもかなり昔のことだ。名探偵フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿、そしてアンリ・バンコランの活躍を順不同で改めて楽しみたい。

 以前こちらで述べたことがあるが、JDCは怪奇趣味+密室トリック+ユーモアの組み合わせに大きな魅力を感じていて、できれば全作品を読んでみたいと思う作家の一人である。この願いがはたして叶うだろうか、、、!?

「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」エラリー・クイーン角川文庫版

2017年06月10日 | ミステリー小説
 角川文庫版国名シリーズの新訳を完成させた越前敏弥氏がそれ以前に刊行していたクイーンの悲劇三部作。この機会に読んでみた。(厳密には「レーン最後の事件」を含めてドルリー・レーン四部作となるのだが、越前氏訳の最終作は未読。)いずれも中学か高校生の頃読んだはずだが記憶は不確かであり、ほとんどが初めて読む感覚に等しかった。

 通常では2作目の「Yの悲劇」が特に有名だが、私としては犯人の設定と「あの終わり方はちょっと、、、」という気がしていまいち推す気にならない。むしろXやZの方が犯人の意外性や物語性、そして論理的な解決の部分で評価したい。とりわけ語り手として新登場するサム元警視の娘ペイシェンスが活躍するZは新鮮な気持ちで作品に没頭できた。彼女は最終作でも登場するはずだから楽しみである。

 作者クイーンがバーナビー・ロスという別名でXの悲劇を発表した1932年は、続くYの悲劇や国名シリーズのエジプト十字架、ギリシャ棺を立て続けに刊行したそうだ。作家としての才能を充分に発揮していた時期の名作であることは言うまでもない。角川版の各解説は有栖川有栖、桜庭一樹、法月綸太郎。これもまた面白い。それぞれの視点での作品観がわかる。ぜひご一読を。


あかね書房の少年少女世界推理文学全集~全20巻とうとうコンプリート!

2015年09月13日 | ミステリー小説
 昨年12月に「この全集やっと17冊」、つまりコンプリートまであと3冊と本ブログで紹介したが、この度その3冊を入手し、とうとう全20冊を揃えることができた。リアルタイムに子供の頃自分で買った3冊(その一冊「エジプト十字架の秘密」が一番すり切れている)に加えて、外箱のあるものないもの、きれいなものそうでないもの、かつてどこかの図書館所蔵だったものなど、いろいろだ。   

 十数年前に住んでいた道南の某町の図書館にこのシリーズが置かれていた。またその隣の町の某病院の待合室にも「魔女のかくれ家」など数冊があるのを見た。自分が子供の頃に熱中した本がこんなに身近にあるということで、たくさん出回っているのだろうと思っていたが、いざ集めようと決めたらなかなか目にすることがなかった。そのため新たに17冊を集めるのに10年以上の歳月と結構な費用をかけることになったが、とうとう達成することができた。大変嬉しい限りである。

 コンプリート前の3作とは「バンダイン作・エジプト王ののろい/スコッチ・テリアのなぞ」「ウールリッチ作・非常階段/シンデレラとギャング」「チャータリス作・あかつきの怪人/チャンドラー作・暗黒街捜査官」で、いずれもネット・オークションを通しての入手である。私のように欲しい人がいれば、手放したい人もいるということがよくわかった。特にこれら3冊は小学生時代に読むことができなかったので、ほぼ50年ぶりに目的を果たすこともできた。

 このシリーズ、少年少女向きにリライトされているが、ウールリッチの短編「シンデレラとギャング」については集英社文庫の世界の名探偵コレクション10「ホテル探偵ストライカー」の中に収録されていて、それと見比べると訳文がほとんど変わらない。短編についてはほぼ原作どおりに訳されているようだ。しかし長編はコンパクトにまとめられている。だがクイーンの「エジプト十字架の秘密」を見るとわかるが、推理小説として重要な手がかりとなる部分は省かれておらず、そうした点をしっかり把握しながらまとめるのは逆に大変だったのではないかと余計な心配をしてしまった。

 最後に全20冊をひととおり読んでみた中でのトップ3を。第1位「ホイットニー作・のろわれた沼の秘密」第2位「ミルン作・赤い家の秘密/ルルー作・黄色いへやのなぞ」第3位「カー作・魔女のかくれ家/二つの腕輪」、次点が「クイーン作・エジプト十字架の秘密・十四のピストルのなぞ」。どれもワクワクしながら読んだ作品だがやはり子供の頃に読んだ作品の方が印象深いようだ。

 いずれにせよ、この全集が私のトレジャー・ボックスに加わったことを密かな喜びとしよう。


エラリー・クイーン国名シリーズ第10弾は「中途の家」、そしてこの後はどうなる?

2015年07月30日 | ミステリー小説
 越前敏弥氏の新訳による角川文庫版エラリー・クイーン国名シリーズは去る4月発刊の「スペイン岬の秘密」で終了したと思っていたら、この7月に「中途の家」が刊行された。そしてその帯には、「『大好評国名シリーズ新訳第10弾』<国名シリーズ、プラスワン>最後の傑作!」と明記されている。どういうことか。

  恒例のJ.J.マック氏によるまえがきにはこの事件簿を「スウェーデン燐寸(マッチ)の秘密」にするべきだった云々の記述がある。原作も1936年に刊行されたが、これは「スペイン岬…」の翌年で、クイーンとして10作目にあたる。そして本作には「~ある推理の問題」という副題と読者への挑戦は引き続き残っている。こうした点を考慮するとこの作品は実質的に国名シリーズの系統と考えて良い、というようなことが本書の解説では述べられているようだが、詳しい部分は「本編を読んでからご覧下さい」とあるので後の楽しみとしている。

 かつて創元文庫版ではさらに翌年の37年に出された“The Door Between”が「日本樫鳥の謎」として、まるで国名シリーズの最終作品のように刊行されたが、実際は関係がないという事実は知っていた。その作品以降は国名シリーズとはまったく違った作品が執筆されており、40年代に入り「災厄の町」や「九尾の猫」などの傑作が登場する。ちなみに「災厄の町」は同じ越前氏の新訳で昨年12月にハヤカワ・ミステリ文庫から刊行されているし、「九尾の猫」もこの8月に同氏の新訳で出るらしい(ハヤカワ版は「エラリィ・クイーン」との表記だが)。となれば、角川版のEQ作品は今後どのような展開になるのか。

 興味津々ではあるが、「スペイン」「災厄」そして「中途」の3作がまだ“途中”なのである…。


エラリー・クイーン角川文庫版国名シリーズが完結

2015年05月10日 | ミステリー小説
 角川文庫版の越前敏弥氏による新訳国名シリーズ全9冊が先月末の「スペイン岬に秘密」により完結した。新訳版第1作「ローマ帽子の秘密」が24年10月に発行されて以来2年半、比較的短い期間内での完結である。私は第6作目の「アメリカ銃の秘密」を読了したところで一休みしていたのだが、その後3作が3ヶ月ごとに出版され全く追いついていない。うれしい悲鳴である。加えて同じ越前氏の「災厄の町(新訳版)」が昨年12月に「エラリイ・クイーンの最高傑作」(帯に記載)との触れ込みでハヤカワ文庫から刊行されたものだから、4冊未読の私としてのクイーン・マイブームは当分終わる見込みがない。

 越前氏+1名による新訳は、原文のクィーン独特の尊大な言い回しはあるとしてもとても読みやすい。読み始めるとストーリーをどんどん追いかけることができる。さらに末文の解説が、今だから論じることができるという視点を含み大変興味深く読むことができる。総じてエンターテイメントとして申し分のない内容である。引き続き存分に楽しませてもらおうと思う。

 中村有希氏一人で新訳にチャレンジしている創元文庫版は「ギリシャ棺」のあたりだっただろうか、こちらも本文に加えて解説が充実している作りなのでこの後の刊行を期待するところだ。

「その女アレックス」「吹雪の山荘」読後感

2015年01月31日 | ミステリー小説
 最近読んだ2冊の本を紹介。ネタバレとならない程度に。 
 「その女アレックス」(ピエール・ルメートル作、橘明美・訳、文春文庫)各ミステリー紹介誌の海外部門1位を独占したとのこと。誘拐ものらしいので、本来その手の小説は読まない私だが、各誌があまりに絶賛しているし、また帯に記載されている「驚愕、逆転、慟哭、そして感動 ― 101ページ以降の展開は誰にも話ないで下さい」、という言葉につい手が出てしまった。(フランスの作家でもあるし。)結論。この作品をミステリーと言っていいのだろうか、スリラーとかサスペンスなどと言う方が合っているように思える。つまり、あらかじめ手がかりが与えられ、読者も一緒に推理する本格推理小説ファンの私としては、これは「はずれ」の作品であった。ただし、橘氏の翻訳の文体はとてもこなれていて読みやすく、次の展開も気になるなど物語を追っていくことは楽しめた。そして予想を裏切る展開となっていくのは確かにそのとおり。最後が「感動」とは思えなかったけれど。グロい表現が少なからず出てくるので、いくら話題作でも苦手な人はやめた方が良いと思う。

 「吹雪の山荘」(創元推理文庫)笠井潔、岩崎正吾、北村薫、若竹七海、法月綸太郎、巽昌章6名の作家によるリレーミステリーである。ある吹雪の山荘で見つかる首なし死体をめぐる物語。こちらは本格推理小説として充分楽しめた。最初の書き手が提示した謎に対し、各作家が共通の登場人物の視点を借りてそれぞれの章で解決を試みるという構成。最終話担当の作家が真犯人を特定するわけだが、そこに至るまで実に様々な推理が展開される。推理作家とはいろいろなことに対して解釈を膨らませて、さらにそれを論理的に説明することができる人達だと改めて実感した。加えて分担章ごとに小さな謎を提示し章内で解決するというルールもあり、その実行も見事。また、各自が担当分執筆直後に最終的な解決予想をした文章が最後の方に掲載されており、皆さんの真犯人の予想が違っているのが面白かった。最終的には意外な犯人で決着し、推理作家の力量を知らされた作品である。

あかね書房の少年少女世界推理文学全集 やっと17冊

2014年12月10日 | ミステリー小説
 年末を迎え、今年もこの1年のミステリ小説総括の時期となった。今年は「このミステリーがすごい! 」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリーが読みたい! 」でそれぞれ 第1位に輝き3冠となった米澤穂信氏の短編集「満願」が最注目作品だろうか。これら3誌で同時に1位となるのは極めて異例のことと新聞でも紹介されていた。同氏の作品はかつて「インシテミル」を読んだことがあるがこちらは未読だ。機会があればぜひ読んでみたい。

 ミステリの話題としてはもう何度も触れたが、私が推理小説にのめり込んだきっかけは、小学校の図書室にあった「あかね書房」の「少年少女世界推理文学全集全20巻」である。その時の感動や思い出を忘れることの出来ない方々は多いようで、某有名推理作家の中にもそのように言っている人がいる。現在入手困難ではあるがたまにネット上の古本店やオークションに出ることもあり、ある時から私も集めてみようという気になった。もう10年近くなるだろうか、先日ガードナーの「X線カメラのなぞ」を入手しようやく17冊が揃った。ケースがすべてあるわけでもなく、また元々図書館にあった本としてシールの貼られたものもある。が、一応読むには耐えられるし、やはり懐かしい香りがする。何よりもいつも借りられていて読むことの出来なかった作品を読むことが出来たのが嬉しい。小学生の頃、土曜日の午後、部屋の中を暗くして布団をかぶりながらワクワクしながら読んだことを思い出す。至福の時だった。果たして残り3冊は手に入れることができるのだろうか。

 ちなみにその3冊とは、「バンダイン作・エジプト王ののろい/スコッチ・テリアのなぞ」「チャータリス作・あかつきの怪人/チャンドラー作・暗黒街捜査官」「ウールリッチ作非常階段/シンデレラとギャング」である。実は3冊とも未読。とりわけ…ののろい、…のなぞ、という言葉にとても引きつけられる。どなたか譲ってもいいという方がおりましたらぜひご連絡を!


角川文庫エラリー・クィーン国名シリーズ第7弾「シャム双子の秘密」が登場

2014年11月04日 | ミステリー小説
 第6弾「アメリカ銃の秘密」をまだ読んでいないこの時点で、次の作品が刊行された。「シャム双子の秘密」である。
 私はこの作品を子供向けに書かれた鶴書房盛光社のミステリー・ベスト・セラーズで読んだ記憶はあるのだが、創元推理文庫版はどうだったか覚えていない。そちらも確かに持ってはいたのだが。というわけでこれまた読むのを楽しみにしている。
 確か殺人事件がどこかの山荘で起こるのだが、居合わせたクィーン父子も山火事で身動きできないという状況だったはず。スリルとサスペンスが盛り込まれ他の国名シリーズと雰囲気が違っていたことを覚えている。
 それにしても訳者の二人、越前 敏弥氏は同じだがもう一人の名前が毎回違うのはなぜか、そしてどのような分担をしているのか。作家クィーンがいとこ二人によるペンネームだったことに絡めて角川文庫版は訳者の謎が気になる。

最近読んだミステリ関係を紹介(2014年8月その1)

2014年08月29日 | ミステリー小説
 「完全版密室ミステリの迷宮」監修・有栖川有栖(2014年5月洋泉社)
 古今東西の「密室」ものミステリを紹介している。古くはポーの「モルグ街の殺人」、横溝正史「本陣殺人事件」から近作まで幅広い。こんな密室あんな密室と図解入りを折り込みながら紹介しているが、そのトリックまでは触れられていない。当たり前の話だが、それが「あずましくない」(北海道の方言で「満足しない」意味)。すると興味を引く作品を読みたくなる。そういう仕組みのガイドブックである。
それにしても、まだまだ知らない密室ものの名作がこれほどあることを改めて知った。未読のものは片っ端から読んでみたい、そんな気持ちにさせられた。

 その中で最初に読みたいと思った作品は幡 大介「猫間地獄のわらべ歌」(2012年7月講談社文庫)である。早速古本で手に入れた。これは江戸時代の話で、ある閉ざされた蔵で自死を遂げた侍がいるが、自死ということを知られないようにあえてそれが他殺であることを証明する、つまり密室破りを考えなければならないという状況から始まる物語。他に首無し殺人、わらべ歌殺人、アリバイ崩しなどの事件も発生し、そのトリックは如何に、という展開である。ミステリとしては登場人物自らが述べているように伏線がない、つまり読者はいっさい手がかりを与えられない状況なので、単純にストーリーを追いかける読み方になるだろう。しかし、それなのに「読者への挑戦」が挿入されているし、また、最後の最後に「へぇー」と唸ってしまう予想外の展開もあった。さらに、江戸時代の語り口も意外と面白く、ギャグもあり、総じてリラックスして楽しめた作品であった。「時代物」も結構面白いのかもしれないと思った次第である。


角川文庫新訳版エラリー・クィーン国名シリーズ後半が登場

2014年08月04日 | ミステリー小説

 いよいよ角川新訳の国名シリーズ刊行が再開された。先月登場したのが「アメリカ銃の秘密」。こちらの帯には「新訳決定版国名シリーズ後半刊行スタート!」のコピーが。ということで、以下7 シャム双子 8 チャイナ橙 9 スペイン岬…と続くことになるだろう。創元版に組み込まれていたニッポン樫鳥は本来国名シリーズではなかったので、恐らく含まれないと思うがどうだろう。

 さて、今まで再三触れた角川文庫の新訳だが非常に読みやすく(ついでに印字も大きめ)、その越前敏弥氏+1名の翻訳体制は変わらず。ここまで欠かさず読んできたので今回も迷わず購入。この作品も犯人指摘場面の印象が強くてよく覚えているのだが、ストーリーについてはすっかり忘れている。従って改めて楽しく読めると思う。今後の刊行も大変楽しみである。

 ちなみに、創元推理文庫版の新訳は「ギリシャ棺の謎」が出た。こちらもシリーズが続くようである。

「東西ミステリーベスト100」より4作③「11枚のトランプ」

2013年12月03日 | ミステリー小説
 子どもの頃はだれしも手品にあこがれるものだろう。人を驚かす快感は大人になっても変わらない。そして、特別な器具を揃えずにそれが可能なのがトランプである。私も小学生の頃、トランプ・マジックの子ども向け指導書を買って熱中した時期があった(写真右)。単純なタネであればあるほど、ばれずに驚かれるという経験もあり、けっこうはまった。だから、本書「11枚のトランプ」(泡坂妻夫)というタイトルに私が惹かれたのも無理はない。かなり若い頃に一読しているのだが中身はすっかり忘れていた。今回再読して知ったトリックとその伏線の置き方には改めて感心した。
 作者自身も一流の奇術師だったという。そして、この作品の素晴らしさのひとつは、「11枚のトランプ」という作中小説にある。登場人物一人ひとりに関わる、決して一般的には披露できない限定的な手品・マジックが合計11本用意されている。マジックのノウハウも述べられながら、一見不思議と思われる現象があっさり種明かしされている。この部分だけでもとても読み応えがあるのだが、これがこの物語の一部として、実は犯人解明につながる手がかりとなっているのだ。そして探偵役の人物が解明した真実も最後の最後で大逆転される。何とも鮮やかな終わり方であった。手品に夢中になった幼い日の頃を思い出しながら読むことができた。なお著者には美貌の女奇術探偵「曾我佳城(そがかじょう)」を主人公とした奇術にまつわる短編集が2冊出ている(秘の巻・戯の巻)。私は未読だが、古本で手に入れている。これから読むのが楽しみだ。

 以上、4作品を紹介したが、どれも昭和の香りのする、古き良き時代のミステリーであった。「東西ミステリーベスト100」には未読の素晴らしい作品がまだまだたくさんあるということで、ミステリー小説ファンとしての私の探求はこれからも続く。


「東西ミステリーベスト100」より4作②「人形はなぜ殺される」「黒いトランク」

2013年12月02日 | ミステリー小説
 御手洗探偵と同様に有名な神津恭介が登場する「人形はなぜ殺される」(高木彬光)は、このタイトル自体がとても挑戦的だ。著者は序詞の中で「この題名はそのまま、…読者諸君への挑戦の言葉」であることを示し、そして実際その意味・理由がわかった時、全ての真相が明らかになる。さらにこの作品では、魔術・奇術・降霊術などの要素が絡んでおり、ジョン・ディクスン・カーのような怪奇趣味の雰囲気を味わうこともできる。この光文社文庫版では「彬光とカー」というタイトルで二階堂黎人氏が一筆寄せているが、そこでは高木彬光もカーを愛読し翻訳さえしたと紹介している。確か「刺青殺人事件」は密室ものだったから、著者とカーの思いには似たところがあったのだろう。そして本格ものを扱ったという意味では「読者への挑戦」が二度もなされていることから、この作品は著者にとって自信作であったに違いない。私自身は限定された怪しい人物達の中で作者のミスディレクションにまんまとひっかかり、犯人を特定することはできなかったが、「意外な犯人」、それを示す伏線など推理小説の醍醐味を感じることのできる、存分に楽しめるストーリーだった。

 「黒いトランク」(鮎川哲也)は「ミステリーベスト100」を見るまで知らない作品だった。たまたま光文社文庫版を古本で見つけたので読んでみた。これはアリバイ崩しのミステリーだ。この手の物語は犯人の目星がつき、その行動を追い、どうしてもアリバイが成立するのを何度も仮説を挙げては崩そうと推理する、そしてそれを実証するために足を使って捜査するというのが定番だ。特にこの作品は「樽」と比較されるという。確かにフレンチ警部で有名なクロフツの作品もそのような筋立てだった印象があり、急な展開はないけれど少しずつ真相に近づいていくという地味な面白さがあった。本作はある意味主人公の「トランク」がどのような動きだったのかが問題となり、しっかり考えないとついていくのが難しい。メモを取りながら読んだというレビューもあったほどだ。ただ、他の3作品と違って事件を追う警部の過去の恋という要素が盛り込まれているのが全体の緊張感を和らげている。この作品は警察署間の情報のやり取りを含め、確かに足で稼ぐ作品だ。しかし、少しずつ真相に近づいていく中で、最後の大きな謎が立ちはだかる。その解決を待つことができずに最後まで読んでしまうという、通好みの良作である。


「東西ミステリーベスト100」より4作①「占星術殺人事件」

2013年11月29日 | ミステリー小説
 この度、文藝春秋編「東西ミステリーベスト100」(平成25年1月発行)の上位にランクされた国内で名作と言われるミステリー作品を4作立て続けに読んだ。それらは、第3位「占星術殺人事件」(島田荘司81年)、第11位「黒いトランク」(鮎川哲也56年)、第28位「人形はなぜ殺される」(高木彬光55年)、そして第38位「11枚のトランプ」(泡坂妻夫76年)、である。「人形~」と「11枚の~」は以前読んだ記憶がかすかにあるので再読となるはずだが4作とも大変印象に残る、さすがの作品であると感じた。とりわけ本格推理と言われる各作品の持つトリック・しかけの巧妙さが素晴らしく、「占星術~」と「人形~」ではエラリー・クィーン同様の「読者への挑戦」がなされる。それも段階を経て2度も。何とミステリーマニアをくすぐる趣向か。当然私などはその時点でも「さっぱりわからない…」となるわけだが。

 「占星術殺人事件」は今年8月に改訂完全版が講談社文庫から出版された。旧文庫版を古本で買っていたのだが、こちらの改訂版は行間が広がり読みやすくなっていたので買い直した。(その分ページ数も増えているが。)この作品は、読み終えた時大きなショックを受けた。以下東西ミステリーベスト100記載の「うんちく」の助けを借りて述べると、過去の事件なので犯人の可能性のある人物はみな死亡しているという前提であるがゆえに、結末では全く予想できなかった驚愕の、それでいて論理的な解決を提示しているのだ。作者のミスディレクションにしてやられたという感覚である。島田荘司のデビュー作であり名探偵御手洗潔初登場作品でもあるが、「国産本格ミステリー・ブームの先駆となった大傑作」と言われるのも納得である。作中におけるそのトリックを作者は「ある朝いきなり飛来した」と述べているが、当時実際に起きた詐欺事件に触発されたらしい。その断片を大きくふくらませて、これほど複雑で面白い物語として世に誕生させてくれたことに私は心から感謝する。

 実は以前、同氏の北海道を舞台にした「斜め屋敷の犯罪」(東西100第21位)を読んだのだが、解明されたトリック自体には驚いたが、それほど熱中はしなかった。しかし、こちらのデビュー作は文句なく傑作である。未読の方には一読をお薦めする。(続く)