ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

エラリー・クイーン「ギリシャ棺の秘密」とダン・ブラウン「インフェルノ」

2013年10月11日 | ミステリー小説
 しばらく更新していなかったが、何冊か小説を読み続けていた。そのうちの一冊が「ギリシャ棺の秘密」である。私がエラリー・クイーン国名シリーズ第4作目であるこの作品を最初に読んだのは、遙か昔の中学生の頃、井上 勇訳による創元推理文庫版であった。当時大変面白かったということと、真犯人が誰であるか(それはあまりに意外であったので)を鮮明に覚えていた。だが、なぜ面白かったのか、即ち話の内容は全く覚えていない。そんな状況の中、このほど刊行された角川文庫版新訳にてこの作品を再読した。
 ということで、今回私は犯人がだれであるかを知りながら物語を追うことになったわけだが、結局その者を犯人だと決める確証と説明を見いだすことができなかった。見事に手がかりがカモフラージュされているのだ。それなのに、解決編を読むとなるほどと思わされるのである。真犯人を導く作者クイーンのロジックと犯人を隠蔽する巧妙なレトリックに改めて気づかされた。まあ、私の頭がついていけないからというのもあるのだろうが。
 そして、初読の時になぜ面白いと感じたのか、まずこの物語の事件発生舞台が墓地であることが、怪奇趣味とまではいかないがゴシック的雰囲気を醸しだしていること、場面も次々移り変わりサスペンス性が込められている。若き青年のエラリーとその失敗(そのためそれ以降は全貌が確定するまでいっさい犯人の名前は言わないという原則が生まれる)が描かれ、いくつかの仮の解決も用意されている。さらにヒロイン的な人物が登場し、重要な役回りを演じるからである、ということが改めて分かった。そうした要素はここまでの3作品と異なっていて、後味も違う。さらに、恒例の面白解説によると、作品のある部分に作者の謎かけが仕込まれていて、…なるほど!というわけで全く気づかなかった。
 角川版のこの新訳はやはり読みやすい。

 さて、もう一冊はギリシャとは全く関係のないダン・ブラウンの最新作Infernoである。「ダ・ヴィンチ・コード」で有名なロバート・ラングトン教授の4作目でもある。私はこの本をアメリカ合衆国在住である大学の大先輩から頂戴した。重厚な装丁のハードカバーである。その作りが大変素晴らしい。翻訳が来月下旬に登場するようだが、ほんの少し早く読むことができた。と言ってもまださわりの方である。いつもの意味深なプロローグの後、冒頭突然ラングトンが病院で目を覚ますところから始まりすでにサスペンス感がいっぱいである。大先輩によるとモチーフはダンテの「神曲」で、イタリア語による文章が所々出てくるそうだ。PFM(イタリアのプログレ・ロックバンド)の歌詞しか知らない私にはそこは難関だ。(ただし、日伊辞典は持っているし、スペイン語は勉強したことがあるので何とかなるかも…!?)英書でこの長編を読み切るにはかなりの時間を要しそうなのだが、今のところはストーリーを追うことができている。各チャプターが短いので読みやすいとは思うが、翻訳が登場するまでに読み切れるだろうか、それとも…。


E・クィーン角川文庫版新訳「エジプト十字架の秘密」とあかね書房「少年少女世界推理文学全集」

2013年10月01日 | ミステリー小説
 角川文庫版新訳のエラリー・クィーン、「エジプト十字架の秘密」が刊行された。この国名シリーズの新訳、こちら角川文庫版は何と昨年10月以降約3ヶ月毎に刊行されている。ほぼ1年で5冊が登場。かなり速いペースではないだろうか。越前敏弥氏と作品毎にパートナーが変わっているが二人がかりで翻訳にあたっているのもそれと関係しているのだろうか。そういえば、作者エラリー・クィーンも実は従兄弟二人によるペンネームで、作品も彼らの合作であった。

 ここまで再読してみるとこれら(ローマからギリシャまで)は本当にロジックで論じられた作品であると実感する。文庫で最初に読んだのが中学生の頃だったから当時はそれほど感じなかったかもしれない。その意味で今とても面白く読める。複雑な密室や怪奇趣味は一つもないが、いわゆる本格ものの醍醐味を味わっている。

 ところで、角川版は飯城勇三氏の解説が毎回面白い。今回はあかね書房の「少年少女世界推理文学全集」における「エジプト十字架の秘密」についても触れている。それによるとこのジュニア向けにリライトされた同書によりクィーンを初めて知った作家がけっこういるというのだ。新井素子氏や有栖川有栖氏などの著名人が上げられている。そして作家ではないが私もその一人である。何とも彼らに親近感を持ってしまう。このブログで紹介するのは3回目となるのだが、自分が中学生くらいに買った同書写真を再度掲載する。そして、横尾忠則氏が挿絵を描いているということにはこの解説を読むまで気がつかなかった。よく見ると確かに小さく名前が載っている。監修者として川端康成の名前もあるので、当時としては大変ハイセンスな全集だったと言える。そういえば先日某オークションにこの全20巻が一括で出品され、何と12万円台で落札された。一冊あたり約6000円である。根強いファンがいるのだなぁと思う。子どもの頃リアルタイムに書店で買ったのは3冊のみであった私自身も機会があれば集めようと思い、たまにオークションに参加するのだが低価格ではなかなか落とせない。現在はようやく半分の10冊である。

 さて、角川文庫版国名シリーズは一息ついた後、今後後半が刊行されるようだ。創元推理文庫版新訳も追随すると思われる。かつて創元版では本来国名シリーズではない「間の扉」という作品が「ニッポン樫鳥の謎」として出版されているが今回の扱いはどうなるのだろうか。それも含めて後半の作品群の再読を楽しみにしていようと思う。


E.クイーン「フランス白粉の秘密(謎)」新訳 角川版と創元版

2013年09月03日 | ミステリー小説
 エラリー・クイーン作国名シリーズ2作目のこの作品を角川文庫版と創元推理文庫版の各新訳で読んだ。私にとってクイーンの国名シリーズは小学生の頃から親しみ、その後全て読破したと思っていたが、読み終えてこの作品は未読だったことに気がついた。その意味ではとても新鮮であった。

 最初に角川版を読んだ。前にも述べたがこちらは文字が大きく大変読みやすい。そして、翻訳もいかにも英文を日本語に置き換えましたという表現ではなく、日本語として違和感のない文体なのでとてもスムーズに物語を追うことができた。だからといって意訳に徹しているわけでないのは創元文庫版と見比べるとわかる。この辺は訳者の力量と言うことか。二人の訳者の名前が見られるのは、編集者も含めていろいろ吟味しているのかもしれない。

 この作品は、事件が発生した日一日の状況を中心に、最終章は2日後の朝という極めて短期間での様子が描かれている。「エジプト十字架」のように長い期間にわたる物語ではないので非常にテンポよく進行する。そして最後の一文で犯人が名指しされて終わるということでも有名だ。そこに至るまでいくつかエラリーが父親のクイーン警視と事件について話し合う場面があり、いわゆる推理小説としてのロジックを堪能できる部分も多い。特に最終場面の関係者を一堂に集めて事件を説明する定番シーンで、消去法で犯人を特定していく論理的説明にはぞくぞくするほどだ。ただ、ある重要な手がかりが見つかるがそれだけで犯人が特定できるのではと、ついつっこみを入れたくなる部分があったのも事実だ。即ちそれはタイトル「白粉」の意味にも関連するのだが、読了したから言えることではある。

 さて、創元推理文庫版の方は正確には流し読みである。以前も話題にしたが、両者の一番大きな和訳上の違いはクイーン親子間の会話である。エラリーが父親と対等の話し方をするのが角川版、上下を意識した話し方をするのが創元版。角川版「ローマ帽子」を最初に読んだ時はエラリーの口調に違和感を覚えたものだが、私は今は角川版の方が合っている気がする。日常的に格言を引用したり、外国語や比喩を使った話し方をするエラリーという若者は、私からすると高慢でちょっと気取ったイヤな奴という印象を持つ。そんな若者が親に対し丁寧な言葉遣いをするはずがないのではと感じる。このことについて解説のところで訳者がそのようにした理由について述べているので興味のある方はご覧いただきたい。(ちなみに、角川・創元の両者とも「解説」がとても面白い。)

 創元版の方もよくこなれた日本語なので読みやすい。クイーンが描いたというデパート全体図以外の部屋の見取り図が、角川は立体図、創元は平面図と違っていたり、細かい訳文の違いも確かにあるが、そんなことをとおして作品をさらに理解することになるのだろう。

 犯人が指摘される場面で終わるこの作品、登場人物達のその後がどうなったのか気になって仕方がない。特に、冒頭にとってもイヤな人物として紹介される新警察署長の様子がとても気がかりだ。そんなことも含めて思いつくままにこの小説について述べてみたが、一言でまとめるなら、「面白かった。」となる。次は「オランダ」を飛ばして「ギリシャ棺の秘密」(角川版)に進んでみよう。


出ました、クィーンの角川文庫版国名シリーズ第4弾「ギリシャ棺の謎」

2013年06月23日 | ミステリー小説
 今月20日、ついに新訳エラリー・クィーン国名シリーズの第4弾「ギリシャ棺(ひつぎ)の秘密」角川文庫版が発売されたのでちょっとご紹介。

 現在、三津田信三氏の「凶鳥の如き忌むもの」文庫版がもう少しで読み終わるところ。このシリーズは文庫化されるにあたって作品舞台の地図などが新たに挿入されるのが恒例となっているがこれもそのうちのひとつ。また、氏の作品はいつも登場人物や土地の読み方が難しいのだが、章が変わる毎にフリガナがつけられている配慮がうれしい。人間消失の謎解きが間もなく始まる。

 さて、国名シリーズ第4弾は待望の「ギリシャ棺」。9作品あるクィーンの国名シリーズのなかでも1.2を争う傑作と言われており、確かに私も中学生時代に読んだ時に面白いと感じた。そして犯人の名前も鮮明に覚えているのだが、ストーリーまでは記憶がない。この角川文庫版は文字が大きく、また新訳だけあってエラリーの吐く台詞も現代風である意味スタイリッシュ。このシリーズでは中の見取り図や現場周辺図などについても訳者が再検討し、より正確化を図る配慮をしているそう。充分再読に値するだろうと思う。1作目の「ローマ帽子の秘密」からいつも解説が面白いので読了後も楽しみだ。(加えて今、「ハッケンくんグッズ」キャンペーンというのを行っていて、名作大漁ストラップをゲット。この中に「犬神家の一族」や「貞子3D」というのもあるらしく、本当はそれが欲しかった!)

 もう1冊、写真右の「11枚のトランプ」は泡坂妻夫氏の名作。これも随分昔に読んだはずなのだが、マジックの不思議と本格推理の雰囲気が絶妙にマッチしていた記憶がある。本当は古本で探していたのだが、同じ書店にたまたまあったので併せて購入。こちらも近々再読してみようと思う。

 良質なミステリーは何度も読みたくなるものである。


怪奇趣味の本格推理作家 カーと三津田信三

2013年05月14日 | ミステリー小説
 ジョン・ディクスン・カー(別名カーター・ディクスン)は本格物の推理小説作家として定評があり、私も大好きである。作風の特徴として、①密室事件などの不可能犯罪②幽霊魔女などにまつわる怪奇趣味③ユーモラスな登場人物(探偵)の三点が挙げられる(二階堂黎人「名探偵の肖像」講談社文庫版の「地上最大のカー問答」による)。最初に読んだのは子供用に書き直された「魔女のかくれ家」(あかね書房)であった。この作品にはまさにその三大要素が盛り込まれており、とりわけ「怖さ」に布団をかぶりながら夢中になって読んだものだ。カーの作品では密室を扱ったものが多く、物理的にも心理的にも様々なトリックが考案されている。そこも大きな魅力だが、実は私は怪奇趣味の側面がけっこう好きで、カー好きな理由もそこにある。最近は「黒死荘殺人事件(ブレーグ・コートの殺人)」(創元推理文庫)を購入し、今途中である。(実は買っても読み切らずに置いておく習性(積ん読)のため、この本は買ったことを忘れて2冊も購入。)幽霊の出る館、降霊術など最初から話しに引き込まれていく。(写真上:2冊購入してしまった黒死荘…とカー作品)
 ところで、日本の作家にも怪奇趣味を作風とした推理作家がいる。三津田信三である。彼の場合は完全なホラー・ミステリー作家である。デビュー作の「ホラー作家の棲む家」(後に「忌館」と改題)を書店で手にしたのが彼を知ったきっかけであるが、その作品が実に気持ち悪く、第一印象はあまり良いものではなかった。ところが、次に読んだ「首無しの如き祟るもの」はまさにカーの三大要素が織り込まれたような作品であった。不可能犯罪や不気味な現象に対する論理的説明、探偵役の刀城言耶のユーモア(人物が)など、この作品で改めて三津田ワールドにのめり込んでしまった。一応の解決を示しながらも疑問を残すような結末もカーター・ディクスンの「火刑法廷」の趣がある。続いて読んだ「厭魅(まじもの)の如き憑くもの」も日本的怪奇と幻想の世界で、加えて最後に示される事件の複数の解答に読者は翻弄される。どちらも登場人物は多く、横溝正史の雰囲気も感じさせる。正直言って「首無しの…」は途中真相の一端に気がついてしまったが、それにしてもホラーミステリーとして抜群に面白かった。続く「作者不詳」は迷宮草子という同人誌を巡る怪異現象の話。各話を読み始めると実際に読み手の身辺に怪異心霊現象が発生し、物語の中の謎を解明することでその危険が回避できるという内容。手に汗握る展開で、実に読ませてくれた。三津田氏は密室ものなども扱い、今後も頑張って新作を発表していただきたい作家の一人である。(写真下:講談社版を並べるだけで独特の雰囲気。)
 こんな状況なので、数年に一回は行くことのある京都にまつわる怪異と土地を解説した「京都妖怪案内」(佐々木高弘・小松和彦共著)も読んでしまった。この趣味、さらにエスカレートしていきそうである。


エラリー・クイーンの国名シリーズ新訳

2013年04月24日 | ミステリー小説
 かの有名なエラリー・クイーンの国名シリーズ、文庫での新版が刊行されている。最初に目にしたのが、「エジプト十字架の謎」(創元推理文庫)で3年ほど前のこと。それは従来どおりの井上勇氏翻訳ものだが、新版ということで字体が大きくなった。私にとってこの字の大きさが目下とても重要なのである。この作品は以前紹介したあかね書房発行の少年少女世界推理文学全集の一冊として小学生の頃読み、エラリー・クイーンの名を初めて知った思い出深い小説である。

 国名シリーズは、第1作の「ローマ帽子の謎」がクイーンのデビュー作となり、その後次々と刊行された。手元の東京創元社解説目録によると、「1 ローマ帽子の謎 2 フランス白粉の謎 3 オランダ靴の謎 4 ギリシャ棺の謎 5 エジプト十字架の謎 6 アメリカ銃の謎 7 シャム双子の謎 8 チャイナ橙の謎 9 スペイン岬の謎 10 ニッポン樫鳥の謎」の10冊がタイトルされている。(ただしニッポン樫鳥…は日本独自の題名で、本来は国名シリーズではない。)確か、中学生の頃全てを読んだはずなのだが記憶が定かでない。もしかしたら、フランス白粉…は未読かもしれない。そんな状況でも、4の「ギリシャ棺の謎」がとても面白かったことは覚えている。かなり長い作品ではあったのだが、犯人の名前も記憶にあるくらい印象深い。そして現在、「ローマ帽子の謎」が新訳版で出版されている。そこで、今回話題にしたいのは、この新訳版についてである。

 最近、ミステリーの古典的名作が新たに翻訳されている。実はこのクイーンの国名シリーズも、角川文庫より昨年(24年)10月から新訳版が刊行されている。その皮切りが「ローマ帽子の秘密」である。原題をThe Roman Hat Mysteryというのだが、こちらはmysteryの訳を「秘密」としている。そして今流行?のコミック的な登場人物のイラストを表紙に載せており、エラリーの顔が描かれている本作品は店頭では今までの国名シリーズのイメージとはかなり違って見えるのではないかと思う。

 後書きで飯城勇三氏が、「今回の翻訳は私が知る限りでは最高の訳文である」と断言している。その理由は、クイーンは毎回「読者への挑戦」という趣向を設けているのだが、前版より読者が犯人を当てるための材料がわかりやすく記載されている、つまりよりフェアになったということのようだ。確かに例として引用されている部分の従来の訳は直訳的でわかりづらく、犯人捜しに生かすのはなかなか難しいと思われるのだが、新訳では我々日本人にもその辺がわかるように(と言ってもよほど注意深く読んでなければならないが)工夫されているのである。このシリーズは「刊行開始」と帯に表記されているので、おそらく今後他の作品も新訳で出版されるのだろう。現在はフランス白粉…を経て「オランダ靴の秘密」まで刊行されている。

 そして、ほぼ同じ時期に創元推理文庫からもこの国名シリーズの新訳(中村有希・訳)が出版されたのである。カバーのデザインは一新され、鍵のイラストが入っているなどミステリーの趣がありなかなか良い。ローマ帽子とフランス白粉が出て、今年第3作のオランダが刊行予定とアナウンスされている。

 両者の翻訳上の違いとしてまず気がつくのは、クイーン警視と息子エラリーの会話において、創元版は従来どおりエラリーは丁寧な話し方だが、角川版は今風に言うとタメ口言葉である。後者を最初読んだ時にはかなり違和感を感じたが、親子の会話なら実際そうなるだろうと思いながら読むと馴染んでしまった。(日本語の方が多彩な表現を示すという一例だ。英語は日本語ほど丁寧表現が多くはないし、男言葉と女言葉の表現があるのも同様。当然訳者の判断で翻訳も大きく変わることだろう。)

 最近文庫本を買う時に、活字が大きく印刷されているかどうかが一つの判断材料となっている私だが、今手元にあるディクスン・カーの名作「火刑法廷」ハヤカワ文庫版は他の出版社のものよりも7~8ミリ縦長の作りとなっていて、それだけでも読みやすさを感じる。そしてこれも新訳版である。カーの怪奇趣味もまた好きなのであるが、やはり創元推理文庫から新訳がいくつか出ている。それはまた別の機会に。

 結局クイーンは角川版と創元推理版とどちらが良いのか。実は創元版はこれからじっくり楽しむところなのである。悪しからず。


乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(集英社文庫)

2013年03月14日 | ミステリー小説
 ミステリー好きの私がこのシリーズの存在を知ったのは数年前のことである。これら10作は超有名な作品なのだろうが、いくつか未読のものがあり、その中のひとつ、ドロシー・セイヤーズの「ナイン・テイラーズ」をどこかで見つけて読んだのがこのシリーズを知るきっかけとなった。原書の出版当時の資料や乱歩の推薦文が掲載され、当然ながら他の出版社とは違う翻訳で、それも新訳が売りということで、かつて読んだ作品でも再読したいと思った次第だ。そこで一冊ずつ古本で探しては読み進めた。子どもの頃にあかね書房版で読み、さらに創元推理文庫でも読んだ大好きな「赤い館の秘密」(A.A.ミルン)や「黄色い部屋の謎」(ガストン・ルルー)が10作の中に含まれているのがとても嬉しかった。そして気がつくと古本ではあるが、全10冊が揃っていた。
 このシリーズは番号順とは関係なく出版されたようで当初、「黄色い部屋の謎」(第2巻)とクリスティの「アクロイド殺害事件」(第6巻)の2冊が刊行されたらしい。手元の同書を見ると初版として98年10月25日発行である。最終は第9巻の「樽」で99年6月25日の日付だ。ほぼ20世紀終わりの出版となろうか。
 翻訳もいろいろな方がしているが、以前の訳よりこなれた日本語で読みやすい印象を受けた。文字も見やすくて結構私はこのシリーズを読むのが楽しかった。最近は創元文庫も角川文庫もクイーンやカーなどの「新訳」ものを刊行し、充分私の興味を引いている。それらについては実際読んだ(でいる)ものもあるので機会があれば紹介したい。
 また、集英社文庫からは97年に「世界の名探偵コレクション10」というシリーズが刊行されている。シャーロック・ホームズはじめブラウン神父、ポアロ、メグレ警視などが登場しているが、中でもウールリッチの「ホテル探偵ストライカー」は子供向けに書かれたものを過去に読んだことがあったので、とても懐かしかった。残念ながらこちらのシリーズは手元に全10巻中5冊があるのみ。今後も気長に探してみよう。


ミステリー小説の原点

2012年09月06日 | ミステリー小説
 小説を読むのは好きだ。最近は三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖1~3」、綾辻行人「Another」、道尾秀介「光」などを読んだがどれも面白かった。いろいろやりたいことがあるので決して読書にかける時間は多くはないが、私にとっての楽しみのひとつである。
 さて、ミステリー小説についてである。私はミステリーが大好きだ。今までにかなりの数を読んだと思うが、最初に読んだのは何だっただろうか。多分、シャーロック・ホームズだったと思う。小学4年生か5年生の頃に買ってもらった子ども向け文学全集の中の1冊にそれがあった。現物はいつの間にかなくなってしまったが、何と中標津町在住の時、町図書館の古本市でそれをみつけて購入。(写真上)懐かしい!そして当時自分が何を読んだのかが再確認できた。それらは、まだらの紐、赤毛連盟、…などである。
 同時に、忘れられないのがあかね書房発行の「少年少女世界推理文学全集全20巻」である。小学校の図書室にあり、毎週のように借りて読んだ。最初に手にしたのがホイットニー「のろわれた沼の秘密」。タイトルを見るとホラーものかと思ってしまうが、決してそうではなく、ある女の子とその兄の冒険談である。休みを利用して叔母の家に遊びに来た主人公が経験する不思議な出来事。やがて兄が登場し、共にその謎を解決していくという話。アメリカという異国の世界で手に汗握る展開があり、子どもであった私の心を魅了してしまった作品だ。他のシリーズはたいがい2作品が含まれているが、この巻だけは1作品のみの収録で、長さ的にも読み応えがあった。シャーロック・ホームズも面白かったが、私は断然この作品が気に入り、推理小説というものにのめり込んでいったのだ。
 続けて何冊かを読んでいったが、この全集の中で特に好きだったのは、「赤い家の秘密(ミルン)/黄色の部屋の謎(ルルー)」「魔女の隠れ家(カー)」の2冊だ。冒険・密室・怪奇そしてフー・ダニット(犯人は誰だ)を堪能できる。この全集は結構人気があったようで、他の者に借りられている巻も多く、全てを読み切ることはできなかった。それで自分で買った巻もある。エラリー・クイーンの「エジプト十字架の秘密」、アイリッシュ「恐怖の黒いカーテン」そして前述の「のろわれた沼の秘密」。
 思い出深いというノスタルジーもあるが、今後充分楽しめる全集として全巻を揃えたいものだと思っていた。が、廃刊となっているためか今現在も人気があって、オークションに時々出品されても結構高額である。きっと私と同じ気持ちの方々が多いのだろう。それでも何冊か手に入れることができた。未読だった作品を読むと、子ども向けに書き直されてはいるが充分楽しめる優れた翻訳だと思う。その後は創元推理文庫にたくさんお世話になり、海外のいわゆる名作と呼ばれる作品をいろいろ読破することになるのだが、原点はこのあかね書房版であり、手元の各巻は私の宝物のひとつとなっている。