ヒロヒコの "My Treasure Box"

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意外な犯人に驚いた!5冊のカー作品より

2018年02月18日 | ミステリー小説
 ジョン・ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」「緑のカプセルの謎」、カーター・ディクスン「ユダの窓」「貴婦人として死す」「かくして殺人へ」。創元推理文庫版によるカー作品5冊を立て続けに読んだ。

 まず、これらの作品に共通するのは「ラブロマンスの要素あり」ということ。その展開は下手をするとメロドラマ的になってしまうかもしれないのだが、推理小説だけに大体は事件と大きく関係する。「テニスコートの殺人」で体験したドキドキ感と同じで、いったい次がどうなるのかやめられなくなる。

 次に共通するのは「意外な犯人」。これには参った。特に「貴婦人として死す」の犯人にはあっ!と驚いた。久しぶりに声を上げてしまうほど。登場人物が限られているので真犯人の予想はつきそうなものだが、まんまと作者にしてやられた。「ユダの窓」「皇帝のかぎ煙草入れ」も同じ。カーのミス・ディレクションに読者は誘導され、そして最後に驚きの声を上げてしまうのだ。これは新訳による軽妙でテンポの良い文体によるところも大きいかと思う。読みやすいが故にだまされてしまうのだ。

 これらの作品の中で唯一「緑のカプセルの謎」は中学生くらいの頃に旧文庫版で読んだはず。だが、全く印象が違った。チョコレート・ボンボン殺人の解決に時間が費やされたのではと思っていたのだが、長年の歳月に記憶も曖昧になっている。即ち、新訳で読み直すことの楽しみを再発見した。この作品では特に事件を記録したフィルムを見る場面は何ともスリリングであった。

 カーター・ディクスン名義で登場するヘンリ・メリヴェール卿も真相を見抜く鋭い頭脳を持っている割には傲慢でわがままな人のようで、昔持っていた印象がまるで変わった。そんな理解の仕方も再読による面白さのひとつなのだと思う。これら新訳版カー作品、心からお薦めしたい。