最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

代金完済していないものを担保してはならない事例

2019-01-05 14:31:52 | 日記
平成29(受)1124  不当利得返還等請求事件
平成30年12月7日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

金属スクラップ等の継続的売買契約において目的物の所有権が代金の完済まで売主に留保される旨が定められた場合に,買主が保管する金属スクラップ等を含む在庫製品等につき集合動産譲渡担保権の設定を受けた者が代金完済未了の金属スクラップ等につき売主に上記譲渡担保権を主張できないとされた事例

毎回思うのですが、この要約文の悪文ぶりには辟易します。これを英文に翻訳できると思います?主語が誰なのかはじめ、分かりやすく書く努力をして欲しいものです。

日経新聞の報道です。
スクラップを担保として金属販売業者に融資していた商工組合中央金庫(商工中金)が、スクラップの所有権を持つ矢崎総業に担保の効力をどこまで主張できるかが争われた訴訟の上告審判決が7日、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)であった。同小法廷はスクラップのうち、代金未払い分については矢崎に所有権が残る契約だったとして、商工中金は担保権を主張できないと判断した。
代金未払いの商品在庫に担保が設定されるケースは多いとみられ、今回の判断は実務に一定の影響を与えそうだ。
矢崎は業者にスクラップを継続的に売却し、毎月の代金支払いが終わった時点で所有権を業者に移す契約を締結。一方、業者は商工中金とスクラップを担保とする融資契約を結んでいた。業者が廃業したためスクラップを回収し売却した矢崎に対し、商工中金が担保を根拠に5千万円の支払いを求めていた。
同小法廷は判決理由で、矢崎と業者の契約は代金の支払いを確保するためのもので、毎月代金が完済されるまでは、その分のスクラップの所有権は矢崎にあると指摘。商工中金の上告を棄却した。代金支払いが完了した一部のスクラップまで売却したとして、矢崎に相当額約177万円の支払いを命じた二審判決が確定した。



事実関係を見ていきます。
(1)美崎産業は、金属スクラップ等の処理,再生,販売等を主たる事業とする会社である。
(2)被上告人(矢崎)と美崎産業は,平成22年3月10日,被上告人が美崎産業に対して金属スクラップ等を継続的に売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
ア 被上告人から美崎総業への目的物の引渡しは,原則として,美崎産業が被上告人の子会社から定期的に目的物を収集することにより行われる。
イ 美崎産業は,被上告人から引渡しを受けた目的物を受領後速やかに確認して検収する。
ウ 被上告人は,検収に係る目的物について,毎月20日締めで代金を美崎産業に請求し,美崎産業は,上記代金を翌月10日に被上告人に支払う。
エ 目的物の所有権は,上記代金の完済をもって,被上告人から美崎産業に移転する。


工場であればよくある契約です。金属加工業であれば、大量の屑金属が出ます。それを定期的に引き取ってもらい、どの金属が何トンあったかを報告する。そして、毎月21日から翌月20日までを一つの期間としての翌月10日払いで、回収業者が工場に代金を払ってっ取引は終了となります。ごく普通の契約ですね。

(3) 被上告人は,美崎産業に対して,本件売買契約に基づき売却した金属スクラップ等の転売を包括的に承諾しており,美崎産業は,被上告人から当該金属スクラップ等の引渡しを受けた直後にこれを特定の業者に転売することを常としていた。

当然回収業者は自分のところで製錬するわけではなく、大手の溶鉱炉を持つ企業に売却します。これもごく普通にやる取引です。

(4) 上告人(商工中金)と美崎産業は,平成25年3月11日,極度額を1億円として,美崎産業からの個別の申込みに応じて上告人が美崎産業に融資を実行する旨の契約を締結した。
ア 譲渡担保の目的は,非鉄金属製品の在庫製品,在庫商品,在庫原材料及び在庫仕掛品で,美崎産業が所有し,静岡県御殿場市内の工場及び精錬部で保管する物全部とする。
イ 本件設定契約の締結の日に美崎産業が所有し上記の保管場所で保管する在庫製品等については,占有改定の方法によって上告人にその引渡しを完了したものとする。
ウ 上記の日以降に美崎産業が所有権を取得することになる在庫製品等については,上記の保管場所に搬入された時点で,当然に譲渡担保の目的となる。


だんだん見えてきましたね。支払いが終わって所有権が美崎産業に移ったものと、まだ運び込まれたばかりで支払いが終わっていないものも混ざっている状態のようです。簡単には区別がつかない状態で保管していたのでしょう。その上で、保管場所に搬入された時点で担保物になるという契約というのが味噌です。
これは完全に美崎産業の契約ミスですね。

(5) 本件譲渡担保権に係る動産の譲渡につき,平成25年3月11日に登記した。
(6) 被上告人(矢崎総業)は,平成26年5月20日までに美崎産業に対して本件売買契約に基づき売却した金属スクラップ等については,一部を除いて,同年6月10日までに美崎産業から代金の支払を受けた。
(7) 被上告人は,平成26年5月21日から同年6月18日までに,美崎産業に対し,本件売買契約に基づき,金属スクラップ等を売却した。
(8) 美崎産業は,平成26年6月18日,被上告人を含む債権者らに対して,事業を廃止する旨の通知をしたが,被上告人は,同通知の時点で,上記(7)の期間に売却した金属スクラップ等について代金の支払を受けていなかった。


代金未払いのままで廃業ですね。
(9) 被上告人は,平成26年11月,美崎産業を債務者として,本件工場で保管されている金属スクラップ等につき,本件条項に基づき留保している所有権に基づき,動産引渡断行の仮処分命令の申立てをし,平成27年1月13日,上記申立てを認容する旨の決定。
(10) 被上告人は,平成27年1月20日及び21日,本件仮処分決定に基づき,本件工場で保管されていた金属スクラップ等を引き揚げ,その頃これを第三者に売却した。なお,上記金属スクラップ等の一部には,美崎産業が被上告人に対して代金を完済したものが含まれていた。


やっちまった感が漂います。そりゃ廃品回収業者を見ればわかりますが、金属の山があってどれがどこから出てきた物なのかはパッと見分かりません。余計なものを物を持っていくな!と「5000万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を請求し、同額の不当利得金の返還及び民法704条前段所定の利息の支払を請求する事案である」と商工中金が矢崎総業を訴えた構造になります。

最高裁は
本件売買契約は,金属スクラップ等を反復継続して売却するものであり,本件条項は,その売買代金の支払を確保するために,目的物の所有権がその完済をもって被上告人から美崎産業に移転し,その完済までは被上告人に留保される旨を定めたものである。
契約では、一つの期間に納品された金属スクラップ等の所有権は,上記の方法で額が算定された当該期間の売買代金の完済まで被上告人に留保されることが定められ・・・

被上告人は,美崎産業に対して金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが,これは,被上告人が美崎産業に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であると解され,このことをもって上記金属スクラップ等の所有権が美崎産業に移転したとみることはできない。


結論
したがって,本件動産につき,上告人は,被上告人に対して本件譲渡担保権を主張することができない

裁判長裁判官 三浦 守 当然
裁判官 鬼丸かおる 当然
裁判官 山本庸幸 当然
裁判官 菅野博之 当然

至極当然な判断です。金融機関として5000万円を溶かす訳にはいかないので必死だったのは分かりますが、どういう契約だったのか調べないで担保を付けた時点でミスがあったのかなぁという気がします。
とは言え、5000万円の法定利息なんぞ、弁護士費用からすればたかがが知れているわけで、何で示談に持ち込めなかったのかなぁと思います。