平成29(受)1372 売買代金請求本訴,損害賠償請求反訴事件
平成31年3月7日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所
違法な仮差押命令の申立てと債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなかったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係がないとされた事例
事実認定を見ていきます。
(1) 上告人は,各種印刷物の紙加工品製造等を目的とする株式会社である。当時,現金,預金債権及び売掛金債権だけでも16億円余りの資産を有していた。
(2) 上告人は,被上告人に対し,印刷物等の売買契約に基づく代金等の支払を求める本件本訴を提起したところ,第1審判決は,平成28年1月,上告人の本訴請求を1310万1847円及び遅延損害金の限度で認容した。
上告人は,仮執行宣言の申立てをせず,第1審判決に仮執行宣言は付されなかった。上告人及び被上告人は,いずれも第1審判決を不服として控訴した。
(3) 上告人は,平成28年4月18日,本件売買代金債権を被保全債権として,被上告人の取引先百貨店に対する売買代金債権につき,被上告人を債務者とする仮差押命令の申立てをし,同月22日,これに基づく債権仮差押命令が発令された。本件仮差押命令は,同月23日,本件第三債務者に送達された。
印刷屋さんが納品したのに、客Aは金を払ってくれませんでした。客の取引先である百貨店に対してAに支払う金を差押えしました。
(4)Aは供託金を払ったため、百貨店がAに払う金額の差し押さえが解除する旨が第三者に通達されました。
(5) Aは,本件仮差押命令の取消しを求める保全異議の申立てをしたところ,本件仮差押命令を保全の必要性がないとして取り消し,本件仮差押申立てを却下する旨の決定がされた。上告人は,上記決定を不服として保全抗告をしたが,同年10月,保全抗告を棄却する旨の決定がされた。
(6) 被上告人は,平成28年6月の原審口頭弁論期日において,上告人に対し,本件仮差押申立てが違法であることを理由とする不法行為による損害賠償債権を自働債権とし,本件売買代金債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。
Aが代金を払わなかったのは、そもそも問題があるからでその事は裁判で提訴して、損害賠償金と相殺するべきものだと主張したようです。その根拠は仮差押えなんかするから、他との取引ができなくなったじゃないかというものです。
原審では、以下のように認めています。
(1)そもそも必要がなかった差押えなので、Aに対する不法行為である。
(2)被上告人と本件第三債務者との取引期間は1年4箇月であり,被上告人におけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると,被上告人は,本件仮差押申立てがされなければ,本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。・・・本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。
これに対して最高裁は
1年4箇月間に7回にわたり本件第三債務者との間で商品の売買取引を行ったものの,被上告人と本件第三債務者との間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれないし,被上告人の主張によれば,上記の期間,本件第三債務者の被上告人に対する取引の打診は頻繁にされてはいたが,これらの打診のうち実際の取引に至ったものは7件にとどまり,四,五箇月にわたり取引が行われなかったこともあったというのであって,被上告人において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったということはできない。
つまり、複数年度に渡り反復的に取引していれば、継続取引と見做せるという事になりますね。この件について言えば、第三債務者がAとの間で新たな取引を行うか否かは,本件第三債務者の自由な意思に委ねられていたという事になります。
結論
以上を総合すると,本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間に相当因果関係があるということはできない。
第一小法廷 裁判官全員一致
裁判長裁判官 山口 厚 今一つ
裁判官 池上政幸 今一つ
裁判官 小池 裕 今一つ
裁判官 木澤克之 今一つ
裁判官 深山卓也 今一つ
結論は納得です。同意します。
でも継続取引となれば、代金の支払いを延長できる事になりますよね。商慣習によってそういうこともあり得ますが、それは業界によってかなり違います。製紙業では半年に一度の支払いのようですし、建設業では3か月ごとの支払い、文具の卸は月末締めの翌月10日か15日払いというような傾向がある事は確かです。ですかこういった取引を客観的に一律で扱う可能性がある判決文を書いたことには正直疑問を感じます。
これを楯に下請けいじめが出る可能性があるからです。ましてや印刷業は、一度印刷してしまうとその商品は他に転換する事は出来ず、再生紙としてトイレットペーパーに換える鹿できなくなります。粗利もそんなにがっつりととれるものでもありません。もう少し別な根拠で結論に至って欲しかったと思います。
平成31年3月7日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所
違法な仮差押命令の申立てと債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなかったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係がないとされた事例
事実認定を見ていきます。
(1) 上告人は,各種印刷物の紙加工品製造等を目的とする株式会社である。当時,現金,預金債権及び売掛金債権だけでも16億円余りの資産を有していた。
(2) 上告人は,被上告人に対し,印刷物等の売買契約に基づく代金等の支払を求める本件本訴を提起したところ,第1審判決は,平成28年1月,上告人の本訴請求を1310万1847円及び遅延損害金の限度で認容した。
上告人は,仮執行宣言の申立てをせず,第1審判決に仮執行宣言は付されなかった。上告人及び被上告人は,いずれも第1審判決を不服として控訴した。
(3) 上告人は,平成28年4月18日,本件売買代金債権を被保全債権として,被上告人の取引先百貨店に対する売買代金債権につき,被上告人を債務者とする仮差押命令の申立てをし,同月22日,これに基づく債権仮差押命令が発令された。本件仮差押命令は,同月23日,本件第三債務者に送達された。
印刷屋さんが納品したのに、客Aは金を払ってくれませんでした。客の取引先である百貨店に対してAに支払う金を差押えしました。
(4)Aは供託金を払ったため、百貨店がAに払う金額の差し押さえが解除する旨が第三者に通達されました。
(5) Aは,本件仮差押命令の取消しを求める保全異議の申立てをしたところ,本件仮差押命令を保全の必要性がないとして取り消し,本件仮差押申立てを却下する旨の決定がされた。上告人は,上記決定を不服として保全抗告をしたが,同年10月,保全抗告を棄却する旨の決定がされた。
(6) 被上告人は,平成28年6月の原審口頭弁論期日において,上告人に対し,本件仮差押申立てが違法であることを理由とする不法行為による損害賠償債権を自働債権とし,本件売買代金債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。
Aが代金を払わなかったのは、そもそも問題があるからでその事は裁判で提訴して、損害賠償金と相殺するべきものだと主張したようです。その根拠は仮差押えなんかするから、他との取引ができなくなったじゃないかというものです。
原審では、以下のように認めています。
(1)そもそも必要がなかった差押えなので、Aに対する不法行為である。
(2)被上告人と本件第三債務者との取引期間は1年4箇月であり,被上告人におけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると,被上告人は,本件仮差押申立てがされなければ,本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。・・・本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。
これに対して最高裁は
1年4箇月間に7回にわたり本件第三債務者との間で商品の売買取引を行ったものの,被上告人と本件第三債務者との間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれないし,被上告人の主張によれば,上記の期間,本件第三債務者の被上告人に対する取引の打診は頻繁にされてはいたが,これらの打診のうち実際の取引に至ったものは7件にとどまり,四,五箇月にわたり取引が行われなかったこともあったというのであって,被上告人において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったということはできない。
つまり、複数年度に渡り反復的に取引していれば、継続取引と見做せるという事になりますね。この件について言えば、第三債務者がAとの間で新たな取引を行うか否かは,本件第三債務者の自由な意思に委ねられていたという事になります。
結論
以上を総合すると,本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間に相当因果関係があるということはできない。
第一小法廷 裁判官全員一致
裁判長裁判官 山口 厚 今一つ
裁判官 池上政幸 今一つ
裁判官 小池 裕 今一つ
裁判官 木澤克之 今一つ
裁判官 深山卓也 今一つ
結論は納得です。同意します。
でも継続取引となれば、代金の支払いを延長できる事になりますよね。商慣習によってそういうこともあり得ますが、それは業界によってかなり違います。製紙業では半年に一度の支払いのようですし、建設業では3か月ごとの支払い、文具の卸は月末締めの翌月10日か15日払いというような傾向がある事は確かです。ですかこういった取引を客観的に一律で扱う可能性がある判決文を書いたことには正直疑問を感じます。
これを楯に下請けいじめが出る可能性があるからです。ましてや印刷業は、一度印刷してしまうとその商品は他に転換する事は出来ず、再生紙としてトイレットペーパーに換える鹿できなくなります。粗利もそんなにがっつりととれるものでもありません。もう少し別な根拠で結論に至って欲しかったと思います。