最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

家裁調査の結果を匿名にして論文にするのは、プライバシーの問題にならない

2020-10-20 21:14:27 | 日記
令和1(受)877  損害賠償請求事件
令和2年10月9日  最高裁判所第二小法廷  判決  その他  東京高等裁判所
少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文を雑誌及び書籍において公表した行為がプライバシーの侵害として不法行為法上違法とはいえないとされた事例

この事件はニュースとしてマスコミには扱われなかったようです。

1 家庭裁判所調査官であった上告人Y1は,被上告人に対する少年保護事件を題材とした論文を精神医学関係者向けの雑誌及び書籍に掲載して公表した。本件は,被上告人が,この公表等によりプライバシーを侵害されたなどと主張して,上告人Y1,上記雑誌の出版社である上告人アークメディア及び上記書籍の出版社である上告人金剛出版に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

家裁調査官でしかできない生データに触れていたのですね。おそらく精神科医や犯罪社会学も喉から手が出るほど欲しい情報だと思います。

(1)ア 被上告人(当時17歳)は,平成N年,ナイフをリュックサックの中に入れて持ち歩いたという非行事実に係る銃砲刀剣類所持等取締法違反保護事件について東京家庭裁判所に送致された。本件保護事件は,平成N+1年 月,不処分により終了した。被上告人は,先天的な発達障害の一種であるアスペルガー症候群を有するとの診断を受けていた。

イ 東京家庭裁判所の家庭裁判所調査官であった上告人Y1は,本件保護事件の調査を担当し,被上告人や父親からの聞き取り調査等を行った。なお,上告人Y1は,臨床心理士の資格を有し,発達障害に関する学会発表等の活動もしており,裁判所の研修機関が編集する専門誌において,広汎性発達障害に関する論文を発表したこともあった。


犯罪自体は微罪ですね。誰かを刺そうとして振り回していたわけではなく、たぶん不審者として警察官が職務質問で発覚した犯罪でしょう。

(2)ア 上告人アークメディアは,その発行に係る臨床精神医学に関する月刊誌(以下「本件月刊誌」という。)において,本件疾患の症例報告に関する公募論文の特集を行うこととし,平成N+1年 月末を締切りとして論文を公募した。・・・本件疾患に対する正しい理解を広めることにあった。本件月刊誌は,精神医学の臨床や研究に関与する医療関係者等を読者と想定して市販されている専門誌であった。

一般に売られているが、その辺の週刊誌ではなく医者やカウンセラーが読む専門雑誌ですよね。

イ 上告人Y1は,大阪家庭裁判所において勤務していたが,同月頃,本件月刊誌の編集委員長である大学教授から上記公募論文の執筆を勧められ,社会の関心を集めつつあった本件疾患の特性が非行事例でどのように現れるのか,司法機関の枠組みの中でどのように本件疾患を有する者に関わることが有効であるのかを明らかにするという目的で,本件保護事件を題材とした論文を執筆し,上記の公募に応募した。

学術的かつ実務的であって、興味本位の週刊誌レベルの話ではないと認定しています。

ウ 上告人アークメディアは,本件論文を採用し,これを平成N+1年 月発行の本件月刊誌に掲載した。。被上告人は,本件公表の当時,19歳であった。
本件論文において取り上げた「少年」が容易に特定されることがないように,対象少年の氏名や住所等の記載を省略しており,本件論文には,対象少年やその関係者を直接特定した記載部分はなく,対象少年や父親の年齢等を記載した箇所はあるものの,本件保護事件が係属した時期など,本件論文に記載された事実関係の時期を特定した記載部分もなかった。


学術論文は検証可能性と同時に被験者のプライバシーを徹底的に守らなければなりません。名前を出すときは必ず当事者の同意を取ることに倫理上なっています。

上告人Y1は,本件論文の執筆に当たり,症例の事実それ自体を加工すると本件疾患の症例報告としての学術的意義が弱まることを懸念し,本件疾患の診断基準に合致するエピソードをそのまま記載していた。また,本件論文には,対象少年の家庭環境や生育歴に関して具体的な記載がされ,学校生活における具体的な出来事も複数記載されていたことから,これらを知る者が,本件論文を読んだ場合には,その知識と照合することによって対象少年を被上告人と同定し得る可能性はあった

ここは難しいところです。

一般的に,患者の具体的な症状のほか,家族歴,既往歴,生育・生活歴,現病歴,治療経過,考察等を必須事項として正確に記載することが求められていた。

これは学術論文としては検証可能性が求められるところなので、なるべく正確に書かなければなりません。研究者としては当然求められる範囲です。

(4) 上告人Y1は,平成N+2年 月までに家庭裁判所調査官を退官し,同年月,大学の心理学部教授に就任した。
(5) 上告人金剛出版は,平成N+4年 月,本件論文を含め,上告人Y1がそれまでに発表した論文を1冊にまとめた書籍を出版した。


多分博士号の申請として出版した可能性があります。

(6)上告人Y1は,あらかじめ被上告人の了承を得た上,本件疾患を克服して社会適応を勝ち取った例として被上告人に関するエッセイを執筆し,平成N+9年 月,これを心理学関係の雑誌に公表したこともあった。

この少年は探し当てて元調査官=教授と会い、通常の生活ができるようになったことをエッセイにしていたということは、かなり仲がよく上手く行っていたようです。

イ 被上告人は,上告人Y1に対し,平成N+10年 月,本件書籍を出版したことに抗議し,これを絶版とすることを求める電子メールを送信し,この頃以降,上告人Y1の法的責任を追及するようになり,平成27年8月,本件訴訟を提起した。

ところがその翌年、自分のことが書かれていると激怒して抗議したようです。アスペルガー障害については全体の文脈を理解できないので、その瞬間瞬間で物を見るのでほんのちょっとした行き違いが猛烈な侮辱を受けたと勘違いするようです。身の回りにいますが、本当に会話も慎重にしないと変なところでキレるので非常に厄介です。

そこで最高裁は、
(1) プライバシーの侵害については,その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するものと解される(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁)。

(2)ア 少年法は,少年審判を非公開とし(22条2項),審判に付された少年本人を推知させる記事等を出版物に掲載することを禁止しており(61条),少年審判規則7条1項及び2項は,少年の付添人以外の者は,同条1項に定める場合を除き,少年保護事件の記録等を閲覧又は謄写することができないと定めている。これらの規定は,少年の健全な育成を期するため(同法1条),少年に非行があったこと等が公開されることによって少年の改善更生や社会復帰に悪影響が及ぶことのないように配慮したものである。

私個人としては少年法は廃止すべきだと思っていますが、それを脇において一応少年の発達に期待するのでフルで刑法を適応するのは止めておきましょうという趣旨ですよね。ただ問題はアスペルガー障害は違うのです。人によってかなり程度の差はありますが、障害であるが故に社会上問題となる行為であると文脈から認識できないのです。つまり普通に生活していて、通常なら学べることを彼らは学べず、全てのことにIf・・・,then・・・で学ばなければならないのです。
例えば他人の表情が読めないので、他人が楽しいのか嫌がっているのか判断できず、自分の興味だけで、感情だけで行動するのです。ですから、こういう顔をしているときは悲しんでいる、こういう時は怒っていると一つ一つ学習していかなければならないのです。
それなりに他人と喧嘩せずにいられるようになるには時間と努力が必要であり、かなり難しい事、奇跡的なのです。だから、学術的に価値があるのです。
同時に障害であることから少年法の趣旨の成長を期待するということ自体は、彼らにはかなり無理があるのです。

家庭裁判所調査官は,裁判所の命令により,少年の要保護性や改善更生の方法を明らかにするため,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識を活用して調査を行う(同法8条2項,9条)のであって,その調査内容は,少年等のプライバシーに属する情報を多く含んでいるのであるから,これを対外的に公表することは原則として予定されていないものというべきである。

かなりの守秘義務が課されていますよね、他人の家庭の中を覗き込む以上は。

イ 他方において,本件掲載誌における論文特集の趣旨は,本件疾患の臨床知識を共有することをもって,研究活動の促進を図るとともに,本件疾患に対する正しい理解を広めることにあったところ,上告人Y1は,このような論文特集のための公募に応じ,本件保護事件を題材とした本件論文を執筆したものである。・・・本件各公表の目的は重要な公益を図ることにあったということができる。/span>

この案件はかなり社会的要請があった案件だと思います。

本件論文に記載された事実関係を知る者の範囲は限定されており,本件論文が医療関係者や研究者等を読者とする専門誌や専門書籍に掲載するという方法で公表されたことからすると,本件論文の読者が対象少年を被上告人と同定し,そのことから被上告人に具体的被害が生ずるといった事態が起こる可能性は相当低かったものというべきである。

専門書や論文でも今や普通にネット公開される時代なので、この部分はどうかなという疑問はありますが、よほど大きな事件でもない限り個人を特定できないでしょう。ましてや不起訴処分になるような案件であれば。

結論
したがって,本件各公表が被上告人のプライバシーを侵害したものとして不法行為法上違法であるということはできない。

当然ですね。
ここで終わるかと思いきや、裁判官草野耕一の意見
1 プライバシー情報を知り得たのは,ひとえに同上告人が少年法に基づき本件保護事件を調査する権限を担当裁判官から与えられた結果に他ならない。そうである以上,上告人Y1が本件プライバシー情報を学術目的等に利用し得る場合があるとしても,被上告人の改善更生という同法の趣旨に抵触する態様で本件プライバシー情報を利用することは許されないというべきである。本件は,この点において,一般のプライバシー侵害案件に使われる判断枠組みだけでは適切な評価を行い得ない事案である。

週刊誌が芸能人のプライバシーを暴くのと違って、公務員であり職務上知り得た秘密なので、通常のプライバシーの問題とは違う判断をすべきだと言っています。

2 本件プライバシー情報の中には,被上告人が幼年時代に経験した深刻な出来事等も含まれており,多感な時期にあった当時の被上告人が本件公表の事実を知ったならば,いかほどの精神的苦痛を受けたか,そして,そのことが被上告人の改善更生にいかほどの悪影響を及ぼしたか,これらのことに思いを致すと,おそれにも似た感慨を抱かざるを得ない。

私はこの点については大いに疑問を感じます。彼らは自分の興味本位で行動しますので、他人が嫌がっているかどうかを理解する能力はかなり乏しいです。自分が正当なことを言っているのに、おかしな因縁をつけているぐらいの感覚なのです。

3 被上告人は,上告人Y1による自発的な告知により本件再公表の事実を知ったものであり,本件再公表によってプライバシー侵害の結果が現実化したということができないことは,本件公表と同じであるから,本件再公表の違法性を判断するまでもなく,本件再公表は被上告人に対する不法行為には当たらないというべきである。

これは納得です。

裁判長裁判官 岡村和美 当然
裁判官 菅野博之 当然
裁判官 三浦 守 当然
裁判官 草野耕一 当然

これが禁止されたら、次に似たような事件が起こったとき何の参考事例もなく、毎回手探りで対処しなければなりません。賠償請求が認められる=今後同様の論文を公表できないとなれば、社会的に非常に困ったことになります。当然すぎる判断です。