最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

アルバイトと正規従業員の仕事の差は何か

2020-10-23 21:14:59 | 日記
令和1(受)1055  地位確認等請求事件
令和2年10月13日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  大阪高等裁判所
無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例

朝日新聞の報道です。
正社員とは「責任に一定の違い」 最高裁、賞与認めず
非正社員と正社員の待遇格差をめぐる2件の裁判で、最高裁第三小法廷が13日、それぞれ判決を言い渡した。原告側は正社員と同じ仕事なのに賞与(ボーナス)や退職金がないのはおかしいと訴えたが、最高裁はいずれも「不合理とまで評価できない」と判断。一部の支給を認めた高裁判決を一転させた。対象となった職場の事例に限った判断だが、退職金・ボーナスの支給を認めない結論が確定した。
 通勤手当など「諸手当」の支給を認めた2018年の最高裁判決に続き、退職金・ボーナスの支給の是非が問われた訴訟だった。
・・・
第三小法廷(林景一裁判長)は、原告らと売店の正社員の仕事は「おおむね共通する」としつつ、正社員には、欠勤などでいない販売員に代わって働く役目や、複数の売店を統括するエリアマネジャーに就くこともあったと指摘。仕事や責任に一定の違いがある上、登用試験で正社員になる道もあったと述べた。
 さらに同社の退職金には「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保」を図る目的があるとして、労働条件に差を付けることは「不合理といえない」と判断。正社員の退職金の25%にあたる賠償を命じた東京高裁判決を変更し、住宅手当などの支給を認めた部分だけを維持した。


産経も朝日もほぼ同じ論調で報道していたので、引用はこれだけにしておきます。

裁判所の認定から見ます。
1 本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約を締結して勤務していた第1審原告が,期間の定めのない労働契約を締結している正職員と第1審原告との間で,賞与,業務外の疾病による欠勤中の賃金等に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったとして,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求める事案である。

ありていに言うと、同じ仕事をしているパート・アルバイトと正社員を区別するなという立法趣旨です。となると、今回の裁判では同じ仕事をしているかどうかが争点になります。

(1)ア 第1審被告は,大阪医科大学,同大学附属病院等を運営している学校法人であり,平成28年4月1日,学校法人大阪薬科大学と合併した。
イ 第1審原告は,平成25年1月29日,第1審被告との間で契約期間を同年3月31日までとする有期労働契約を締結し,アルバイト職員として勤務した。・・・契約期間を1年として上記契約を3度にわたって更新し,平成28年3月31日をもって退職した。


この制度は本当に困ったもんですよ。3年以上連続して雇用すると、正規従業員として雇わなければならない義務が生じますが、働きたい側は家庭の事情で長時間働けない、雇う側はフルで雇うほど仕事を回せない、あるいは専門性がない仕事ををして貰うのに正規従業員ではコスト高になるという問題があります。個人的には、この制度は止めて欲しいんですけどね。

(2)ア 第1審原告が在籍した当時,第1審被告には,事務系の職員として正職員,契約職員,アルバイト職員及び嘱託職員が存在したが,このうち無期労働契約を締結している職員は正職員のみであった。また,正職員と契約職員は月給制,嘱託職員は月給制又は年俸制であった。これに対し,アルバイト職員は時給制であり,このうち正職員と同一の所定労働時間である者の数は4割程度であり,短時間勤務の者の方が多かった。

でも、パートか正規かそこで働くときに選択の余地はあったはずですよね。そこで働かないという選択肢も。

イ 第1審原告が在籍した当時,規則等に基づき,正職員には,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,年次有給休暇(正職員就業規則の定める日数),夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与されていた。正職員給与規則上,基本給は,採用時の正職員の職種,年齢,学歴,職歴等をしんしゃくして決定するものとされ,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされていた。

アルバイト職員就業内規が適用されていた。アルバイト職員就業内規に基づき,アルバイト職員には,時給制による賃金の支給及び労働基準法所定の年次有給休暇の付与がされていたが,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,その余の年次有給休暇,夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった。アルバイト職員就業内規上,賃金は,職種の変更等があった場合に時給単価を変更するものとされ,昇給の定めはなかった。


規則そのものが2つあり待遇が全く違うようです。

(3)ア 正職員は,本件大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり,その業務の内容は,配置先によって異なるものの,総務,学務,病院事務等多岐に及んでいた。正職員が配置されている部署においては,定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め,中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に伴う責任は大きいものであった。
アルバイト職員は,アルバイト職員就業内規上,雇用期間を1年以内とし,更新する場合はあるものの,その上限は5年と定められており,その業務の内容は,定型的で簡便な作業が中心であった。

業務の内容の難度や責任の程度は,高いものから順に,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員とされていた。

イ 第1審被告においては,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員への試験による登用制度が設けられていた。前者については,アルバイト職員のうち,1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するものとされ,受験資格を有する者のうち3~5割程度の者が受験していた。


私立大学だからできる技ですね。公務員としての採用になりますので、国公立の学校ではこういう訳には行きません。これは国公立で訴えられたらどうするのでしょうね。受験の年齢制限もありますし。

(4)ア 正職員のうち3名は教室事務員以外の業務に従事したことはなかったところ,正職員が配置されていた教室では,学内の英文学術誌の編集事務や広報作業,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在しており,第1審被告が,アルバイト職員ではなく,正職員を配置する必要があると判断していたものであった。

非正規だからやらせられない仕事があるとしているのに、実際には非正規と同じ仕事しかしたことがない人がいると言ってますね。

賃金は時給950円であった。同契約は,同年4月以降に3度にわたって更新され,その際,時給単価が若干増額されることがあった。もっとも,具体的な職務の内容に特段の変更はなく,その業務の内容は,所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理や日程調整,電話や来客等の対応,教授の研究発表の際の資料作成や準備,教授が外出する際の随行,教室内における各種事務(教員の増減員の手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成や提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理,備品管理,清掃やごみの処理,出納の管理等であった。

バイトには遺族との対応みたいなことではなく、本当に簡単な作業のみをやらせていたようです。

(5)ア 第1審原告の平成25年4月から同26年3月までの賃金の平均月額は14万9170円であり,同期間を全てフルタイムで勤務したとすると,その賃金は月額15~16万円程度であった。これに対し,平成25年4月に新規採用された正職員の初任給は19万2570円であり,第1審原告と同正職員との間における賃金(基本給)には2割程度の相違があった。

2割の違いですか。2割増しだからと言って、遺族の世話もしろと言われても私なら断りますね。

イ 第1審被告においては,正職員に対し,年2回の賞与が支給されていた。平成26年度では,夏期が基本給2.1か月分+2万3000円,冬期が同2.5か月分+2万4000円,・・・アルバイト職員には賞与は支給されていなかった。

そもそも賞与の存在っておかしいと思うんですよ。年俸制で雇われている人は、賞与も含め月にならして支給されます。前払いか後払いかの違いで、誤解を与える以上は賞与制度は徐々になくすべきじゃないかなと思います。

ウ 第1審被告においては,正職員が私傷病で欠勤した場合,正職員休職規程により,6か月間は給料月額の全額が支払われ,同経過後は休職が命ぜられた上で休職給として標準給与の2割が支払われていた。これに対し,アルバイト職員には欠勤中の補償や休職制度は存在しなかった。

これらについて最高裁は次のように判断しました。

(1) 賞与について
ア 労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていた。
イ(ア) 第1審被告の正職員に対する賞与は,正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみ・・・正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。


それってどうなんですか?半期決算ごとに利益の一部を還元するのが賞与でしょう。定着させる目的と言い切ってしまうのは、そういう目的もない訳じゃないレベルだと思いますが。

両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また,教室事務員である正職員については,正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し,アルバイト職員については,原則として業務命令によって配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり,・・・一定の相違があったことも否定できない。

おそらくこの表現だと教室ごとに科研費か何か当たったときに雇われるのであって、予算がなくなれば終了というもののようです。そうなると教室の代表である教授が事実上上司になることになりそうです。

(ウ) そうすると,第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて,教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば,正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり,・・・アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても,教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

当然ですね。

(2) 私傷病による欠勤中の賃金について
正職員が長期にわたり継続して就労し,又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし,正職員の生活保障を図るとともに,その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。


これも無理やり感がありますね。遺族と対応するストレスフルな業務だからじゃないですか?

さらに,教室事務員である正職員が,極めて少数にとどまり,他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては,教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか,職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在するものである。・・・原告は,勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり,欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり,その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く,第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。

これも結論はその通り。説明のプロセスがやや無理やり感がありますが。

裁判官全員一致の意見
裁判長裁判官 宮崎裕子
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一
裁判官 宇賀克也
裁判官 林 道晴

正規従業員とアルバイトの業務内容は全然違いますよ。賞与や私傷病による欠勤中の賃金については、もう少し丁寧な議論があってもしかるべきだったのではないでしょうか。
これ以外の支給、例えば家族手当とか家賃手当はどう説明しますの?この辺りがすっ飛ばされているのは、どうなんだろうという気がします。