令和1(受)1190 損害賠償等請求事件
令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
時事通信の報道です。
退職金支給が争われた、東京メトロ子会社メトロコマースの駅売店で約10年間働いた元契約社員の女性2人が起こした訴訟では、同小法廷(林景一裁判長)は売店業務に従事した正社員と2人を比較。業務内容はおおむね共通するが、正社員は配置転換があるなど一定の相違があるとし、「不支給は不合理とまでは評価できない」と結論付けた。
宇賀克也裁判官は反対意見で「契約社員が正社員より長期間勤務することもある。功労報償の性質は契約社員にも当てはまる」と述べ、正社員の4分の1の支払いを認めた二審東京高裁判決の破棄には至らないとした。
読売新聞の報道です。
また、メトロ子会社の元契約社員2人が求めていた退職金についても、契約社員が売店業務に専従し配置転換もないのに対し、正社員は、複数の売店を統括しトラブル処理などにも当たり、配置転換の可能性があることなどから、格差はやむを得ないと結論づけた。
ただ、同小法廷は、旧労働契約法20条の趣旨を踏まえ、賞与や退職金の格差が不合理と認定されるケースがあり得るとも言及した。
事実認定から見ていきます。
(1)ア 第1審被告は,東京メトロの完全子会社であって,東京メトロの駅構内における新聞,飲食料品,雑貨類等の物品販売,入場券等の販売,鉄道運輸事業に係る業務の受託等の事業を行う株式会社である。
イ 第1審原告らは,X1の契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。
昔の法律ですから、パートを5年ごとにいったん解雇しなくてもOKだった時代の話です。
ア 第1審被告においては,従業員は,社員(以下「正社員」という。),契約社員A(平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ,それぞれ適用される就業規則が異なっていた。
イ 正社員は,無期労働契約を締結した労働者であり,定年は65歳であった。
ウ 契約社員Aは,主に契約期間を1年とする有期労働契約を締結した労働者である。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢をいう。以下同じ。)は65歳と定められていた。
エ 契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり,一時的,補完的な業務に従事する者をいうものとされていた。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年は65歳と定められていた。なお,契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であった。
ここまで見ると、契約社員AコースもBコースも大差ないですね。
エ 契約社員Bの労働時間は,大半の者が週40時間と定められていた。・・・正社員と異なり,配置転換や出向を命ぜられることはなかった。
オ 第1審原告ら労働時間は,1日8時間以内(週40時間以内)であった。
子育てが終わった専業主婦が再就職するための職場と言ってもいい感じですね。
(3)ア 正社員の賃金は月給制であり,月例賃金は基準賃金と基準外賃金から成り,昇格及び昇職制度が設けられていた。基準賃金は,本給,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当により,基準外賃金は,年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当等により,それぞれ構成されていた。本給は年齢給及び職務給から成り,前者は,18歳の5万円から始まり,1歳ごとに1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円であり,後者は,三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円までであった。
イ 契約社員Aの賃金は月給制であり,月例賃金額は16万5000円(本給)であった。これに加えて,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給され,本人の勤務成績等による昇給制度が設けられていた。
契約社員Aには,年2回の賞与(年額59万4000円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。なお,契約社員Aについては,平成28年4月に職種限定社員に名称が改められ,その契約が無期労働契約に変更された際に,退職金制度が設けられた。
ウ 契約社員Bの賃金は時給制の本給及び諸手当から成っていた。本給は,時間給を原則とし,業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定めるものとされており,第1審原告らが入社した当時は一律1000円であったが,平成22年4月以降,毎年10円ずつ昇給するものとされた。諸手当は,年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当等であり,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当は支給されていなかった。
契約社員Bには,年2回の賞与(各12万円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。
エ 正社員には,勤続10年及び定年退職時に金品が支給されていたのに対し,契約社員A及び契約社員Bには,これらが支給されていなかった。
3階層に従業員を分けているようですね。
(4)ア 登用制度により契約社員Bから契約社員Aを経て正社員になった者とが,約半数ずつでほぼ全体を占めていた。
イ 販売員が固定されている売店における業務の内容は,売店の管理,接客販売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務であり,これらは正社員,契約社員A及び契約社員Bで相違することはなかった。・・・契約社員Aも,正社員と同様に代務業務を行っていた。これに対し,契約社員Bは,原則として代務業務を行わず,エリアマネージャー業務に従事することもなかった。
(5) 第1審被告においては,契約社員Bから契約社員A,契約社員Aから正社員への登用制度が設けられ,平成22年度から導入された登用試験では,原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。平成22年度から同26年度までの間においては,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名が,それぞれ合格した。
有名無実の正社員化の試験ではなく、実際に正社員になった人もいるとなると、職務給の問題ではなく通常の人事評価の可能性がありますね。
(6) 第1審被告は,第1審原告らが加入する労働組合との団体交渉を経て,契約社員Bの労働条件に関し,平成21年以降,年末年始出勤手当,早番手当及び皆勤手当の導入や,年1日のリフレッシュ休暇及び会社創立記念休暇(有給休暇)の付与などを行った。
待遇改善はかなり進んでいたようです。
最高裁の判断は
(2)ア 第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。・・・第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
この辺りはどうかと思います。そもそも、転勤などに応じる義務があるからと言って、実際に応じたから支給されたとは書いていません。さらに従業員の定着云々は、長くいたからと言って役に立っているとは限りません。ここはどうなんでしょうか。日本は海外と違って、役に立たないからと簡単に解雇できない制度であるので、長くいる云々は理由にならないと思います。
イ 両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。・・・審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。
この部分は納得です。
ウ そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
やはり、パート従業員から正社員登用制度もあるし、これは不合理ではないよねと言っています。
結論
売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
裁判官林景一の補足意見
1 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たっては両者の職務の内容等を考慮すべき旨を規定しており,その判断に当たっては,当該労働条件の性質やこれを定めた目的を踏まえて検討すべきものである。・・・・第1審原告らに対し退職金を支給しないことが不合理であるとまで評価することができるものとはいえないといわざるを得ない。・・・退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。
退職金って積み立てていかなければならないから、そりゃ会社の業績にも影響しちゃうからも少し慎重に考えていいよと言っているようです。
有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。
要するに、自社で丸抱えしなくてもいろんな制度があるからそちらで何とかしてやったら?と言っているようです。裁判官林道晴は,裁判官林景一の補足意見に同調しています。
裁判官宇賀克也の反対意見
長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ,第1審被告の上告及び第1審原告らの上告は,いずれも棄却すべきものと考える。・・・契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期契約労働者として採用されるものの,当該労働契約は原則として更新され,定年が65歳と定められており,正社員と同様,特段の事情がない限り65歳までの勤務が保障されていたといえる。契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であるから,契約社員Bは,平均して約18年間にわたって第1審被告に勤務することが保障されていたことになる。
おいおい、18年間雇用が保証される?はぁ?アホか。最大限勤務可能であって保証はあり得ないですよ。労働法を読んだことあります?
裁判長裁判官 林 景一
裁判官 戸倉三郎
裁判官 宮崎裕子
裁判官 宇賀克也 アホか!
裁判官 林 道晴
宇賀地裁判官は、丸のまま共産主義的発想ですね。労働契約は雇用者と被雇用者の対等な契約ですよ。雇われる権利なんぞありませんし、保証なんかもあり得ません。
この裁判とは若干ずれますが、退職金制度自体なくすべきだと思います。そもそも、今働いた分を正当に評価して給与を支給すべきであって、過去に働いた分を後払いするという方が問題だと思います。それに今勤務する会社がいつまでも存在する保証はない訳ですよ。ということは賃金の未払いが発生する可能性が高いわけで、それこそ違法性のある制度だと思いませんか?企業年金も同様です。JALもこれに悩まされて一次的とは言え国営化したわけですし。
令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
時事通信の報道です。
退職金支給が争われた、東京メトロ子会社メトロコマースの駅売店で約10年間働いた元契約社員の女性2人が起こした訴訟では、同小法廷(林景一裁判長)は売店業務に従事した正社員と2人を比較。業務内容はおおむね共通するが、正社員は配置転換があるなど一定の相違があるとし、「不支給は不合理とまでは評価できない」と結論付けた。
宇賀克也裁判官は反対意見で「契約社員が正社員より長期間勤務することもある。功労報償の性質は契約社員にも当てはまる」と述べ、正社員の4分の1の支払いを認めた二審東京高裁判決の破棄には至らないとした。
読売新聞の報道です。
また、メトロ子会社の元契約社員2人が求めていた退職金についても、契約社員が売店業務に専従し配置転換もないのに対し、正社員は、複数の売店を統括しトラブル処理などにも当たり、配置転換の可能性があることなどから、格差はやむを得ないと結論づけた。
ただ、同小法廷は、旧労働契約法20条の趣旨を踏まえ、賞与や退職金の格差が不合理と認定されるケースがあり得るとも言及した。
事実認定から見ていきます。
(1)ア 第1審被告は,東京メトロの完全子会社であって,東京メトロの駅構内における新聞,飲食料品,雑貨類等の物品販売,入場券等の販売,鉄道運輸事業に係る業務の受託等の事業を行う株式会社である。
イ 第1審原告らは,X1の契約社員Bとして第1審被告に採用され,契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら,東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた。第1審原告X2については平成26年3月31日,第1審原告X1については同27年3月31日,いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。
昔の法律ですから、パートを5年ごとにいったん解雇しなくてもOKだった時代の話です。
ア 第1審被告においては,従業員は,社員(以下「正社員」という。),契約社員A(平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ,それぞれ適用される就業規則が異なっていた。
イ 正社員は,無期労働契約を締結した労働者であり,定年は65歳であった。
ウ 契約社員Aは,主に契約期間を1年とする有期労働契約を締結した労働者である。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年(更新の上限年齢をいう。以下同じ。)は65歳と定められていた。
エ 契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり,一時的,補完的な業務に従事する者をいうものとされていた。同期間満了後は原則として契約が更新され,就業規則上,定年は65歳と定められていた。なお,契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であった。
ここまで見ると、契約社員AコースもBコースも大差ないですね。
エ 契約社員Bの労働時間は,大半の者が週40時間と定められていた。・・・正社員と異なり,配置転換や出向を命ぜられることはなかった。
オ 第1審原告ら労働時間は,1日8時間以内(週40時間以内)であった。
子育てが終わった専業主婦が再就職するための職場と言ってもいい感じですね。
(3)ア 正社員の賃金は月給制であり,月例賃金は基準賃金と基準外賃金から成り,昇格及び昇職制度が設けられていた。基準賃金は,本給,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当により,基準外賃金は,年末年始勤務手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当等により,それぞれ構成されていた。本給は年齢給及び職務給から成り,前者は,18歳の5万円から始まり,1歳ごとに1000円増額され,40歳以降は一律7万2000円であり,後者は,三つの職務グループ(スタッフ職,リーダー職,マネージャー職)ごとの資格及び号俸により定められ,その額は10万8000円から33万7000円までであった。
イ 契約社員Aの賃金は月給制であり,月例賃金額は16万5000円(本給)であった。これに加えて,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,早番手当,通勤手当その他の諸手当が支給され,本人の勤務成績等による昇給制度が設けられていた。
契約社員Aには,年2回の賞与(年額59万4000円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。なお,契約社員Aについては,平成28年4月に職種限定社員に名称が改められ,その契約が無期労働契約に変更された際に,退職金制度が設けられた。
ウ 契約社員Bの賃金は時給制の本給及び諸手当から成っていた。本給は,時間給を原則とし,業務内容,技能,経験,業務遂行能力等を考慮して個別に定めるものとされており,第1審原告らが入社した当時は一律1000円であったが,平成22年4月以降,毎年10円ずつ昇給するものとされた。諸手当は,年末年始出勤手当,深夜労働手当,早出残業手当,休日労働手当,通勤手当,早番手当,皆勤手当等であり,資格手当又は成果手当,住宅手当及び家族手当は支給されていなかった。
契約社員Bには,年2回の賞与(各12万円)が支給されていたが,退職金は支給しないと定められていた。
エ 正社員には,勤続10年及び定年退職時に金品が支給されていたのに対し,契約社員A及び契約社員Bには,これらが支給されていなかった。
3階層に従業員を分けているようですね。
(4)ア 登用制度により契約社員Bから契約社員Aを経て正社員になった者とが,約半数ずつでほぼ全体を占めていた。
イ 販売員が固定されている売店における業務の内容は,売店の管理,接客販売,商品の管理,準備及び陳列,伝票及び帳票類の取扱い,売上金等の金銭取扱い,その他付随する業務であり,これらは正社員,契約社員A及び契約社員Bで相違することはなかった。・・・契約社員Aも,正社員と同様に代務業務を行っていた。これに対し,契約社員Bは,原則として代務業務を行わず,エリアマネージャー業務に従事することもなかった。
(5) 第1審被告においては,契約社員Bから契約社員A,契約社員Aから正社員への登用制度が設けられ,平成22年度から導入された登用試験では,原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。平成22年度から同26年度までの間においては,契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が,正社員への登用試験につき同105名のうち78名が,それぞれ合格した。
有名無実の正社員化の試験ではなく、実際に正社員になった人もいるとなると、職務給の問題ではなく通常の人事評価の可能性がありますね。
(6) 第1審被告は,第1審原告らが加入する労働組合との団体交渉を経て,契約社員Bの労働条件に関し,平成21年以降,年末年始出勤手当,早番手当及び皆勤手当の導入や,年1日のリフレッシュ休暇及び会社創立記念休暇(有給休暇)の付与などを行った。
待遇改善はかなり進んでいたようです。
最高裁の判断は
(2)ア 第1審被告は,退職する正社員に対し,一時金として退職金を支給する制度を設けており,退職金規程により,その支給対象者の範囲や支給基準,方法等を定めていたものである。・・・第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
この辺りはどうかと思います。そもそも、転勤などに応じる義務があるからと言って、実際に応じたから支給されたとは書いていません。さらに従業員の定着云々は、長くいたからと言って役に立っているとは限りません。ここはどうなんでしょうか。日本は海外と違って、役に立たないからと簡単に解雇できない制度であるので、長くいる云々は理由にならないと思います。
イ 両者の業務の内容はおおむね共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは,売店業務に専従していたものであり,両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。・・・審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。
この部分は納得です。
ウ そうすると,第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
やはり、パート従業員から正社員登用制度もあるし、これは不合理ではないよねと言っています。
結論
売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で,契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
裁判官林景一の補足意見
1 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たっては両者の職務の内容等を考慮すべき旨を規定しており,その判断に当たっては,当該労働条件の性質やこれを定めた目的を踏まえて検討すべきものである。・・・・第1審原告らに対し退職金を支給しないことが不合理であるとまで評価することができるものとはいえないといわざるを得ない。・・・退職金制度を持続的に運用していくためには,その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから,退職金制度の在り方は,社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると,退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きいものと解されよう。
退職金って積み立てていかなければならないから、そりゃ会社の業績にも影響しちゃうからも少し慎重に考えていいよと言っているようです。
有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり,有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり,その他にも,有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。
要するに、自社で丸抱えしなくてもいろんな制度があるからそちらで何とかしてやったら?と言っているようです。裁判官林道晴は,裁判官林景一の補足意見に同調しています。
裁判官宇賀克也の反対意見
長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金,具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ,第1審被告の上告及び第1審原告らの上告は,いずれも棄却すべきものと考える。・・・契約社員Bは,契約期間を1年以内とする有期契約労働者として採用されるものの,当該労働契約は原則として更新され,定年が65歳と定められており,正社員と同様,特段の事情がない限り65歳までの勤務が保障されていたといえる。契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であるから,契約社員Bは,平均して約18年間にわたって第1審被告に勤務することが保障されていたことになる。
おいおい、18年間雇用が保証される?はぁ?アホか。最大限勤務可能であって保証はあり得ないですよ。労働法を読んだことあります?
裁判長裁判官 林 景一
裁判官 戸倉三郎
裁判官 宮崎裕子
裁判官 宇賀克也 アホか!
裁判官 林 道晴
宇賀地裁判官は、丸のまま共産主義的発想ですね。労働契約は雇用者と被雇用者の対等な契約ですよ。雇われる権利なんぞありませんし、保証なんかもあり得ません。
この裁判とは若干ずれますが、退職金制度自体なくすべきだと思います。そもそも、今働いた分を正当に評価して給与を支給すべきであって、過去に働いた分を後払いするという方が問題だと思います。それに今勤務する会社がいつまでも存在する保証はない訳ですよ。ということは賃金の未払いが発生する可能性が高いわけで、それこそ違法性のある制度だと思いませんか?企業年金も同様です。JALもこれに悩まされて一次的とは言え国営化したわけですし。