ドキュメンタリー映画『Talk Back トークバック 沈黙を破る女たち』をやっと観る。
坂上香監督は前作『Lifers ライファーズ 終身刑を越えて』が、燐光群が同時期に翻訳上演した『ときはなたれて』と、アメリカの囚人たちを描くという共通点があり、出会った。アフタートークにも出てもらった。
『ときはなたれて』はアメリカの友人たちが「これは坂手向きだ」と勧めてくれたドキュメンタリー劇で、梅ヶ丘BOXで一ヶ月のロングラン上演、大阪の精華小劇場のオープニングでも上演した。一昨日大阪で精華小劇場の立役者・小堀純さんとその話をしたばかりだ。懐かしい。
坂上監督の十年ぶりの新作『Talk Back トークバック 沈黙を破る女たち』は、サンフランシスコを拠点とする女だけの劇団The Medea Project: Theater for Incarcerated Womenに関する、前作同様に熱の籠もったドキュメンタリー映画である。元受刑者、薬物依存症者、HIV/AIDS陽性者らが、HIVと共に生きる現実を芝居にしていく過程を追っている。主人公は人種も背景も異なる、多様な女性たちである。解説に、「どん底」を生き抜いてきた女たちが、演劇を通して、変容を遂げていく過程を追ったドキュメンタリー、とある通りなのだが、撮影者は被写体に見事に接近していて、心を開かせているのを感じる。映画のクルーではなく、仲間が見ていると感じさせているらしい空気というべきか。前作と共通したスタンスを感じさせるから、これは監督チームの個性なのだろう。
正直、最初の辺りは、この女ばかりの劇団の演劇スタイルが私にはちょっと苦手な種類のものであるように感じられ、大仰に感じられる音楽と相まって、ちょっと引いたところで観ていたと思う。ところが坂上監督は前作同様に、運びというか、筋道の持ってゆき方がうまく、それぞれの人物のバックグラウンドの紹介の仕方、その順序もよく考えられていて巧みで、苦手だと感じられた部分も、やがて理解できるものに変わっていく。対象がクリアになれば、音楽も抑えていく。見せ所がわかっているために、外枠の手つきを次第に不要とする、要は「引き算」になっているのだ。編集段階で粘りに粘ってコンテキストを際立てさせたのだろう。
登場する一人一人がとても魅力的である。次第に素敵に見えてくる、というところが、深い。アメリカという国を感じさせながら、日本にも同様に迫っている問題と感じさせる所も含めて、普遍的な境地に至っている。
坂上監督に私の最新作『現代能楽集 初めてなのに知っていた』について、「あの劇、台詞いっぱいあるよね、全部書いたの?」と問われる。そりゃ書いたんだよ、と答えると、即興の部分もあったんじゃないんだ、と妙に感心される。私の劇は戯曲はあってもどこかドキュメンタリーみたいだからな、という気もするが。
彼女はまもなく、日本の刑務所を取材する新作の撮影に入るという。七年粘って許可が下りたのだそうだ。
ともあれ、素敵な同時代の表現者がいるのは、幸福なことである。
『Talk Back トークバック 沈黙を破る女たち』は、東京・渋谷イメージフォーラムで上映中。大阪第七芸術劇場、京都シネマ他で順次上映予定。
http://talkbackoutloud.com/
坂上香監督は前作『Lifers ライファーズ 終身刑を越えて』が、燐光群が同時期に翻訳上演した『ときはなたれて』と、アメリカの囚人たちを描くという共通点があり、出会った。アフタートークにも出てもらった。
『ときはなたれて』はアメリカの友人たちが「これは坂手向きだ」と勧めてくれたドキュメンタリー劇で、梅ヶ丘BOXで一ヶ月のロングラン上演、大阪の精華小劇場のオープニングでも上演した。一昨日大阪で精華小劇場の立役者・小堀純さんとその話をしたばかりだ。懐かしい。
坂上監督の十年ぶりの新作『Talk Back トークバック 沈黙を破る女たち』は、サンフランシスコを拠点とする女だけの劇団The Medea Project: Theater for Incarcerated Womenに関する、前作同様に熱の籠もったドキュメンタリー映画である。元受刑者、薬物依存症者、HIV/AIDS陽性者らが、HIVと共に生きる現実を芝居にしていく過程を追っている。主人公は人種も背景も異なる、多様な女性たちである。解説に、「どん底」を生き抜いてきた女たちが、演劇を通して、変容を遂げていく過程を追ったドキュメンタリー、とある通りなのだが、撮影者は被写体に見事に接近していて、心を開かせているのを感じる。映画のクルーではなく、仲間が見ていると感じさせているらしい空気というべきか。前作と共通したスタンスを感じさせるから、これは監督チームの個性なのだろう。
正直、最初の辺りは、この女ばかりの劇団の演劇スタイルが私にはちょっと苦手な種類のものであるように感じられ、大仰に感じられる音楽と相まって、ちょっと引いたところで観ていたと思う。ところが坂上監督は前作同様に、運びというか、筋道の持ってゆき方がうまく、それぞれの人物のバックグラウンドの紹介の仕方、その順序もよく考えられていて巧みで、苦手だと感じられた部分も、やがて理解できるものに変わっていく。対象がクリアになれば、音楽も抑えていく。見せ所がわかっているために、外枠の手つきを次第に不要とする、要は「引き算」になっているのだ。編集段階で粘りに粘ってコンテキストを際立てさせたのだろう。
登場する一人一人がとても魅力的である。次第に素敵に見えてくる、というところが、深い。アメリカという国を感じさせながら、日本にも同様に迫っている問題と感じさせる所も含めて、普遍的な境地に至っている。
坂上監督に私の最新作『現代能楽集 初めてなのに知っていた』について、「あの劇、台詞いっぱいあるよね、全部書いたの?」と問われる。そりゃ書いたんだよ、と答えると、即興の部分もあったんじゃないんだ、と妙に感心される。私の劇は戯曲はあってもどこかドキュメンタリーみたいだからな、という気もするが。
彼女はまもなく、日本の刑務所を取材する新作の撮影に入るという。七年粘って許可が下りたのだそうだ。
ともあれ、素敵な同時代の表現者がいるのは、幸福なことである。
『Talk Back トークバック 沈黙を破る女たち』は、東京・渋谷イメージフォーラムで上映中。大阪第七芸術劇場、京都シネマ他で順次上映予定。
http://talkbackoutloud.com/