さて、倉渕の朝は明け、早起きのHが階下でパソコン作業などをしている音を寝ぼけ眼で聴きつつ、いつのまにか起床。朝食を摂り、今日の課業である、切り出した竹の焼却作業。9時頃作業開始。都会では焚き火などもはや贅沢なもので、一般人が勝手にできるようなものではないが、ここの山の中でも、野焼きはご法度とのお達しがお上から回ってきているという。しかし、まあ目立たない程度にちょぼちょぼと(実は盛大に)古竹を燃やす作業に精を出す。最初はもちろん焚き火などものめずらしさも手伝って、夢中になってやっていたのだが、竹を折るのに一苦労して、やがて足腰は痛くなってくるは、強い火勢に攻め立てるはで閉口した。しかし、火というのは人間の精神の均衡や安定を保つのに欠かせないというのが山登りをしていた頃からのオカブの持論で、キャンプファイヤーや火祭など、火に絡ませた古今東西のセレモニーのなんと多いことよ。そこで体は疲れたが、心は火に当たって実に和んだ次第。さて、今朝は朝からどんよりとした曇り空だったが、昼前からぱらぱらと雨が落ちてきた。次第に雨脚も強まり、雨を騙し騙しの焼却作業。一通り燃やし尽くしたのを見計らって、作業終了。田舎の仕事は暢気というか、肉体労働だと連続作業では身体がもたない。それからHの敷地で筍堀と山菜摘みをした。筍は初心者だと結構掘るのが難しく深く掘り取ることのできたのはわずかばかり。山菜摘みはタラの芽、山独活、そして蕨。特にHの蕨田はこの都会では貴重な山菜の宝庫で、たちまち一抱えも蕨が取れた。それにしてもHがこぼすには、山菜を狙った闖入者が後を絶たず、特にタラの木からタラの芽を片っ端からもぎ取っていき、木を枯らしてしまう不心得者がいるということだ。昼食はK夫人お手製の美味しい山菜入り焼きそば。そして午後はH夫妻が榛名湖まで案内してくれた。雨に煙る山上の湖もいいものだ。途中の道筋はつつじ、水仙、山桜が満開で実に豪勢なドライブだった。そして榛名湖温泉で汗を流す。熱い湯に雨にぬれた手足を伸ばし、実にいい気分だった。露天風呂に浸かって湖面を眺めると、雨とともに山霧が水面を隠したり見せたりしてなかなかの趣のある風景を楽しんだ。そして、家に帰るとK夫人が採ったタラの芽、独活で天麩羅を、筍は若竹、蕨は炒り煮と結構な山菜尽くしの晩餐でもてなしてくれた。もちろんHと酒になったことはいうまでもない。この上はH家のご好意に存分に甘えることとしよう。帰京する明日の好天を願って十一時頃就寝。
榛名山湖畔の湯に落つ五月雨や 素閑