花屋で南瓜を買った。飾り用ではなく食用である。何故花屋で南瓜なのかといえばハロウィンが近いからで最近の流行である。また数年前からこの国も南瓜の味に目覚めている。以前はシンデレラが乗れないまでも子豚の馬車ならば十分と言うような明るいオレンジ色の巨大な南瓜や柔らかいのでハロウィンのランタン作りには最適というような実が秋の畑に点々転がっていたわけだけれども煮ても焼いても旨くない。ちょっと火にかけるだけでぐずぐずと崩れる軟弱さは日本の南瓜煮風料理にはまったく不向きで胡瓜のように甘酢漬けにして食べられる。一度この国に来て間もなくガラス瓶に入ったそれを見つけて早速試してみたが甘酸っぱいだけで味もなくどうやっても食べ続ける気分になれずに仕方なく捨てた。それ以来甘酢漬け南瓜は食べていないが最近その甘酢漬け南瓜を使った南瓜パイのレシピを見つけた。ひょっとしてもしかして意外にも万が一美味しい可能性があるだろうか。この国で現在の人気種は”ホッカイドウ”という。北海道品種改良されたオレンジ色の南瓜で果肉は上記の南瓜に比べると引き締まって甘みもある。アメリカから日本へ渡来し改良されてヨーロッパに到着したわけだが"子豚馬車用南瓜”の品種改良だという。もっとも西洋南瓜は南アメリカの高原乾燥地帯原産であるからこの国でも問題なく育つのだろう。"グリーン・ホッカイドウ”という名も最近目に付く。こちらはオレンジ・ホッカイドウよりもさらに実が引き締まって甘みもさらに強く味が良い。日本の”エビス南瓜”に近い。以前南瓜祭りなるものに出掛けたことがあったが100種以上数千個の南瓜が道なりに整列しピラミッドになり人形になり乗り物になりなかなかな見ものであった。どういうわけかトウモロコシ畑の真ん中に南瓜祭り会場は設けられて立ち枯れトウモロコシの壁に四方を囲まれており、隅には砂が敷かれて擬似浜辺が出現しカリブ風を装ったわらぶき屋根屋台で飲み物を販売していた。その名も"パンプキンビーチ”である。この感性に乾杯。異空間"とうもろこし海”に浮かぶ島の"南瓜浜辺"に点在する寝椅子にくつろぎながらビールを飲む不思議さは案外味わいがある。さて冒頭の南瓜である。濃緑色の径20cmほどの南瓜である。その腹に包丁を突き立てるが刃は果肉に囚われ抜き差しならず振り回し罵りながら調理台に叩きつけ汗水たらし危うく我が指を落とす寸前パキリと割れた。割れてみるとさっきの頑固さは息を潜めて従順に切られてゆく。今夜は南瓜を食べる。