読書日和

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「光」三浦しをん

2008-12-08 21:47:05 | 小説
今回ご紹介するのは「光」(著:三浦しをん)です。

-----内容-----
あれは罪じゃない。するべきことをしただけだ。
天災ですべてを失った中学生の信之。
共に生き残った幼なじみの美花を救うため、彼はある行動をとる。
二十年後、過去を封印して暮らす信之の前に、もう一人の生き残り・輔(たすく)が姿を現わす。
あの秘密の記憶から、今、新たな黒い影が生まれようとしていた―。

-----感想-----
久しぶりに三浦しをんさんの小説を読みました。
三浦しをんさんのすごいところは、一作ごとに作風が違っている点だと思います。
今回の「光」は、タイトルとは全く逆の、闇の雰囲気を持っていました。

物語は大きく五段落に分かれています。
それぞれの段落ごとに、語り手が変わっていくという構成でした。
最初の一段落は、美浜島という島が舞台になっています。
中学生の信之と美花、小学生の輔などがその島で暮らしていました。
人口は300人足らずの、のどかな島です。
この島にある日、恐ろしい天災が降りかかります。
生き残ったのはわずかに5人。
信之の両親などもみな死んでしまいました。
信之の幼なじみの美花も生き残っていたのですが、美花の身にトラブルが起こり、信之は美花を救うためにある犯罪をしてしまいます。
事件は信之と美花の胸の内にしまわれ、全ては闇に葬り去られた……はずでした。
しかし二十年後、もう一人の生き残りである輔が信之の前に現われたことによって、封印されていたはずの事件が呼び起こされます。

信之の重い過去を背負って生きる姿は、松本清張の「砂の器」と似ているなと思いました。
砂の器は2004年の1~3月に連続ドラマになったので、ご存知の人もいるかと思います。
忘れたい過去の記憶が、唐突に現われた人物によって引っ掻き回されるのは、嫌なものだと思います。

信之の前に輔が現われたことによって、かなり重い人間ドラマが繰り広げられていくことになります。
今まで読んできた三浦しをんさんの作品の中では一番重い作品でした。
こういった作品も書けるのかと思いました。

第二~第五段落は、美浜島時代から二十年後が舞台です。
信之は既に結婚し、子供もいます。
各段落は、それぞれの語り手から見た過去のことや、現在のことが描かれています。
ある段落では、輔は最低な人間だなと思ったのですが、次の段落では信之もひどい奴かも…と思ったりしました。
信之の妻の南海子もひどいところのある人で、それぞれの人物の心の影の部分が描かれているような作品だったと思います。
そういった意味では、少し「私が語りはじめた彼は」と似ているような気もします。
しかし「私が語り始めた彼は」はシリアスさの中に人間ドラマの面白さがある感じでしたが、こちらはシリアスさの中に人間の醜さや怖さがある作品でした。
それでも終わり方が比較的穏やかだったので、読後感はそれほど悪くなかったです。
この静かに燃え上がるような人間ドラマの中で、最後がうまくまとまったのは、さすが三浦しをんさんだと思います。

今回も三浦しをんさんの新たな一面が見られました。
ただ、だいぶ重い作品だったので、次はもう少し軽めの作品を読みたいなと思います。
来年は「まほろ駅前多田便利軒」の続編となる「まほろ駅前番外地」が発売されると思うので、今から楽しみです


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